新薬雑感:サチュロ錠

まずは基本情報

販売名 サチュロ錠100mg
名前の由来 (インタビューフォーム未公開のため不明)
一般名 ベダキリンフマル酸塩錠
会社名 ヤンセンファーマ(株)
薬効 ATP合成酵素阻害薬
効能・効果 <適応菌種>本剤に感性の結核菌
<適応症>多剤耐性肺結核
用法・用量 〔1~2週目〕
1回400mg 1日1回 食直後 経口投与
〔3週目以降〕
1回200mg 週3回
48時間以上の間隔をあけて食直後 経口投与必ず他の抗結核薬と併用(3剤以上)
(投与期間は、原則6ヵ月)

肺結核ってこういう疾患

結核は結核菌の感染によって発症する感染症(2類感染症)です。
昔の病気というイメージがありますが、今でも1日50人の患者が発生する日本の重大な感染症です。5)

医療従事者側も「結核は過去の疾患」と認識しているきらいがあり、診断の遅れ等からいまだに集団発生が発生しています。
厚生労働省の事務連絡に過去の集団発生件数がありました。6)
意外と小学校とか中学校でも発生してるんですね~。

ただ、ご安心ください。
結核は予防も治療も出来る疾患です。

予防にはBCGワクチンが有用です。
生後1歳までにBCGワクチンを接種すると、小児の結核発症を52~74%程度、重篤な髄膜炎や全身性の結核の罹患リスクを64~78%程度減らせるようです。7)

治療は抗結核薬を6~9ヵ月毎日服薬します。
服薬期間が長期にわたること、服薬中止により耐性菌が出現すると、治療に使える薬が無くなってしまうことから、DOTS(ドッツ:直接服薬確認療法)による治療完遂支援が実施されています。8)

DOTSってなんじゃらほい?という方は杉並区薬剤師会が丁寧に説明してくださっておりますので、ご参考まで。
多分、各地域で「こんな感じでやります~」という指針を出してるはず。

参考 結核患者 薬局直接服薬支援(DOTS)について杉並区薬剤師会

なお、治療は医療費助成が受けられます。9),10)

結核治療に対する公費助成
※詳細は各都道府県のWebサイト等をご確認ください。

助成制度 概要
結核医療費助成 費用の95%が公費負担
入院勧告を受けて入院した場合:全額公費負担(所得に応じた自己負担金あり)
結核児童療育給付 長期の入院が必要な児童:全額公費負担、学用品・日用品を支給(所得に応じた自己負担金あり)

主な抗結核薬

肺結核は、最低でも3剤、通常4~5剤の多剤併用療法で治療します。11)

薬剤名〔主な販売名〕
1st-line drugs(a) リファンピシン〔リファジン〕
リファブチン〔ミコブティン〕
イソニアジド〔イスコチン〕
ピラジナミド〔ピラマイド〕
1st-line drugs(b) ストレプトマイシン
エタンブトール〔エサンブトール〕
2st-line drugs レボフロキサシン〔クラビット〕
カナマイシン
エチオナミド〔ツベルミン〕
エンビオマイシン〔ツベラクチン〕
パラアミノサリチル酸〔ニッパス〕
サイクロセリン
多剤耐性肺結核用薬 デラマニド〔デルティバ〕
ベダキリン〔サチュロ〕

併用薬剤は、基本的には上から順に選択します。
(サチュロとデルティバは除く。また薬効類似品は併用しない(例:リファンピシンとリファブチン、ストレプトマイシンとカナマイシンとエンビオマイシン))

薬剤感受性に問題がない場合は、リファンピシン+イソニアジド+ピラジナミド+エタンブトールの4剤を併用します。
むかーし、大学で習った覚えが…がんばって暗記した記憶がボンヤリとあります。

サチュロってこういうくすり

  • 国内2剤目の多剤耐性肺結核治療薬
  • 結核菌のATP合成酵素を特異的に阻害
  • 必ず他剤と併用する

サチュロはデルティバに続く、国内2剤目の多剤耐性肺結核治療薬です。
新しい作用機序の薬剤で、結核菌のATP合成酵素を特異的に阻害して、効果を発揮します。1)

適応に「多剤耐性」肺結核と記載されているように、治療に使える薬剤が足りなくなったときに、はじめて選択できる薬剤です。11)
ただし単剤で使用すると高い確率で治療が失敗し、結核菌の薬剤耐性がさらに進む恐れがあるため、必ず3剤以上の他剤と併用して使用します。12)

サチュロを使う際には登録が必要です

多剤耐性肺結核は治療失敗すると使える薬剤がなくなってしまうため、専門施設で専門家が治療を実施すべき疾患です。11)
ですので、添付文書にも使用する際には登録が必要な旨、記載されています。3)

【警告】
本剤に対する耐性菌発現を防ぐため、結核症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導のもとで投与し、適正使用に努めること。[本剤の投与は、製造販売業者が行うRAP(Responsible Access Program)に登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対して行うこと。]

まだヤンセンさんのwebサイトにはシステムに関する記載はありませんが、おそらく現在デルティバで運用されているような登録システムが作られると思われます。
↓こんなやつ

参考 デルティバ適格性確認の流れ[PDF]大塚製薬(医療従事者向け) 参考 デルティバ適格性確認システム登録の手引き[PDF]大塚製薬(医療従事者向け)

既存薬と違う点は?

デルティバと違う点は?

  • 位置づけは一緒
  • [注]肝障害を有する例は、デルティバが優先
  • [注]両剤ともQT延長に注意

サチュロとデルティバのどちらを使うべきかについては、いまのところ特に決まった方針はありません12)

ただし、サチュロは肝障害の頻度が高いため、肝障害を有する例ではデルティバを優先して使用します。12)
添付文書上だと、デルティバが慎重投与でサチュロは特に記載なしなのですが…。

妊婦については症例数が少ないため、指針に記載はありません。12)
ただデルティバが禁忌なので、実質的にはサチュロを使うことになりそうです。

販売名
(成分名)
サチュロ錠
(ベダキリン)
デルティバ錠
(デラマニド)
薬効 ATP合成酵素阻害 ミコール酸生合成阻害
用法(成人) 〔1~2週目〕
1回400mg 1日1回 食直後
〔3週目以降〕
1回200mg 週3回 48時間以上の間隔をあけて食直後
1回100mg (2錠)
1日2回 朝・夕食後
肝機能障害患者への投与
(重度肝機能障害患者は試験未実施)
慎重投与
(薬物動態試験未実施)
腎機能障害患者への投与
(重度の腎機能障害患者または透析中の末期腎不全患者は試験未実施)

(軽度の腎機能障害については、本薬の薬物動態に影響を及ぼさない16)
高齢者への投与 慎重投与
妊婦への投与 使用上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること 禁忌
授乳婦への投与 授乳を中止させること 本剤投与中は授乳を避けさせること
小児への投与 使用経験なし 18歳未満の患者に対する使用経験なし

注意しておきたいことは?

注意
心電図QT延長(重要な特定されたリスク)
肝機能障害(重要な特定されたリスク)

注意すべき有害事象(RMP)(2018.5.9追記)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 心電図QT延長 ・添付文書(警告、慎重投与、重要な基本的注意、相互作用、重大な副作用)および患者向医薬品ガイドで注意喚起
・Responsible Access Program(RAP)における適格性確認システムによる薬剤納入適否の判断
・医療関係者向け資材・患者向け資材の作成と提供
肝機能障害 ・添付文書(重要な基本的注意、重大な副作用、その他の副作用)で注意喚起
・Responsible Access Program(RAP)における適格性確認システムによる薬剤納入適否の判断
・医療関係者向け資材・患者向け資材の作成と提供
重要な潜在的リスク なし
重要な不足情報 なし

心電図QT延長

注意
・使用中は、少なくとも月1回以上の心電図検査を実施12)
・投与終了後も6ヵ月後まで経過観察12)
QT延長は、薬剤性QT延長症候群の原因となる心電図の波形異常です。
Torsade de Pointes(TdP:トルサード・ド・ポワント13))と呼ばれる特殊な心室頻拍等を生じると、めまい、失神などの脳虚血症状や突然死をきたすことから、予防と早期発見・早期対応が極めて重要な副作用です。

サチュロは、投与によりQT延長が認められたことから、添付文書に以下のように記載されています。

【警告】
本剤の投与によりQT延長があらわれるおそれがあるので、投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査等を行い、リスクとベネフィットを考慮して本剤の投与を慎重に判断すること。

【慎重投与】(一部略記)
1.QT延長のある患者
2.QT延長を起こしやすい患者
3.QT延長を起こすことが知られている薬剤を服用している患者
(併用注意:フルオロキノロン系抗菌薬(モキシフロキサシン等)、ケトコナゾール(経口剤:国内未発売)、デラマニド、クロファジミン)

多剤耐性肺結核は治療の選択肢が限られているので、クラビットやデルティバなどのQT延長リスクを有する薬剤を併用せざるを得ない場合があります。2)
そういった際は特に、定期的な心電図検査等で早期発見に努めることが必要です。

参考:薬剤性TdPを助長する患者側のリスク因子14)

注意
・高齢者
・女性
・徐脈
・低カリウム血症や低マグネシウム血症などの血清電解質異常
・心筋梗塞、心不全や心肥大などの心疾患
・糖尿病
・患者の薬物代謝系の障害
・肝臓での代謝酵素阻害作用を持つ薬剤の併用
・利尿剤の多用、重症の下痢、過度のダイエットなど
・患者の遺伝的素因

肝機能障害

注意
・使用中は、少なくとも月1回以上の肝機能検査を実施12)
・注意する症状15):「倦怠感」、「食欲不振」、「発熱」、「黄疸」、「発疹」、「吐き気・おう吐」、「かゆみ」など

国内臨床試験でグレード3以上の臨床検査値異常(ALT・AST増加)が見られており、こちらも定期的な検査が必要です。
添付文書には以下のように記載されています。

【重要な基本的注意】
肝機能障害があらわれることがあるので、本剤投与中は定期的に肝機能検査を行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。

まとめ

サチュロ使用の適否の判断基準

  • 既存薬で4~5剤目として使用できる薬剤がない場合:使用されるべき
  • 既存薬で5剤が使用可能の場合:使用は否定しない
  • 既存薬で1~2剤が使用可能の場合:使用は否定しないが、慎重な取扱いが必要
  • すでに肝機能障害がある場合、デルティバを優先して使う
  • 6ヵ月以上使う場合は、その時点で使用の適否を判断する
りんご
あとどれだけ使える薬剤があるかで、使うかどうか判断するよ。
みかん
添付文書では3剤以上と併用することになってます。

「ベダキリンの使用について」にまとめてあったものを、さらにザックリさせて記載しました。12)
ただ、サチュロが処方される施設ってルールを作る側の先生がいるような病院なので、ルールどおりに使われているかの確認はあまり必要なさそうな気がします。
(もちろん疑義があったら照会すべきですが!)

院外に出てきた際は、きちんと服薬できているか、副作用は出ていないかのチェックがメインとなりそうです。


なんか使い方や副作用の話ばっかりになってしまいましたが、大事大事に使わないといけない薬剤ですのでご了承くださいませ。

ワクチンしかり抗菌薬しかりですが、感染症は個人の問題だけでなく公衆衛生の問題でもあります。
願わくばサチュロを使わなければならない人が少なく済むように、薬剤師としてしっかりきっちり感染対策・予防・治療を推進していきたいなぁと、私は思います。

薬剤師法
第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

 

参考文献
1)新規抗結核薬「サチュロ錠100mg」、 多剤耐性肺結核を適応症として製造販売承認を取得, ヤンセンファーマ(株), http://www.janssen.com/japan/press-release/20180119.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20171228001/800155000_23000AMX00020_A100_1.pdf.
3)サチュロ錠100mg, 添付文書, インタビューフォーム.
4)デルティバ錠50mg, 添付文書.
5)結核の常識2017, 結核研究所, http://www.jata.or.jp/dl/pdf/common_sense/2017.pdf.
6)結核集団感染事例一覧について, 事務連絡, 平成29年12月27日, http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189781.pdf
7)結核(BCGワクチン), 厚生労働省, http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html
8)「結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について」の一部改正について, 健感発1125第1号 平成28年11月25日, http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/16112501.pdf.
9)結核医療費助成について, 東京都福祉保健局, http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/josei/joseinituite.html.
10)結核児童療育給付について, 埼玉県, http://www.pref.saitama.lg.jp/a0704/boshi/ryouiku.html.
11)「結核医療の基準」の改訂―2018年, 日本結核病学会,
https://www.kekkaku.gr.jp/pub/vol93%282018%29/vol93no1p61-68.pdf.
12)ベダキリンの使用について, 日本結核病学会,
https://www.kekkaku.gr.jp/pub/vol93%282018%29/vol93no1p71-74.pdf.
13)薬学用語解説, 日本薬学会, http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88.
14)重篤副作用疾患別対応マニュアル「心室頻拍」, PMDA, http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0905019.pdf.
15)重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬物性肝障害」, PMDA, http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0804002.pdf.
16)デルティバ錠50mg 審査報告書, PMDA,
http://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400075/22600AMX00741000_A100_1.pdf.