新薬雑感:ベスポンサ点滴静注用

まずは基本情報

販売名 ベスポンサ点滴静注用1mg
名前の由来 特になし
一般名 イノツズマブ オゾガマイシン(遺伝子組換え)
会社名 ファイザー(株)
薬効 抗腫瘍性抗生物質結合抗CD22モノクローナル抗体
効能・効果 再発又は難治性のCD22陽性の急性リンパ性白血病
用法・用量 週1回(1日目・8日目・15日目)、1時間以上かけて点滴静注し、休薬
1サイクル目は21~28日間、2サイクル目以降は28日間を1サイクルとし、投与を繰り返す
投与サイクル数は、造血幹細胞移植の施行予定を考慮して決定
【投与量】
1日目:0.8mg/m2(体表面積)
8及び15日目:0.5mg/m2(体表面積)
患者の状態により適宜減量

急性リンパ性白血病ってこういう疾患

  • リンパ球が急速に増殖するがん
  • 治療の基本は、強力な化学療法
  • フィラデルフィア染色体(Ph)陽性か陰性かによって、使う薬剤が違う
  • 成人再発例は、予後不良

急性リンパ性白血病(ALL)は、未熟なリンパ球が悪性化し、増殖するがんです。
がん化したリンパ球の種類によってB細胞系とT細胞系に大別されており、急性リンパ性白血病の約80~85%はB細胞系です。5)

主に6歳以下の小児に多く、成人の1年間の発症率は約10万人に1人程度とされています。5)
病状が週~月単位で急速に進行するため、早期の診断と治療開始が重要です。5)

ALLの治療の基本は、強力な化学療法を繰り返し実施し、白血病細胞を根絶すること(Total Cell Kill)です。
治療の段階は以下のように分類されており、体内から白血病細胞を根絶した後、可能な場合は造血幹細胞移植を検討します。5)

寛解導入療法 白血病細胞の根絶、正常な造血機能の回復
地固め療法 残存する白血病細胞の根絶、再発・再燃の防止
維持療法
同種造血幹細胞移植 正常な造血機能の回復
※化学療法で十分な効果が得られない場合や、予後因子などから化学療法のみでは治癒が困難と予想される場合等に実施

使用する薬剤は、フィラデルフィア染色体(Ph)の有無と、年齢等によって決定されます。5)

Ph陽性の場合は、化学療法にグリベックやスプリセルなどのチロシンキナーゼ阻害薬を併用します。

Ph陰性の場合は、化学療法を実施します。
小児は化学療法の標準プロトコールが確立されています7)が、成人では確立した標準療法はありません6)

急性白血病は比較的抗がん剤が効きやすいがんであり、初発のALLでは寛解導入療法によって80%以上が寛解するものの、半数以上の患者は再発してしまいます。3)

成人再発ALLの予後は一般的に不良で、再発時期や前治療歴を考慮した救援化学療法や同種幹細胞移植を実施します。6)
こちらも現在標準治療はなく、寛解率は30~50%程度に留まると報告されています。3)

※救援化学療法(サルベージ療法):主に造血器腫瘍で、治療抵抗性・再発・再燃した場合に用いる治療法5)

ベスポンサってこういうくすり

  • 抗体薬物複合体(ADC)
  • 単剤投与(他剤と併用しない)

ベスポンサは、再発・難治性の急性リンパ性白血病(ALL)に使用する抗体薬物複合体(ADC)です。
ADC(antibody-drug conjugate)といえば、乳がんに使うカドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン)や、悪性リンパ腫に使うアドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン)あたりが有名でしょうか。

ベスポンサは、抗CD22抗体のイノツズマブと、抗腫瘍抗生物質のカリケアマイシン誘導体が、リンカーで結合した構造をしています。3)
じゃあオゾガマイシンはなんなんだよと思いますが、カリケアマイシン誘導体とリンカーを合わせたものがオゾガマイシンみたいです。3)
わかりづらいね。

いまのところ単剤でしか臨床試験をしていないので、単剤で投与します。
使うサイクル数は、治療後に造血幹細胞移植(HSCT)を計画しているかで決まり、添付文書上、HSCTを予定している場合は3サイクルまで、予定していない場合は6サイクルまでが推奨されています。

マイロターグとの取り違えに注意!

  • 両者とも、カリケアマイシン誘導体を使ったADC
  • [注]適応や用法が違います

「なんちゃらオゾガマイシンって聞いたことあるような…?」と思った貴方!
それ多分マイロターグですよ!

というわけで適応や用法は全然違いますが、一般名が似ているマイロターグを紹介します。

ベスポンサとマイロターグは、同じカリケアマイシン誘導体を使ったADC製剤です。
カリケアマイシンはあらゆる細胞に毒性を示す抗生物質で、単体での投与は不可能とされています。8)
テキサスの土壌にいたらしい(wiki調べ)。

この子をどうにか薬物として使えないかと検討されたのが、抗体とくっつけて細胞選択性を獲得させるという手法です。
ベスポンサは抗CD22抗体、マイロターグは抗CD33抗体に結合させることで、それぞれ違う白血病細胞を標的とするよう開発されました。

あ、CD22は主にB細胞系リンパ球、CD33は主に単球や顆粒球などの骨髄系細胞の表面にあるタンパクです。
SRLさんのwebサイトに説明があったので引用します。

CD22抗原9)
(前略)一般的にCD22抗原はB前駆細胞の細胞質から成熟B細胞の表面に発現し、形質細胞では消失します。臨床的には、白血病・リンパ腫を含む細胞の分化及び型分類等に用いられています。

CD33抗原10)
(前略)通常、単球、顆粒球など骨髄系の細胞、一部のリンパ性白血病、リンパ腫に見られます。また、CD33陽性ALLは予後が不良であるといわれています。臨床的には、白血病・リンパ腫を含む細胞の分化及び型分類等や、予後判定因子として用いられています。

同じオゾガマイシン製剤だけあって、副作用の方向性はかなり似ています。
おそらくベスポンサを使うような施設は、すでにマイロターグを使っていると思いますので、副作用対策はマイロターグを念頭において考えれば良いかなーと思います。

繰り返しになりますが、一般名と適応と用法・用量の取り違えに注意です。
私、この項作る際にめっちゃ混乱しましたからね。表を幾度となく見直しましたからね。
「なんちゃらオゾガマイシン~」とか一般名をふんわり覚える系薬剤師はご注意くださいませ。私だ!

ふたりともファイザーさんちの子なので、多分注意喚起してくれるはず…!

販売名
(成分名)
ベスポンサ点滴静注用1mg
(イノツズマブ オゾガマイシン(遺伝子組換え))
マイロターグ点滴静注用5mg
(ゲムツズマブ オゾガマイシン(遺伝子組換え))
名称の由来
(成分名)
特になし 骨髄を表す接頭語のMyeloとターゲット(Target)からの造語に由来する。
薬効 抗腫瘍性抗生物質結合抗CD22抗体製剤 抗腫瘍性抗生物質結合抗CD33抗体製剤
適応 再発又は難治性のCD22陽性の急性リンパ性白血病 再発又は難治性のCD33陽性の急性骨髄性白血病
用法(成人) 週1回(1日目・8日目・15日目)、1時間以上かけて点滴静注し、休薬

1サイクル目は21~28日間、2サイクル目以降は28日間を1サイクルとし、投与を繰り返す

1回2時間かけて点滴静注

少なくとも14日間の投与間隔をおいて、2回投与

重大な副作用 肝障害、骨髄抑制、感染症、出血、infusion reaction、腫瘍崩壊症候群、膵炎 肝障害、腎障害、血液障害(骨髄抑制等)、感染症、出血、infusion reaction、腫瘍崩壊症候群、重篤な過敏症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、口内炎、肺障害、間質性肺炎

既存薬と違う点は?

化学療法と違う点は?

ベスポンサは化学療法と比べて…

  • 寛解率が高い
  • [注]OSの優越性は示されていない

第3相試験でガチンコ勝負しているので、その結果で比べてみようと思います。
標準療法と比較している臨床試験は、良い臨床試験だ。

なお、ここでいう化学療法は、国際共同第3相試験で対照群に設定された「FLAG:フルダラビン+シタラビン+顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)」「シタラビン+ミトキサントロン」「高用量シタラビン(HIDAC)」3)あたりのことです。

化学療法と比較したベスポンサの良い点は、寛解率が高い点です。
標準化学療法群と比べて優越性が示されており、約70.8%の患者がベスポンサの1回目の投与サイクルでCR/CRi※2を達成しています。3)
※2:CR:完全寛解、CRi:血球数の回復を伴わない完全寛解

ただし、全生存期間(OS)の延長については優越性が示されていませんので、注意が必要です。

国際共同第3相試験 試験結果3)
【主要評価項目】
寛解率(CR+CRi)
優越性が示された
本剤投与群(109例):80.7%(88例/109例)
標準化学療法群(109例):29.4%(32例/109例)
【主要評価項目】
全生存期間(OS)
優越性が示されなかった
本剤投与群(109例):7.7ヵ月〔HR:0.770(95%信頼区間:0.578-1.026)〕
標準化学療法群(109例):6.7ヵ月

注意しておきたいことは?

注意
VOD(静脈閉塞性肝疾患)/SOS(類洞閉塞症候群)を含む肝障害(重要な特定されたリスク)【留意事項通知あり】
骨髄抑制(重要な特定されたリスク)
感染症(重要な特定されたリスク)
出血(重要な特定されたリスク)
TLS(腫瘍崩壊症候群)(重要な特定されたリスク)
infusion reaction(重要な特定されたリスク)
膵炎(重要な特定されたリスク)
QTc間隔延長(重要な潜在的リスク)
炎症性消化管事象(重要な潜在的リスク)
ILD(間質性肺疾患)(重要な潜在的リスク)
生殖発生毒性(重要な潜在的リスク)

注意点が多すぎて自分がわからなくなったので、添付文書や審査報告書に記載されている「リスク回避のためにやるべきこと」をまとめました。

リスク リスク回避のためにやるべきこと
重要な特定されたリスク VOD(静脈閉塞性肝疾患)/SOS(類洞閉塞症候群)を含む肝障害 ・定期的な肝機能検査
・HSCT施行の判断
骨髄抑制 ・定期的な血液検査
感染症 -
出血 -
TLS(腫瘍崩壊症候群) ・血清中電解質濃度・腎機能検査
・予防投与
infusion reaction ・予防投与
膵炎 ・定期的な膵酵素に関する血液検査
重要な潜在的リスク QTc間隔延長 ・定期的な心電図検査
炎症性消化管事象 -
ILD(間質性肺疾患) -
生殖発生毒性 ・一定期間の避妊
・妊婦に投与する場合は、十分な説明と同意
重要な不足情報 なし -

VOD(静脈閉塞性肝疾患)/SOS(類洞閉塞症候群)を含む肝障害

VOD(現在はSOSが一般的呼称)は、主に同種造血幹細胞移植後に生じる重篤な合併症のひとつです。11),13)

抗がん剤により類洞内皮細胞が傷害されることで肝類洞(肝臓内の小さな血管)が閉塞し、周囲の肝細胞の壊死が引き起こされます。12),13)
VOD/SOSに対する確立された有効な治療法は無く11)、重症の場合は多臓器不全を合併し、死亡率は80%以上であると報告されています。13)

国際共同第3相試験にて、死亡に至った肝障害が複数例に認められたこと、死亡に至った肝障害が全例VODであったことから、特定されたリスクに設定されています。2)

留意事項通知も出ておりますので、使用する際はご確認くださいませ。

参考 イノツズマブ オゾガマイシン(遺伝子組換え)製剤の使用に当たっての留意事項について[PDF]PMDA

【添付文書記載事項】
警告:
2. 静脈閉塞性肝疾患(VOD)/類洞閉塞症候群(SOS)を含む肝障害があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されているので、定期的に肝機能検査を行うとともに、患者の状態を十分に観察し、VOD/SOSを含む肝障害の徴候や症状の発現に注意すること。

用法及び用量に関連する使用上の注意:
2. 本剤の投与サイクル数は、以下のとおりとする。
(1) HSCTの施行を予定している場合
投与サイクル数の増加に応じてHSCT施行後のVOD/SOSの発現リスクが高まるおそれがあるので、本剤の効果が得られる最小限のサイクル数とすること。治療上やむを得ないと判断される場合を除き、3サイクル終了までに投与を中止すること。

4. 副作用により本剤を休薬、減量、中止する場合には、以下の基準を考慮すること。なお、減量を行った場合は、再度増量しないこと。

副作用 処置
VOD/SOS又は他の重篤な肝障害 投与を中止する。

慎重投与:
1. 肝疾患のある又はVOD/SOSの既往歴のある患者(肝疾患が増悪する又はVOD/SOSの発現リスクが高くなるおそれがある。)
2. HSCT施行歴のある患者(VOD/SOSの発現リスクが高くなるおそれがある。)

重要な基本的注意:
1. VOD/SOS等の重篤な肝障害があらわれることがあるので、本剤の投与前及び投与開始後は、定期的に肝機能検査を実施し、VOD/SOSを含む肝障害の徴候及び症状を十分に観察すること。本剤投与後に総ビリルビン値が施設基準値上限以上の場合は、HSCTの施行について慎重に判断すること。また、本剤投与後のHSCTにおいて、前処置として2種類のアルキル化剤は避け、HSCT施行後は頻回に肝機能検査を行うこと

重大な副作用:
1. 肝障害
VOD/SOS(2.4%)、γ-GTP増加(12.8%)、AST(GOT)増加(10.4%)、高ビリルビン血症(10.4%)、ALT(GPT)増加(8.5%)、血中アルカリホスファターゼ増加(5.5%)等があらわれることがあるので、VOD/SOSを含む肝障害の徴候及び症状を十分に観察し、異常が認められた場合には投与中止等の適切な処置を行うこと。

高齢者への投与:
高齢者ではHSCT施行後のVOD/SOSの発現リスクが高くなるおそれがある。また、一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を確認しながら慎重に投与すること。

臨床試験 VOD/SOSを含む肝障害の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):82例
化学療法群(143例):49例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):47例
化学療法群(143例):21例

骨髄抑制

国際共同第3相試験にて、ベスポンサとの因果関係が否定できない重篤な骨髄抑制が認められていることから、特定されたリスクに設定されています2)

【添付文書記載事項】
用法及び用量に関連する使用上の注意:
4. 副作用により本剤を休薬、減量、中止する場合には、以下の基準を考慮すること。なお、減量を行った場合は、再度増量しないこと。

本剤による治療開始前 2サイクル目以降のサイクル開始時に認められた場合の処置(簡略化しています)
好中球絶対数 1,000/μL以上 好中球絶対数が1,000/μL以上になるまで休薬
血小板数 50,000/μL以上 血小板数が50,000/μL以上になるまで休薬
好中球絶対数1,000/μL未満又は血小板数50,000/μL未満 以下のいずれかになるまで休薬
直近の骨髄検査に基づき病態の安定・改善が認められ、かつ数の減少が、副作用ではなく、原疾患によるものであると判断できる場合には、以下によらず本剤の投与を開始できる

・好中球絶対数及び血小板数がいずれも本剤による治療開始前の値以上
・好中球絶対数が1,000/μL以上、かつ血小板数が50,000/μL以上

※輸血の影響を受けない値を使用

重要な基本的注意:
2. 骨髄抑制があらわれることがあるので、本剤投与前及び投与中は定期的に血液検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。

重大な副作用:
2. 骨髄抑制
好中球減少(39.0%)、血小板減少(34.8%)、白血球減少(24.4%)、貧血(22.6%)、発熱性好中球減少症(14.0%)、リンパ球減少(12.8%)、汎血球減少症(0.6%)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には休薬、減量、投与中止等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 骨髄抑制の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):136例
化学療法群(143例):128例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):133例
化学療法群(143例):126例

感染症

骨髄抑制によって白血球数が減少することで、感染症にかかりやすくなります。
国際共同第3相試験にて、ベスポンサとの因果関係が否定できない重篤な感染症や、死亡に至った感染症が認められていることから、特定されたリスクに設定されています2)

【添付文書記載事項】
慎重投与:
3. 感染症を合併している患者(骨髄抑制により感染症が増悪するおそれがある。)

重大な副作用:
3. 感染症
肺炎(2.4%)、敗血症(1.8%)、敗血症性ショック(1.2%)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には休薬、減量、投与中止等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 感染症の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):80例
化学療法群(143例):107例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):47例
化学療法群(143例):77例

出血

骨髄抑制によって血小板数が減少することで、出血が起こりやすくなります。
国際共同第3相試験にて、ベスポンサとの因果関係が否定できない重篤な出血が認められていること、対照群と比較して発現率の高い傾向が認められていることから、特定されたリスクに設定されています。2)

【添付文書記載事項】
重大な副作用:
4. 出血
鼻出血(3.7%)、消化管出血(1.2%)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には休薬、減量、投与中止等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 出血の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):55例
化学療法群(143例):41例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):10例
化学療法群(143例):7例

TLS(腫瘍崩壊症候群)

腫瘍崩壊症候群(TLS)は、がん細胞が急激に死滅するときにがん細胞内の成分が放出されることによって、体内の電解質や尿酸等のバランスが崩れた病態です。14)
高尿酸血症、高リン血症、高カリウム血症、低カルシウム血症、乳酸アシドーシスなどの多彩な病態を呈し、急性腎不全に至ることがあります。14)

TLSは造血器腫瘍に寛解導入療法が施行された際に最も高頻度に認められ、急性リンパ性白血病自体がTLSのリスク因子です。2)
臨床試験では、アロプリノールやラスブリカーゼなどが予防投与されていましたが、それでも数例発現が認められたため、特定されたリスクに設定されました。2)

【添付文書記載事項】
重大な副作用:
6. 腫瘍崩壊症候群
腫瘍崩壊症候群(1.8%)があらわれることがあるので、血清中電解質濃度及び腎機能検査等を行うなど、腫瘍崩壊症候群の徴候及び症状を十分に観察し、異常が認められた場合には投与中止等の適切な処置を行うこと。

infusion reaction

infusion reactionは、モノクローナル抗体製剤の投与後に発現する、急性期の有害事象のことです。15)
発症には主にサイトカイン放出シンドロームが関与しているといわれており、発疹・呼吸困難・発熱などの過敏症症状から、重篤なケースでは投与直後に多臓器不全となるようなケースもみられます。15)

こちらもほとんどの例で予防投与が実施されていたにもかかわらず、infusion reactionが発現した例が確認されたため、特定されたリスクに設定されています。2)

添付文書には、以下のように記載。

用法・用量に関連する使用上の注意:
4.副作用により本剤を休薬、減量、中止する場合には、以下の基準を考慮すること。なお、減量を行った場合は、再度増量しないこと。
infusion reaction:点滴投与を中断し、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン剤の投与等の適切な処置を行う。重症度に応じ、投与を再開できる。重篤なinfusion reactionの場合は、投与を中止する。

5.infusion reactionを軽減させるために、副腎皮質ステロイド、解熱鎮痛剤又は抗ヒスタミン剤の前投与を考慮すること。

重要な基本的注意:
3. infusion reactionがあらわれることがあり、多くの場合は、初回投与時に発現が認められたが、2回目以降の投与時にも認められている。患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置(副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン剤の投与等)を行うこと。

重大な副作用:
5. infusion reaction
発熱、発疹、悪寒、低血圧等を含むinfusion reaction(17.1%)があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には投与中止等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 出血の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):55例
化学療法群(143例):41例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):10例
化学療法群(143例):7例

膵炎

ベスポンサとの因果関係が否定できない重篤な膵炎が認められていることから、特定されたリスクに設定されています。2)

【添付文書記載事項】
重要な基本的注意:
5. 膵炎があらわれることがあるので、本剤投与前及び投与中は定期的な膵酵素に関する血液検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。

重大な副作用:
7. 膵炎
膵炎(頻度不明)、リパーゼ増加(6.1%)、アミラーゼ増加(2.4%)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には休薬、減量、投与中止等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 膵炎の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):18例
化学療法群(143例):3例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):8例
化学療法群(143例):1例

QTc間隔延長

QTc間隔延長は、薬剤性QT延長症候群の原因となる心電図の波形異常です。
臨床試験で致死性の不整脈は認められていませんが、リスクのある患者を除外したにも関わらずQTc間隔が延長している患者が認められたため、潜在的なリスクに設定されました。2)

【添付文書記載事項】
重要な基本的注意:
4. QT間隔延長があらわれることがあるので、本剤投与前及び投与中は定期的に心電図検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。

臨床試験 QTc間隔延長の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):5例
化学療法群(143例):3例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):1例
化学療法群(143例):0例

炎症性消化管事象

炎症性消化管事象は、消化管粘膜の炎症・口腔咽頭痛・口内炎などの事象です。
国際共同第3相試験ではベスポンサとの因果関係が否定できない重篤な炎症性消化管事象は認められませんでしたが、その他の試験では認められているため、潜在的なリスクに設定されました。2)

臨床試験 炎症性消化管事象の発現数2)
全Grade 本剤群投与群(164例):28例
化学療法群(143例):41例
Grade 3以上 本剤群投与群(164例):5例
化学療法群(143例):6例

ILD(間質性肺疾患)

臨床試験や海外でのコンパッショネートユース(≒倫理供給)でのILDの発現例数が限定的であり、ベスポンサ投与によるILDの発現について、まだ明確な結論は出ていません。2)
しかし、同じカリケアマイシン誘導体を含むADCのマイロターグで、ILDの注意喚起がされていること、およびベスポンサと因果関係が否定できないILDによる死亡が認められていることから、潜在的なリスクに設定されました。2)

生殖発生毒性

本薬は遺伝毒性を有しており、動物実験で臨床曝露量で胚・胎児毒性が認められたことから、人でも胚・胎児に影響が認められる可能性があります。2)
しかし、ALLは予後不良の疾患ですので、他に有効な治療法のない妊婦に選択肢を提供するという観点から、有益性投与とされたようです。2)

ただし、妊婦又は妊娠している可能性のある女性に対しベスポンサを投与する場合は、患者とその家族に対して、ベスポンサの遺伝毒性と生殖発生毒性に関する充分な説明を行い、投与の同意が確実に得られる必要があるとのことです。2)

添付文書でも、注意喚起がされています。

【添付文書記載事項】
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
1. 本剤の妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、本剤を投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、妊娠可能な女性及びパートナーが妊娠する可能性のある男性は、本剤投与中及び最終投与後一定期間は、適切な避妊を行うよう指導すること。
[動物試験(ラット)において、臨床曝露量の1.0倍の曝露量で胚・胎児毒性(胚・胎児の死亡、上腕骨肥厚、肩甲骨奇形及び尺骨奇形)が認められ、1.4倍の曝露量で胚吸収率の高値が認められている。また、マウスにおいて遺伝毒性が認められている1)。]

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 造血幹細胞移植を予定していない患者

類薬の投与を検討すべき患者像

  • 化学療法でCR達成できそう、かつ、造血幹細胞移植(HSCT)を実施する患者
りんご
国際共同第3相試験結果をもとに考えました。
みかん
造血幹細胞移植の実施の有無がキーになりそう。

全生存期間の結果をどう捉えるかが、非常に悩ましいです。
以下のサブグループ解析を見ていただければわかるとおり、HSCT施行患者だと化学療法群の方がOSが長い傾向があるんですよね。3)

国際共同第3相試験 本剤投与群 標準化学療法群
HSCT施行患者 (77例)11.9ヵ月(95%信頼区間:8.6-20.6) (33例)16.7ヵ月(95%信頼区間:14.6-27.8)
HSCT未施行患者 (87例)5.0ヵ月(95%信頼区間:3.6-5.8) (129例)4.6ヵ月(95%信頼区間:3.6-5.6)

実際、添付文書にも以下のように記載されています。3)

効能・効果に関連する使用上の注意:
本剤投与による造血幹細胞移植(HSCT)施行後の全生存期間への影響は、既存の化学療法と同程度ではない可能性が示唆されていることから、HSCTの施行を予定している患者に対する本剤の投与については、本剤以外の治療の実施を十分検討した上で、慎重に判断すること。

HSCTを施行したということは、治療が上手いこといった(≒CR/CRiを達成した)ということだと思います。

よって、この結果を見るに、個人的には
・化学療法でもCR達成できそう、かつ、HSCTを実施する場合は、化学療法が良さそう
・それ以外はベスポンサが良さそう
かなーと思いました。

化学療法でCR達成できるかが事前に予測できる方法があるかはわかりませんでした…せ、専門の方ー!
そして本剤投与群と標準化学療法群の患者群が不均一だと前提条件が崩れるのですが、ベースラインの評価が出来ませんでした…。
造血器腫瘍は、わたしにはハードルが高すぎるよ…。

ベースラインは総合製品情報概要に載っているので、ご興味ある方は見てみてください。

参考文献
1)再発・難治性急性リンパ性白血病治療薬「ベスポンサ点滴静注用1mg」、製造販売承認を取得 ~本邦初かつ唯一のCD22を標的とする抗体薬物複合体、単剤・週1回投与で新たな治療選択肢に~, ファイザー(株), http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2018/2018_01_19.html.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180209001/671450000_23000AMX00021_A100_2.pdf.
3)ベスポンサ点滴静注用1mg, 添付文書, インタビューフォーム, 総合製品情報概要.
4)イノツズマブ オゾガマイシン(遺伝子組換え)製剤の使用に当たっての留意事項について, 薬生薬審発0119第1号 他, 平成30年1月19日, https://www.pmda.go.jp/files/000222256.pdf.
5)急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫, がん情報サービス, https://ganjoho.jp/public/cancer/ALL/.
6)造血器腫瘍診療ガイドライン, 日本血液学会, http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/table.html.
7)急性リンパ性白血病 ALL 小児白血病診療ガイドライン, 日本癌治療学会, http://jsco-cpg.jp/guideline/08.html#g01_cq01.
8)ベスポンサの作用機序, PfizerPRO, ファイザー(株), https://pfizerpro.jp/cs/sv/besponsa/product/moa.html.

9)CD22, SRL総合検査案内, http://test-guide.srl.info/hachioji/test/detail/013124401.
10)CD33, SRL総合検査案内, http://test-guide.srl.info/hachioji/test/detail/013184401.
11)用語集 肝中心静脈閉塞症(VOD), 日本血栓止血学会, http://www.jsth.org/glossary_detail/?id=14.
12)移植の際の副作用・合併症, がん情報サービス, https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct03.html.
13)菊田敦他, 造血幹細胞移植後における肝中心静脈閉塞症(SOS/VOD)の診断と治療, https://www.jstage.jst.go.jp/article/hct/5/4/5_124/_pdf/-char/ja.
14)重篤副作用疾患別対応マニュアル「腫瘍崩壊症候群」, PMDA, https://www.pmda.go.jp/files/000145665.pdf.
15)中村克徳, 分子標的薬投与によるインフュージョンリアクション発症機構の解明と評価系の構築, 科学研究費助成事業データベース, https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25460193/.