先日、東京都病院薬剤師会のセミナーに行ってきたので、講義のメモを起こしてみました。
参考 臨床薬学研究会4月19日(東医健保会館) 『アトピー性皮膚炎の治療戦略の展望~バイオ時代元年を迎えて~』 東京都病院薬剤師会ご講演は、東京逓信病院の江藤先生です。
江藤先生は週1回アトピー教室を開催していらっしゃいますので、興味がある方は連絡してみてはいかがでしょうか。
医療従事者向けには、日本皮膚科学会総会にて看護師向けの講習会を開催しているようです。
今年は広島。
事前登録が必要ですが、講習会だけなら無料みたいです。
講義メモ
文責はわたし、小石まり子にあります。
間違っている部分を発見されましたら、ツイッターや当ブログの問合せページ等にて、ご指摘いただけると幸いです。
脱ステロイドブーム
久米弘氏が司会を務める報道ステーションでがステロイドの特集を実施。
(「魔法の秘薬!ステロイドの落とし穴」)
40分以上にわたって放映され、ステロイドは使わない方が良いと結論付けた。
これに対し皮膚科学会は反論したが、メディアに取り上げられなかった。

「メディアによるステロイド批判は無かった!」という主張を最近見たので、「やっぱり(ステロイド批判は)あったんじゃん!」と思いました。
ビデオの力は偉大。
外用ステロイドの副作用はどれ?
1. ムーンフェイス
2. 骨が脆くなる
3. 色素沈着
4. 日光による色素沈着
5. 皮膚が象のように硬くなる
1~3は内服では起こらない副作用なので、ステロイドの副作用ではない。
(4は、昔の不純物が多いワセリンの副作用。今のワセリンでは基本起こらない。)
1、2は内服の副作用なので、外用剤を大量かつ長期に使えば出現する可能性はある。
しかし、実感としては、ほとんど起こらない。
ステロイド外用薬を長期に外用していたアトピー患者さんにしばしば診られる皮膚の色素沈着、肥厚(苔癬化)は、全くありえない副作用と言えます。
多くの患者さんだけでなく、一部の医師や薬剤師、看護師さんもこの誤解をまだ持っている傾向があります。
膠原病などでステロイドを大量に長期に渡って内服した患者さんの皮膚が黒く厚くなっているでしょうか?
ステロイド外用薬を怖がって「腰引け」な外用をしていると、皮膚炎は完全に消火されず、炭火のようにくすぶって皮膚を黒く厚くしてしまうのです。
しっかり塗ること、つまり(2)のFTUの量(指先に第1関節まで押し出した量)を手の平2枚分に塗ることがとても重要になります。この誤解の払拭とFTUの理論はアトピー教室の内容の最も重要なポイントの1つになっています。
(けんこう家族 第114号 逓信名物「アトピー教室」とアトピー性皮膚炎, 東京逓信病院)

ちなみに3~5はメモが追いついてなかったので、ちょっと違うかも…。
ステロイドの中途半端な使用は絶対ダメ!
1mg/kgが基準。(体重50kgなら50mg)
少なめでスタートしてもロクなことがない。
「多めに使って少しずつ減らす」がセオリー。
ステロイドを怖がって薄く塗ると、効果が無いので症状が悪化⇒ステロイドのせいで症状が悪化したと誤認⇒脱ステロイドになってしまう。
中途半端に使うと、皮膚炎が治らない⇒かゆい⇒皮膚を掻く⇒皮膚の破壊が進む⇒苔癬(たいせん)化。
昼間は掻くのを我慢できても、睡眠中に掻いてしまう。
外用ステロイドは、ティッシュペーパーがくっつくくらいベタベタに塗る!
塗る量の目安は、FTU(フィンガーティップユニット)で考える。
(例:顔・首:2.5FTU、片腕:3FTU、片手:1FTU、片足:6FTU、片手:2FTU、胸・腹:7FTU、背中:7FTU)
1FTUは0.5g。
人差し指の先端から第一関節までが目安だが、軟膏の口径によってはそれ以下しか出ないものもある。

混合調整する場合
保湿剤と混合調整す場合、w/o型の保湿剤と混合する。
(パスタロンソフト、ヒルドイドソフト)
o/w型だと乳化が破壊され、効果が下がる。
保湿剤で希釈しても、ステロイドの効果はほとんど変わらない。
理由は、ステロイドが基剤に溶けている量。
例えば、アンテベートは1/16しか基剤に溶けていないため、16倍希釈しても効果が変わらない。
よって、外用ステロイド300gではなく、外用ステロイド100g+保湿剤200gの混合でも、ステロイドの効果はほとんど変わらない。

何倍希釈まで有効性が変わらないかは、インタビューフォームに書いてある製品もあるそうです。
原則、食物除去の必要はない
アナフィラキシー等の重篤な発作が起こる場合を除き、なにかを食べてちょっと赤くなるくらいなら食物除去はしない。
それよりは皮膚のスキンケアが大事。
スキンケアで経皮感作を予防する。
(茶のしずく石鹸のように、アレルゲンが皮膚から進入し、アレルギーを発症することがあるため)
出生直後からのスキンケア(清潔の維持、乾燥からの保護etc)で、アトピー性皮膚炎の発症率が低下するという報告もある。(PMID: 25282564)

となると野菜とか果物のパック(顔に貼るやつ)も、考え物ですね…。
湿疹がなくなっても保湿剤を塗る!
皮膚を掻くことで、真皮にあった神経が表皮まで伸びてきてかゆくなる。
神経が真皮に戻るまで時間がかかるので、湿疹がなくなってもステロイドを塗る。
(ステロイドを止める⇒かゆい⇒掻く⇒皮膚の破壊⇒炎症 の悪循環におちいらない。)
保湿剤も、湿疹がなくなっても塗る。
虫歯が治ったからといって、歯磨きしなくても良いの?アトピーも一緒。
皮膚の炎症が治ったからといって、保湿剤は止めない。

保湿剤は1日3回
1日4回塗っても、1日3回と効果が変わらなかった。
1日3回が理想。
塗る量は、FTU(フィンガーティップユニット)
(例:顔・首:2.5FTU、片腕:3FTU、片手:1FTU、片足:6FTU、片手:2FTU、胸・腹:7FTU、背中:7FTU)

皮膚が荒れてるところは1日3回、正常なところは1日1回とかじゃダメなのかしら…。
外用ステロイドは1日2回。軽快後は1日1回でもOK
顔に外用ステロイドを使う場合は、ミディアムクラス以下のステロイドを使用。
1日2回は2週間が限度。
今はプロトピック軟膏が良い。
1週間に2~3回のプロトピックと毎日のスキンケアで、多くの顔の悩みは解消される。
ガイドラインの普及とプロトピックの登場が、眼合併症を減少させた。
プロトピックは正常皮膚には作用しない
プロトピックは分子量が大きいので、正常な皮膚からはほとんど吸収されない。
【皮膚を通過する分子量】
正常皮膚:分子量500まで通過
アトピー性皮膚炎が起こっている皮膚:分子量900まで通過
粘膜:分子量1,200まで通過
ステロイドは分子量450~500位。
プロトピックは分子量822.03なので、炎症が起こっている皮膚は通過するが、正常な皮膚は通過しない(=効果を示さない)
(余談:毛をそったネズミの皮膚は、正常皮膚でも通過するらしい。ヒトの正常皮膚は通過しない。)
ちなみに、シクロスポリンは分子量1,202.61なので、粘膜なら通る。
なので点眼(=目の粘膜から吸収)は効果がある。
(商品名:パピロックミニ点眼液0.1% 適応:春季カタル(抗アレルギー剤が効果不十分な場合))

これも服薬指導に使えそう。
重症度別の外用薬の使い方
重症 | 外用ステロイド&亜鉛化軟膏 |
| | 外用ステロイドのランクダウン、スキンケア併用 |
| | プロトピック導入 |
↓ | プロトピックを隔日に変更 |
通常皮膚 | スキンケアとプロトピック(週1回)で維持 どんなに好調でも塗る(プロアクティブ療法) |
乳児にはOGZ
乳児にはサトウザルべ70g+グリメサゾン30gをよく使う。
オムツかぶれや、寝たきり老人の臀部ケアにも使う。

やっぱりスキンケアと外用薬が基本の治療なんだなぁと実感。

今後のアトピー性皮膚炎治療に要注目!
1) けんこう家族 第114号 逓信名物「アトピー教室」とアトピー性皮膚炎, 東京逓信病院, https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/health/magazine/114/index.html#column.