中外製薬のACE阻害薬「インヒベース錠0.25・0.5・1」が販売中止になります。
(中外製薬webサイトより)
中止時期はいつ?
2020年1月、在庫終了をもって販売中止になるとのことです。
あと1年半くらいありますね。
経過措置期間は、2021年3月31日までの予定、とのこと。
インヒベースってどんなくすり?
販売名 | インヒベース錠0.25・0.5・1 |
名前の由来 | Inhibitor of ACE ⇒ INHIBACE |
一般名 | シラザプリル水和物 |
会社名 | 中外製薬(株) |
薬効 | 持続性ACE阻害薬 |
効能・効果 | 高血圧症 |
販売開始時期 | 1990年11月 |
インヒベースは、日本で4番目に登場したACE阻害薬です。
販売開始時期 | 成分名〔代表商品名〕 |
1983年2月 | カプトプリル〔カプトリル〕 |
1986年7月 | エナラプリル〔レニベース〕 |
1989年4月 | デラプリル〔アデカット〕 |
1990年11月 | シラザプリル〔インヒベース〕 |
1991年8月 | リシノプリル〔ゼストリル、ロンゲス〕 |
1993年4月 | ベナゼプリル〔チバセン〕 |
1993年12月 | イミダプリル〔タナトリル〕 |
1994年8月 | テモカプリル〔エースコール〕 |
1995年9月 | キナプリル〔コナン〕 |
1996年5月 | トランドラプリル〔オドリック、プレラン〕 |
1998年4月 | ペリンドプリル〔コバシル〕 |
1998年6月 | アラセプリル〔セタプリル〕 |
ACE阻害薬はご承知のとおり、レニン-アンジオテンシン(RA)系に作用する降圧薬です。
ACE阻害薬(とARB)は臓器保護作用があるとされていて2)、糖尿病患者やCKD患者の降圧にはACE阻害薬とARBが第一選択3), 4)、冠動脈疾患患者に対してはACE阻害薬が第一選択5)になっています。
ガイドライン上では評価の高いACE阻害薬ですが、臨床現場での存在感はかなり薄め。
実際、厚生労働省が調査した降圧薬の使用実態によると、合併症のない高血圧患者に対する処方は、Ca拮抗薬が57.0%、ARBが37.9%なのに対し、ACE阻害薬はなんと1.7%でした。6)
少な!
なんでこんなに処方量が少ないのか。
私なりに原因を考えてみますと、以下の点が影響したのかなぁと考えています。偏見です。
・ 海外に比べて日本人で空咳の副作用が多いため3)、敬遠された。
・ ARBが「空咳の出ないACE阻害薬」というプロモーションを実施した。
・ Ca拮抗薬が強かった。(わざわざACE阻害薬に変えなくても良いか・・・みたいな)
・ 国内初のACE阻害薬カプトリル(1日3回投与)が使いづらかった。
合併症のない高血圧に投与する場合、ARBとACE阻害薬の差はほとんどありません。
むしろコストが安い分ACE阻害薬が選ばれても良いはず。
なのにここまで差がついたという事実に、「プロモーションの力って偉大だな。」と思わせられますね。
なんで中止になったの?
「諸般の事情」とのことです。
もう「諸般の事情」という単語を禁止用語にしたい。。。
日経メディカルの調査によると、ACE阻害薬の人気は以下の順だそうです。7)
成分名〔代表商品名〕 | 販売開始時期 | |
1 | エナラプリル〔レニベース〕 | 1986年7月 |
2 | イミダプリル〔タナトリル〕 | 1993年12月 |
3 | テモカプリル〔エースコール〕 | 1994年8月 |
4 | ペリンドプリル〔コバシル〕 | 1998年4月 |
5 | カプトプリル〔カプトリル〕 | 1983年2月 |
6 | リシノプリル〔ゼストリル、ロンゲス〕 | 1991年8月 |
7 | アラセプリル〔セタプリル〕 | 1998年6月 |
8 | デラプリル〔アデカット〕 | 1989年4月 |
9 | シラザプリル〔インヒベース〕 | 1990年11月 |
10 | キナプリル〔コナン〕 | 1995年9月 |
11 | トランドラプリル〔オドリック、プレラン〕 | 1996年5月 |
12 | ベナゼプリル〔チバセン〕 | 1993年4月 |
第二回NDBデータベース(内服薬 外来(院外)でも、表中に記載があるのはイミダプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、テモカプリルの4剤のみ。
市場はこの4剤で事足りてるのかなぁという印象です。
「同薬効のクスリは2~3剤あれば良い」という論調もありますし、中止もやむを得ずですかねぇ。
代替品はあるの?
シラザプリル製剤の後発品がいます。
でもシラザプリルに拘らず、他のACE阻害薬に切替えても良さそうです。
販売名 | 会社名 | 薬価 |
シラザプリル錠 0.25mg・0.5mg・1mg「サワイ」 |
沢井 | 14.90・ 18.60・ 25.30円 |
シラザプリル錠 0.25mg・0.5mg・1mg「トーワ」 |
東和薬品 | 14.90・ 18.60・ 25.30円 |
雑談:ACE阻害といえばトクホでしょ!
世の中には血圧系トクホがあふれてますが、多くはACE阻害による降圧作用を持っているということはご存知でしょうか?3), 8)
私はこの記事を書く際に知りました。
具体的には、「血圧が高めの方に」と書かれたトクホのうち、成分に「○○ペプチド」と書いてある商品が該当します。
作用機序は医薬品とほぼ一緒で、ペプチドがACE活性部位に結合して、ACEを阻害する~という感じ。
なので、RA系降圧薬を服用中の方が上記のようなトクホを飲んでいる場合、降圧効果や副作用が強く出る可能性もあります。
服薬指導時に、ちょっと気にされてみてはいかがでしょうか。
このあたりでトクホの一覧が欲しい!となるかと思いますが、承認品目がいっぱいすぎてまとめられなかったよ・・・!
というわけで、参考になるサイトを2つほどご紹介します。
まずは安心と信頼の官公庁。トクホといえばこちら!消費者庁webサイトです。
参考 特定保健用食品許可(承認)品目一覧消費者庁「特定保健用食品許可(承認)品目一覧」で検索すれば、Excelファイルがヒットします。
こちらをダウンロードいただいて、「許可を受けた表示内容」を「血圧」などでフィルタかければ一覧ができます。
ガッツリ一覧作って薬局に掲示するぜ!という方はこちらが便利。
もういっこは検索サイトです。
参考 特定保健用食品検索データベース検索プラスエイドこちらはなんといっても見やすいですね。
新着情報を見るかぎりでは、更新頻度も高そうです。
こちらも「許可を受けた表示内容」の「血圧」にチェックを入れて検索すれば、ザックリした一覧風のものはできるかと。
どちらかというと、特定の商品について調べたい場合に適していそうです。
2) 糖尿病トライアルデータベース HOPE, ライフサイエンス出版, http://diabetes.ebm-library.jp/contents/detail_hope.html.
3) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編, 高血圧治療ガイドライン2014, http://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf.
4)社)日本腎臓学会 編, エビデンスに基づく CKD診療ガイドライン2009, https://www.jsn.or.jp/guideline/ckd2009-764.php.
5)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン, 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版), http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf.
6) 中央社会保険医療協議会 総会(第367回)資料, 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000183042.pdf.
7) ACE阻害薬:エナラプリルが一番人気, 日経メディカル, https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/survey/201506/542441.html.5) 特定保健用食品, 愛知県薬剤師会, http://www.apha.jp/medicine_room/entry-3757.html.
8) 林 浩孝他, 「血圧が高めの方に適する」表示をした食品について, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/5/1/5_1_37/_pdf.
9) インヒベース, 添付文書, インタビューフォーム.