台風で電車が遅延する中、東京都病院薬剤師会のセミナーに行ってきたので、講義のメモを起こしてみました。
参考 新規分子標的薬による重症喘息治療の最適化~現状と将来~ 東京都病院薬剤師会ご講演は、同愛記念病院財団同愛記念病院科の黨(トウ)先生です。
講義メモ
文責はわたし、小石まり子にあります。
間違っている部分を発見されましたら、ツイッターや当ブログの問合せページ等にて、ご指摘いただけると幸いです。
重症喘息の診断と治療の現状
・気管支喘息の本態は、炎症による気道狭窄と気道過敏
・人口の約6~9%が罹患しているとされる
・治療のステップは4ステップ。
日本の特長は、すべてのステップで吸入ステロイド(ICS)が推奨されているところ。
(国民皆保険でない国は、ステップ1を(ICSより安い)SABA頓用としていることも)
・標準治療で約90~95%はコントロール可能。
・標準治療でコントロール不能な例を「重症喘息」としている。
重症喘息の問題点
(1) QOLの低下(肩身が狭い思いをする人も)
(2)医療コストの上昇
(英国では、重症患者(全喘息患者の5%)が、喘息にかかる医療コストの50%を消費している、との報告がある)
・ただ、重症患者の中には、単に吸入剤が吸えていないだけの患者もいる。
しっかりと鑑別する必要がある。
重症化の理由
1. ステロイド感受性の低下
・体質的に、ステロイドが効きにくい患者がいる
・重症喘息と重症COPDは、ステロイドの感受性が低いことが知られている
⇒ステロイドが効かないと重症化しやすい
・喫煙などの酸化ストレスによって、ステロイド感受性が低下する
(酸化ストレス→PIP2→PI3KによりPIP3活性化→Aktリン酸化→HDACによりステロイド抵抗性・気道炎症)
・PI3K阻害によりステロイド感受性を回復できる可能性がある
【酸化ストレスに対する処方】
(1)PI3K阻害作用のある薬剤を使う
・低用量テオフィリン(テオドールやユニフィル):50~100mg/日
気管支拡張作用が無い位の量で、ステロイド感受性を回復する。
ICSのキレが良くなる。量が少ないので、副作用も出にくい。
・ホルモテロール(オーキシス、シムビコート、フルティフォーム)
(2)ステロイド低感受性でも効く、強力なICSを使う
・フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アニュイティ、レルベア)
喫煙者にアドエアは、ちょっと効きが悪いかも。
2. 他疾患の併存
・アレルギー性鼻炎(時間が足りないので今回は省略)
・肥満
・喫煙、COPD
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)
2-1. 肥満
・肥満は、体内に慢性的に炎症が生じている(アディポネクチンによる)
→気道炎症が強くなりやすい
・喘息の薬は、脂溶性のものが多い
→薬剤が組織に吸収されるため、体重あたりの薬剤の量が少なくなりがち
・非肥満者と肥満者では、増悪のトリガーが違う
・非肥満者は、肺機能の低下が、増悪のトリガー(酸化ストレスは関連無し)
・肥満者は、酸化ストレスの増大が、増悪のトリガー(肺機能の低下は関連無し)
【処方】
・まずは減量(ダイエットが効く!)
・ICS:通常量処方、効果不十分なら増量
・経口薬や発作時の全身ステロイド投与:適宜増量
・経口ステロイドは、なるべく避ける(肥満を増悪させるため)
2-2. 喫煙、COPD
・気管支喘息患者の約20%(!)は喫煙している
・喫煙の酸化ストレスで、気道炎症が増悪、ステロイド感受性も低下。
・ACO(アコー、エイコー):COPD合併気管支喘息(昔はオーバーラップ症候群と言ってた)
【処方】
・ICSは多めに投与
・禁忌でない限り、低用量テオフィリンとホルモテロール併用
・禁煙
(成功後には治療がステップダウン出来ることが多い(Step4→Step2の人もいた))
2-3. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
・気管支喘息患者の約30%はSAS合併
・反復する夜間低酸素が、気道過敏性を亢進。サイトカイン産生も促進する。
→SASの治療により、喘息症状の改善が期待できる。
【処方】
・まずはダイエット(まず3~5kgがんばる)
・腹臥位睡眠、横臥位睡眠(抱き枕がオススメ!)
・CPAP、Bi-PAP(鼻口マスク式人工呼吸器)
・歯科的装具、エアウェイ
・手術的治療
服薬指導中にSASが疑われた人は、医師に情報提供して欲しいとのこと。
(患者に「次回受診時に言ってみてください~」と伝える等)
分子標的薬による新しい治療介入
・理論上、がんやリウマチの抗体治療に比べて、副作用は少ない
(喘息のターゲットであるIL-5等は、無くても特に問題ない・・・?)
・併存するアレルギー疾患にも効く
【ゾレアのターゲット】
(保険適用範囲内かを確認する)
・治療ステップ3で、発作・増悪が多い患者
・ステップ4で経口ステロイドの減量がしたい患者
・IgEは、範囲内なら低値でも効く
【ヌーカラのターゲット】
・治療ステップ3で、発作・増悪が多い患者
・ステップ4で経口ステロイドの減量がしたい患者
・末梢血好酸球数300個/μL以上、は必須では無い
(好酸球は大部分が組織中にある)
【ファセンラ】
・ヌーカラとの違いはADCC活性。
・ヌーカラは好酸球がちょっと残るが、ファセンラはほぼゼロになる。
(いまのところ、好酸球がゼロになることによる重篤な副作用はみられていない)
・ヌーカラ、ファセンラは寄生虫感染に注意
(有機野菜は避けといた方が良いかも。寄生虫感染が懸念される国へ行く場合は、ヌーカラ・ファセンラの治療はやめておいた方が良いかも。)
開発中の抗体製剤
・抗IL-4抗体
・抗IL-13抗体・・・血中ペリオスチンが、IL-13のサロゲートマーカーになり得る?
・抗IL-4/13抗体(デュピルマブ)
・抗TSLP抗体・・・自然免疫のシグナルを抑える。他剤無効例の最終手段になり得るかも?
・抗TLR9抗体
今後は、エンドタイプ分類でオーダーメード治療できるようになるかもしれない。
(フロアからの質問)バイオフリー、ドラッグフリーになる?
最終的に抗体製剤を中止することは可能だと思う。
数年続けたら、何らかの理由でDisease Modified(疾患修飾)される可能性はある。
ゾレアを漸減して止めた例はある。
ファセンラの治験終了後に、ステップダウンを維持できている症例もある。
今後、ゾレアを皮切りに、抗体製剤の使用期間が議論されるようになるかもしれない。

