新薬雑感:エイベリス点眼液

まずは基本情報

販売名 エイベリス点眼液0.002%
名前の由来 Eye + Bella(ベッラ:イタリア語で“美しい“の意味)
一般名 オミデネパグ イソプロピル
会社名 参天製薬(株)
薬効 選択的EP2受容体作動薬
効能・効果 緑内障、高眼圧症
用法・用量 1回1滴 1日1回点眼

ベッラ…!

 

緑内障ってこういう疾患

  • 日本の主な失明原因である疾患
  • 40歳以上の20人に1人が罹患
  • 治療は、薬物治療・レーザー治療・手術から選択

緑内障は、日本での失明原因の上位を占める疾患です。4)
進行すると見える範囲(視野)が徐々に狭くなり、放置すると失明することもあります。5)

日本では、40歳以上の5%(20人に1人)が、緑内障にかかっているといわれています。4)
初期の自覚症状がなく、気づかないうちに病気が進行してしまうこと、障害が非可逆的(進行したら、治療しても元には戻らない)であることから、早期発見と早期治療が重要です。4)

原発緑内障は、以下のとおり大きく3種類に分かれています。
治療は眼圧低下を目標に、薬物治療・レーザー治療・手術のいずれかを選びます。4),5)

病型 説明 主な治療法
原発開放隅角緑内障
(げんぱつ かいほう ぐうかく りょくないしょう)有病率:3.9%
(うち正常眼圧緑内障は3.6%)
隅角が開いている(開放)が、目詰まりして房水がうまく排出されず、眼圧が上がる 薬物治療が第一選択
通常、プロスタグランジン関連薬の単剤から開始する
原発閉塞隅角緑内障
(げんぱつ へいそく ぐうかく りょくないしょう)有病率:0.6%
隅角が狭くなること(閉塞)で、房水がうまく排出されず、眼圧が上がる レーザー治療や手術が第一選択
術前・術後に薬物療法を実施することがある
続発緑内障

有病率:0.5%

なんらかの疾患や薬物等が原因で、眼圧が上がる 原因疾患の治療が第一選択

※隅角:ザックリいうと、房水(目の中にある水)の排水口的なところ

治療時の眼圧の目標値は、高血圧等のような一定の基準がありません。
緑内障の病期(進行度)や、患者の無治療時の眼圧、余命、年齢などを考慮して、個別に目標値が設定されます。

薬物治療では、プロスタグランジン関連薬やβ遮断薬が、第一選択として使われています。

 

エイベリスってこういうくすり

  • 国内初のEP2受容体作動薬
  • 1回1滴、1日1回点眼
  • [注]冷所保存(開封後1ヵ月以内なら、室温可)

エイベリスは、国内初のEP2受容体作動薬です。3)

EP2受容体は、プロスタグランジン受容体のサブタイプのひとつです。
平滑筋に広く分布しており、眼内での平滑筋弛緩作用によって、ぶどう膜強膜流出路(副経路)と線維柱帯流出路(主経路:シュレム管を経由する方)の両方からの房水流出を促進します。3)

用法・用量は、既存のプロスタグランジン関連薬と同様「1回1滴、1日1回点眼」です。
「コンタクトレンズをつけている場合には、レンズを外してから点眼し、15分以上経過してからレンズをつけること」「点眼後、一時的に目がかすんだり、まぶしく感じたりした場合、回復するまで自動車運転等は行わないこと」などの注意点もほぼ一緒です。3)

保存は遮光・冷所ですが、開封後1ヵ月は遮光・室温でもOKだそうです。3)
なので、薬局ではもちろん冷蔵庫に保管しないといけませんが、患者さん宅では未使用分は冷蔵庫、使用中のはお部屋に置いとく、でも大丈夫。

冷蔵庫とお部屋、どっちが忘れないかで決めても良さそうですね。
私は冷蔵庫だと忘れそうなので、他の服用薬と一緒の場所に置いときたいな~。

ちなみに室温は1~30℃です。
住んでる場所と空調状況によっては、お部屋保管が難しいかもしれない。

 

既存薬と違う点は?

キサラタンと違う点は?

エイベリスはキサラタンと比べて…

  • 作用機序が(ちょっと)違う
  • 効果は同等
  • [注]副作用は多い

エイベリスとキサラタンは同じプロスタグランジン関連薬ですが、作用する受容体が違います。
エイベリスは前述のとおり、EP2受容体を介して主経路と副経路からの房水流出を促進します。2)

一方、キサラタンはプロスタグランジン受容体の中でも、FP受容体に作用する薬剤です。
こちらはFP受容体を介して、副経路からの房水流出を促進します。2)

 

また、この2剤は直接比較試験が実施されています。
いずれかの薬剤を点眼開始後、4週時点での眼圧変化量を比較した結果、0.005%ラタノプロスト点眼液に対するエイベリスの非劣性が示されました。3)

副作用発現率は、0.005%ラタノプロスト点眼液投与群が18.8%(18/96例)なのに対し、エイベリス投与群が39.4%(37/94例)と副作用発現率が高めです。
(統計学的にどうなのかは見つけられず。IFには以下のように記載)

【インタビューフォーム記載事項】

安全性については0.005%ラタノプロスト点眼液群に比べ本剤群の副作用発現率が高かったものの、安全性及び忍容性に問題はないと考えられた。

問題はない…のかなぁ?

副作用発現状況の違いを反映し、禁忌・慎重投与・併用禁忌・併用注意などが、かなり異なります。

販売名 エイベリス点眼液0.002% キサラタン点眼液0.005%
無水晶体眼・眼内レンズ挿入眼の患者 禁忌 慎重投与
眼炎症性疾患患者 慎重投与 慎重投与
気管支喘息患者 慎重投与
ヘルペスウイルス潜在患者 慎重投与
妊婦・産婦・授乳婦 -(有用性投与) 慎重投与
併用禁忌 タフルプロスト
併用注意 タフルプロストを除く
緑内障・高眼圧症治療薬
プロスタグランジン系点眼薬
重大な副作用 嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫 虹彩色素沈着
貯法 気密容器、遮光、2~8℃
1ヵ月以内であれば室温保存可
遮光、2~8℃
包装 2.5mL×5本、10本 2.5mL×10本

 

注意しておきたいことは?

注意

黄斑浮腫(重要な特定されたリスク)
眼炎症(重要な特定されたリスク)
角膜肥厚(重要な特定されたリスク)
タフルプロストを除くFP受容体作動薬との併用時の眼炎症リスク上昇(重要な潜在的リスク)
他の緑内障治療薬併用時の安全性(重要な不足情報)

発現数等は、基本的には審査報告書から取っています。
添付文書・IF・使用上の注意の解説とちょっと数値が違うのでご了承ください~。
(なんで違うんだろ~。)

黄斑浮腫

国内臨床試験にて本剤投与群の4.8%に黄斑浮腫に関連する有害事象が報告されており、特に眼内レンズを使用している患者群で高発現しています。(有水晶体眼の被験者の発現割合:0.4%(1/231例)、眼内レンズ挿入眼の被験者の発現割合:27.6%(16/58例))2)

ラタノプロスト投与群では黄斑浮腫に関連する有害事象が認められませんでしたが、エイベリス投与群では高頻度に発現したことから、重要な特定されたリスクに設定されました。

黄斑浮腫に関連する有害事象の発現状況2)
国内臨床試験 本剤投与群(227例):11例
本剤+0.5%チモロール点眼液投与群(40例):6例
0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(96例):0例
プラセボ投与群(19例):0例

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
禁忌(抜粋):
1.無水晶体眼又は眼内レンズ挿入眼の患者[嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫、及びそれに伴う視力低下及び視力障害を起こすおそれがある。]

重要な基本的注意(抜粋):
1.本剤の投与により、嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫、及び虹彩炎があらわれることがある。視力低下等の異常が認められた場合は、直ちに受診するよう患者を指導すること。

重大な副作用(抜粋):
嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫(5.2%)注)
本剤投与後に視力低下、視力障害等の症状があらわれた場合は、速やかに視力検査や眼底検査、及び可能であれば光干渉断層計や蛍光眼底造影等の検査を実施し、黄斑浮腫が確認された場合は、本剤の投与中止等の適切な処置を行うこと。

注)発現頻度は承認時までの国内臨床試験の結果に基づき算出した。なお、いずれも眼内レンズ挿入眼患者において認められた。

眼炎症

国内臨床試験にて、ラタノプロスト投与群では眼炎症に関連する有害事象が認められず、エイベリス投与群でのみ発現したこと2)から、重要な特定されたリスクに設定されました。

既承認のFP受容体作動薬と比較して眼炎症のリスクが高い可能性があるため、PMDAから情報提供の必要がある旨を指摘されています。

眼炎症の発現状況2)
国内臨床試験 本剤投与群(227例):7例
本剤+0.5%チモロール点眼液投与群(40例):2例
0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(96例):0例
プラセボ投与群(19例):0例

角膜肥厚

エイベリスの投与による角膜肥厚の発現機序は明らかになっていませんが、同じEP受容体作動薬のTaprenepag Isopropyl(本邦未承認)の臨床試験でも認められており、EP受容体作動薬で共通してみられる変化の可能性があること2)から、重要な特定されたリスクに設定されました。

角膜肥厚の発現状況2)
国内臨床試験 本剤投与群(227例):15例
本剤+0.5%チモロール点眼液投与群(40例):3例
0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(96例):1例

タフルプロストを除くFP受容体作動薬との併用時の眼炎症リスク上昇

前提として、タフルプロストは禁忌です。
海外臨床試験で、本薬(本剤より高濃度の製剤)とタフルプロストの併用で、羞明(半数以上が中等度以上)による試験中止例が認められています。
試験が中止されたため、併用を継続した場合に有害事象が管理可能だったのかが不明であること等2)から、禁忌に設定されました。

「併用し続けた経験がないから、安全かどうかわからんね~。」ってことです。

 

また、カニクイザルを用いた非臨床試験にて、エイベリスとFP受容体作動薬を併用することで前眼部の炎症リスク増大が示唆されたこと2)から、「タフルプロストを除くFP受容体作動薬との併用時の眼炎症リスク上昇」が重要な潜在的リスクに設定されました。

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
禁忌(抜粋):
2.タフルプロストを投与中の患者

併用禁忌:
【薬剤名等】タフルプロスト:タプロス点眼液、タプコム配合点眼液
【臨床症状・措置方法】中等度以上の羞明、虹彩炎等の眼炎症が高頻度に認められている。
【機序・危険因子】機序不明

併用注意:
【薬剤名等】タフルプロストを除く緑内障・高眼圧症治療薬:チモロールマレイン酸塩等
【臨床症状・措置方法】チモロールマレイン酸塩との併用例で結膜充血等の眼炎症性副作用の発現頻度の上昇が認められた。他の薬剤との併用経験はない。
【機序・危険因子】機序不明

他の緑内障治療薬併用時の安全性

国内第3相試験にて、0.5%チモロール点眼液との併用時に結膜充血等の有害事象の発現割合が高かったこと、0.5%チモロール点眼液と0.0015% タフルプロスト点眼液以外の薬剤とは併用経験が無く、安全性が検討されていないこと2)から、重要な不足情報に設定されました。

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
併用注意:
【薬剤名等】タフルプロストを除く緑内障・高眼圧症治療薬:チモロールマレイン酸塩等
【臨床症状・措置方法】チモロールマレイン酸塩との併用例で結膜充血等の眼炎症性副作用の発現頻度の上昇が認められた。他の薬剤との併用経験はない。
【機序・危険因子】機序不明

 

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 副作用等で、既存薬が使えない患者
[hukidashi name=”りんご” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/ringo.png” type=”left lp”]玄人向けっぽい。[/hukidashi]

キサラタンと有効性が非劣性で副作用が多いなら、キサラタン使うよね。と思いました。
実際、審査報告書でも以下のようなしょっぱい意見が出ています。

【審査報告書記載事項】
1.2 臨床的位置付け及び効能・効果について
専門協議では、専門委員からは、審査報告(1)に記載した「7.R.3 臨床的位置付け及び効能・効果について」に関する機構の考えを支持する意見に加えて、以下の意見が示された。

・本剤の有効性はLATに対する非劣性により説明されているが、眼炎症等の有害事象が既存の緑内障治療薬と比較して高発現すること、及び既存の緑内障治療薬との併用時における本剤の安全性等が十分に検討されていないことを考慮すると、本剤を緑内障及び高眼圧症に対する治療選択肢の一つとして位置付けることの妥当性が不明瞭である。

ちなみに上記意見に対しては、PMDAがフォローを入れています。

【審査報告書記載事項】
機構は、専門協議での議論を踏まえ、以下のように考える。

本剤の安全性について、眼炎症、黄斑浮腫及び角膜肥厚の発現割合は既存の緑内障治療薬と比較して高く、本剤の使用にあたってこれらの有害事象の発現に注意すべきであると考えるものの、眼内レンズ挿入眼の患者に対する本剤投与、及びTAFとの併用を禁忌と設定した上で、有害事象の観察及び管理、本剤の投与中止等の適切な対応を医療現場において実施することが可能となる安全対策を講じることを前提として、本剤は忍容可能である。

また、本剤の有効性については、第一選択薬として最も使用されているFP受容体作動薬であるLATに劣らない有効性が検証されていることに加え、循環器系、呼吸器系の有害事象の懸念等から第一選択薬とされているβ遮断点眼薬を使用できない患者がいること等を踏まえると、緑内障及び高眼圧症患者に対する新たな治療選択肢を提供する一定の意義はある。

PMDAがいうように、β遮断薬が使用できない患者は一定数いると思います。
また、FP受容体作動薬は、色素沈着や上眼瞼陥凹等の見た目が変わる副作用が多いので、それが「絶対イヤ!」という場合は選択肢のひとつにはなるのかなーと思います。

それに、エイベリスは他の緑内障治療薬が併用禁忌or注意なんですよね~…。
他剤と併用しづらいとなると、効果不十分時にあえてエイベリスを使う理由が、今のところ無いような気がします…。

「どうしても線維柱帯の方から房水排出させたい!」となったときに、グラナテック(ROCK阻害薬)と迷う感じですかねぇ。

 

類薬の投与を検討すべき患者像

  • 既存薬でコントロール可能な患者
[hukidashi name=”みかん” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/mikan.png” type=”right lg”]ファーストラインは引き続き、FP受容体作動薬とβ遮断薬かなぁ。[/hukidashi]

そんなわけで、キサラタンと効果が非劣性である以上、FP受容体作動薬の第一選択薬の地位は揺るがないと思います。
配合点眼剤も充実してますし。

他の緑内障治療薬との併用データが揃ってきたら、もうちょっと使いやすくなるかも…?

新規作用機序&海外未発売の薬剤は難しいですね。
専門医の先生方の評価を待ちたいと思います。

 

他の薬剤師さんは、エイベリスのことどう思ってるの?

エイベリスについて、他の薬剤師さんが書かれているブログはこちら!
当ブログを読んで「良くわからん」ってなった方は、こちらのブログ読めば大体解決するかと!

 

参考文献
1)緑内障・高眼圧症治療剤「エイベリス点眼液0.002%」の製造販売承認を取得, 参天製薬(株), http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1631166.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180914001/300237000_23000AMX00815_A100_1.pdf.
3)エイベリス点眼液0.002%, 添付文書, インタビューフォーム, 新医薬品の使用上の注意の解説, くすりのしおり.
4)緑内障診療ガイドライン(第4版), 日本眼科学会, http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/glaucoma4.jsp.
5)目の病気 緑内障, 日本眼科学会, http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ryokunai_ryokunai.jsp.
6)キサラタン点眼液0.005%, 添付文書, インタビューフォーム.