新薬雑感:ベオーバ錠

まずは基本情報

販売名 ベオーバ錠50mg
名前の由来 Beta 3 agonist for the patient with Overactive bladder
一般名 ビベグロン
会社名 杏林製薬(株)
*キッセイ薬品工業(株)と共同販売
薬効 選択的β3アドレナリン受容体作動薬
効能・効果 過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
用法・用量 1回50mg 1日1回食後

過活動膀胱ってこういう疾患

  • 急に我慢できない尿意をもよおし、何度もトイレに行きたくなる
  • 70歳以上の30%以上がかかっているとされる
  • 治療は、行動療法と薬物療法がメイン

過活動膀胱は、尿意切迫感(急に我慢できないような尿意をもよおす)・頻尿(何度もトイレに行きたくなる)・切迫性尿失禁(急に尿意をもよおし、我慢できずに漏らしてしまう)などの症状があらわれる疾患です。4),5)

高齢者に多い疾患で、70歳以上では30%以上の方が過活動膀胱であると推測されています。4)
生死に直結することはありませんが、社会的に死ぬ可能性があるので極めて重大な健康問題であると思います。

治療は「行動療法」「薬物療法」「手術療法」等に分けられます。6)
「行動療法」では、膀胱訓練(尿意を我慢して畜尿能力を高める)骨盤底筋体操(肛門や腟を締める体操、同時に尿道括約筋も締まる)などを実施します。6),7)

「薬物療法」では、膀胱平滑筋の収縮を抑制し、膀胱の異常な収縮を抑える作用を持つ「抗コリン薬」が用いられます。10)
また、近年では膀胱平滑筋を弛緩させ、膀胱の容積を増やす作用を持つ「β3アドレナチン受容体作動薬」を用いることもあります。3)

 

ベオーバってこういうくすり

  • 国内2成分目のβ3アドレナリン受容体作動薬
  • 1日1回食後投与

ベオーバは国内2成分目のβ3アドレナリン受容体作動薬です。

β3アドレナリン受容体は脂肪細胞・胃・小腸・結腸・脳・前立腺・膀胱・心血管系等で発現している受容体で13),14)、膀胱では平滑筋弛緩作用により膀胱の容積を増やし、尿を溜める働きをしています3)

ベオーバはこのβ3アドレナリン受容体へ選択的に結合し、過活動膀胱の症状を改善する作用を持っています。3)
β3アドレナリン受容体作動薬といえばベタニスしかなかったので、選択肢が増えたのは嬉しい限り。

用法はベタニスと一緒で、1回50mg1日1回食後投与
空腹時投与と比べて食後投与ではCmaxとAUCが低下するようですが、有効性と安全性に違いが無かったことから、患者の利便性を優先して食後投与としたそうです。2)
食事規定なしでも良かった気がしなくもない。

ちなみにベオーバはメルク社が創製した成分です。
メルクが第2相試験まで開発し、その後杏林製薬が日本国内の独占的な開発権等を取得しました。15)

 

既存薬と違う点は?

ベタニスと違う点は?

ベオーバはベタニスと比べて…

  • 警告・禁忌等が少ない
  • 併用禁忌・併用注意が少ない
  • 定期的な検査が不要
  • 減量基準がない

ベタニスと比べたベオーバの良い点は、注意点が少ないところです。

ベタニスでガッツリ指摘されていた生殖器系への影響・心血管系への影響・眼への影響9)等が、ベオーバでは特に問題無いと判断されたことから2)、警告や禁忌、慎重投与の記載がかなり少なくなっております。

ちなみにベオーバの慎重投与に「重篤な心疾患のある患者」「高度の肝機能障害のある患者」の記載がありますが、これは臨床試験での使用経験がないため設定されたとのことです。3)

 

また、併用禁忌・併用注意もベタニスに比べて少なめです。

ベタニスはCYP2D6とP-糖タンパク阻害作用があるので、他剤の代謝に影響を及ぼす懸念がありました。8)
一方ベオーバはCYP3A4とP-糖タンパクの基質ですが、阻害・誘導作用は示さなかったことが非臨床試験で確認されているため3)、他剤の代謝に強く影響する心配は少ないかと思います。

どちらかというと自分の代謝が影響を受ける側ですね。
実際、ベオーバの併用注意はアゾール系抗真菌剤&HIVプロテアーゼ阻害剤(CYP3A4&P-糖タンパク阻害)とリファンピシン・フェニトイン・カルバマゼピン(CYP3A4&P-糖タンパク誘導)というお馴染みのメンツ。
ベオーバ固有の注意事項はないかなーと思います。

 

あと患者さんも医療従事者も楽なのが、定期的な検査が添付文書に記載されていない点。
ベタニスは色々書いてありましたね。

【ベタニス錠:添付文書記載事項】
重要な基本的注意(抜粋):
1. 本剤投与によりQT延長を生じるおそれのあることから、心血管系障害を有する患者に対しては、本剤の投与を開始する前に心電図検査を実施するなどし、心血管系の状態に注意をはらうこと。

2. QT延長又は不整脈の既往歴を有する患者、及びクラスIA(キニジン、プロカインアミド等)又はクラスIII(アミオダロン、ソタロール等)の抗不整脈薬等QT延長を来すことが知られている薬剤を本剤と併用投与する患者等、QT延長を来すリスクが高いと考えられる患者に対しては、定期的に心電図検査を行うこと

5. 緑内障患者に本剤を投与する場合には、定期的な眼科的診察を行うこと

7. 血圧の上昇があらわれることがあるので、本剤投与開始前及び投与中は定期的に血圧測定を行うこと

特に眼科検診は、眼科医と連携しないといけないので大変だったと思います。

ベオーバは目への影響はプラセボと同程度だったそうなので2)、今のところベオーバに由来する定期的な検査は必要なさそうです。

 

最後に減量基準がない点。
これはメリットなのかわからんですが、管理する側は楽ですね。

腎機能障害患者にベオーバを投与すると、血中濃度が2倍弱上がります。3)
ただ、曝露量が200mg反復投与(日本人で安全性が確認されている最大用量)よりも少ないと推定されること、本薬100mg長期反復投与時に安全性上の問題が認められなかったこと3)から、減量は必要ないと判断されたようです。

販売名 ベオーバ錠 ベタニス錠
用法・用量 1回50mg 1日1回食後 1回50mg 1日1回食後
減量基準 1. 中等度の肝機能障害患者(Child-Pughスコア7~9)への投与は1日1回25mgから開始する。
2. 重度の腎機能障害患者(eGFR15~29mL/min/1.73m2)への投与は1日1回25mgから開始する。
警告 生殖可能な年齢の患者への本剤の投与はできる限り避けること。[動物実験(ラット)で、精嚢、前立腺及び子宮の重量低値あるいは萎縮等の生殖器系への影響が認められ、高用量では発情休止期の延長、黄体数の減少に伴う着床数及び生存胎児数の減少が認められている。]
禁忌 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.重篤な心疾患を有する患者
3.妊婦及び妊娠している可能性のある婦人
4.授乳婦
5.重度の肝機能障害患者
6.フレカイニド酢酸塩あるいはプロパフェノン塩酸塩投与中の患者
慎重投与 1.重篤な心疾患のある患者
2.高度の肝機能障害のある患者
1.クラスIA又はクラスIIIの抗不整脈薬を投与中の患者を含むQT延長症候群患者
2.重度の徐脈等の不整脈、急性心筋虚血等の不整脈を起こしやすい患者
3.低カリウム血症のある患者
4.肝機能障害患者(重度を除く)及び腎機能障害患者
5.高齢者
6.緑内障の患者
相互作用 CYP3A4又はP-糖タンパク(P-gp)の基質であることが示唆されている。 一部が薬物代謝酵素CYP3A4により代謝され、CYP2D6を阻害する。また、P-糖蛋白阻害作用を有する。
定期的な検査
(特に記載なし)
投与開始前及び投与中に、定期的に血圧測定
心血管系障害を有する患者:投与開始前に心電図検査
QT延長を来すリスクが高いと考えられる患者:定期的に心電図検査
緑内障患者:定期的な眼科的診察

 

注意しておきたいことは?

注意

尿閉(重要な特定されたリスク)

注意すべき有害事象(RMP)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 尿閉 添付文書(重大な副作用、重要な基本的注意)で注意喚起
医療従事者向け資材の作成と提供を実施
重要な潜在的リスク なし
重要な不足情報 なし

尿閉

後期国際共同第2相試験や国内第3相試験で発現が認められていること、類薬のベタニスで重大な副作用として注意喚起がされていること2)から、重要な特定されたリスクに設定されました。

尿閉に関連する有害事象の発現状況2)
後期国際共同第2相試験 本薬50mg投与群(148例):2例(尿閉1例、排尿困難1例)
プラセボ投与群(205例):1例(排尿困難1例)
トルテロジンER4mg投与群(257例):6例(尿閉2例、排尿困難3例、尿流量減少1例)
国内第3相試験 本薬50mg投与群(370例):2例(残尿量増加1例、尿流量減少1例)
プラセボ投与群(369例):1例(残尿量増加1例)
イミダフェナシン0.2mg投与群(117例):1例(排尿困難1例)

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
重大な副作用:
尿閉(頻度不明)
尿閉があらわれるおそれがあるので、観察を十分に行い、症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

余談:心血管系の有害事象は?

既存のβ3受容体作動薬で問題になっていた心血管系への影響ですが、ベオーバで問題になる可能性は低そうです。

QT/QTc評価試験の結果、本薬200mおよび400mg単回投与でQTc間隔が臨床的意義のある程度までは延長しなかったこと、臨床試験で血圧・脈拍に臨床的に重要な変化や傾向がみられなかったこと等が理由です。2)

RMPにも記載されなかったので、市販後は副作用報告等の通常の監視活動で情報が収集される予定です。

なお、重篤な心疾患を有する患者さんについては、臨床試験で除外基準になっていたため、慎重投与に記載されています。

 

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 抗コリン系薬の副作用が問題になっている高齢者
  • ベタニスが使いづらかった患者
[hukidashi name=”りんご” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/ringo.png” type=”left lp”]第一選択で使える人も多いのでは。[/hukidashi]

現在、抗コリン系薬の高齢者への投与は、副作用の観点からあまりオススメされていません。11)
特にオキシブチニンは高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015にて「可能な限り使用しない」12)と記載されていますので、ベオーバへの切り替えを検討しても良いのかなと思います。

また、他の抗コリン系薬についても「副作用が気になって飲むのがイヤ」「高用量じゃないと効かない」という場合は、一度ベオーバを試しても良さそうです。

【高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)記載事項】
L.抗コリン系薬
抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。

投与量、使用方法に関する注意:
認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholinergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。
抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。

他の薬効群の薬剤との相互作用に関する注意:
抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。

また、ベタニスが使いづらかった「心機能に問題のある患者」や「緑内障患者」等についても、ベオーバが使いやすそう。
海外未承認なのでエビデンスは少ないのですが、「抗コリンは使いたくないけどベタニスも使えない。困った。」という症例などでは、一考する価値があるかと思います。

薬剤師的には併用禁忌・併用注意薬が少ないのが嬉しい。

類薬(抗コリン系薬)の投与を検討すべき患者像

  • 抗コリン系薬で特に問題のない非高齢者
  • 生殖可能年齢の女性
[hukidashi name=”みかん” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/mikan.png” type=”right lg”]使用経験重視の患者は、引き続き抗コリン系薬が良さげ。[/hukidashi]

というても抗コリン系薬は圧倒的な使用経験とエビデンスがありますので、症状が安定していて副作用にも困ってない非高齢者でしたら、あえてベオーバに変える必要はないかと思います。

また、妊娠希望の女性に関しては、個人的にはまだ、あえて使わなくても良いかなぁと思います。難しいですけど。

ベタニスの警告に記載があった「生殖可能年齢の男女への投与」については、ベオーバは特に記載がありませんでした。
審査報告書を紐解いても生殖発生毒性試験の結果しか書かれていないので、どういう議論があったのか、またなかったのかはわかりません。

ベタニスで個人的に「あっ…」ってなったウサギの母動物および胚・胎児発生の無毒性量を見ると、ベタニスの無毒性量が3mg/kg/日8)なのに対し、ベオーバは100mg/kg/日。3)
結構許容範囲が広がったなーという印象です。

なので、生殖可能年齢の男性(って何歳までなんだ…)に関しては、特に気にすることなく(他の新薬と同程度の注意で)使っても良いのかなと思います。

ただ、ベオーバちゃん海外未承認なのでまだまだ隠された副作用がある可能性がありますからね。
妊娠希望の女性が薬物治療するなら、まず抗コリン系薬で良いんじゃないかなぁ。

ちなみに妊婦は有益性投与ですが、動物実験(ラット)で胎児への移行が報告されているので、こちらも様子見したいです。
ベタニスで見られた生殖発生毒性はβアドレナリン受容体刺激作用に基づくもの9)ですし、経口β2刺激薬でも催奇形性が見られているので、あえて妊婦の第一選択薬で使うことはないかな、という印象です。

 

ベタニスに比べてベオーバは使いやすそうなんですけど、根拠が「臨床試験でそういう結果だったから。」というのが多少心配なんですよね~。
作用機序的にビシッと違いが判明すれば納得できるのですが…うーん。
個人的には、もうちょっと使用経験が蓄積するのを待ちたいなーと思います。

 

他の薬剤師さんは、ベオーバのことどう思ってるの?

ベオーバについて、他の薬剤師さんが書かれているブログはこちら~。
自分に無い視点がある記事は、とっても勉強になります!

https://twitter.com/shinyaku_online/status/1045504715818237952

 

参考文献
1)過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」の製造販売承認取得について, キョーリン製薬ホールディングス(株), http://www.kyorin-pharm.co.jp/news/b2c4847e1b4ad94fe3dcccc41486030e224ae412.pdf.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20181016001/230109000_23000AMX00813_A100_1.pdf.
3)ベオーバ錠50mg, 添付文書, インタビューフォーム, 新医薬品の使用上の注意の解説.
4)「過活動膀胱治療薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について, 薬食審査発第0628001号, 平成18年6月28日, https://www.pmda.go.jp/files/000206216.pdf.
5)過活動膀胱(OAB)の症状・原因と治療法, 排尿トラブル改善.com, https://www.hainyou.com/w/oab/index.html.
6)一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル(改訂版), 国立長寿医療センター泌尿器科, http://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/urination_manualv2.pdf.
7)高齢者尿失禁ガイドライン, 国立長寿医療センター, http://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/guidelines.pdf.
8)ベタニス錠25mg・50mg, 添付文書, インタビューフォーム,
9)ベタニス錠25mg・50mg 審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100119/80012600_22300AMX00592_A100_1.pdf.
10)ウリトス錠0.1mg・OD錠0.1mg, 添付文書, インタビューフォーム,
11)高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)について, 医政安発0529第1号, 薬生安発0529第1号, 平成30年5月29日.
12)高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015, 日本老年医学会, https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf.
13)β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロンの創製, J-Stage, https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/6/50_533/_pdf.
14)食品健康影響評価の結果の通知について(特定保健用食品評価書 蹴脂茶), 府食第413号, 平成27年5月12日, http://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kya20131125395&fileId=201.
15)米国メルク社との過活動膀胱治療薬「ビベグロン」の国内ライセンス契約締結について, キョーリン製薬ホールディングス(株), http://www.kyorin-pharm.co.jp/news/docs/%E3%83%93%E3%83%99%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf.