スーグラ、キイトルーダ等の適応が追加されました(2018年12月)

12月21日、11月、12月の第一・第二部会で審議・報告された品目の一部が適応追加されたようなので、まとめました。

効能等追加品目の一覧

今回承認された効能等追加品目の一覧です。
会社名をクリックすると、各社のニュースリリースに飛びます。
(直PDFのリンクもありますので、ご注意ください。)

効能等追加品目

 

販売名(一般名) 会社名 効能等追加事項
スーグラ錠25mg・50mg
(イプラグリフロジン L-プロリン)
アステラス
*販売提携:寿
SGLT2阻害薬
追加適応:1型糖尿病
キイトルーダ点滴静注20mg・100mg
(ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))
MSD
*販売提携:大鵬薬品
抗PD-1抗体製剤
追加適応
・悪性黒色腫
※術後補助化学療法の適応追加
・切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
※「PD-L1陽性」の制限解除
・がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)

追加用法
・悪性黒色腫 ※固定用量へ変更
コセンティクス皮下注150mgシリンジ・ペン
(セクキヌマブ(遺伝子組換え))
ノバルティス
*販売:マルホ
抗IL-17A抗体製剤
追加適応:強直性脊椎炎
テセントリク点滴静注1000mg
(アテゾリズマブ(遺伝子組換え))
中外 抗PD-L1抗体製剤
追加用法:化学療法未治療の扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
※カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチン併用療法の用法等追加
ヘムライブラ皮下注30mg・60mg・90mg・105mg・150mg
(エミシズマブ(遺伝子組換え))
中外 抗血液凝固第IXa/X因子二重特異性抗体
追加適応:先天性血液凝固第VIII因子欠乏患者における出血傾向の抑制
※「血液凝固第VIII因子に対するインヒビターを保有する」の制限解除

気になるのは…

今回気になるのばっかりですね!
モソモソ語ります~。

スーグラ

1型糖尿病の適応が追加されました。

用法・用量は、インスリンとの併用が必須の点以外は2型糖尿病と一緒。
1回50mgの1日1回朝食前or朝食後投与です。

用法・用量:
2型糖尿病
通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。
なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。

1型糖尿病
インスリン製剤との併用において、通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。
なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。

注意点は2つ。
「絶対にインスリンを中止しないこと」と「ケトアシドーシスに注意すること」です。

スーグラを1型糖尿病患者に使う場合は、インスリンを中止してはいけません。
急にインスリンを中止すると、急激な高血糖やケトアシドーシスが起こる恐れがあるからです。2)

基本的に1型糖尿病の方は、外部からインスリンを補充しないと糖からエネルギーを取り出すことができません。
SGLT2阻害薬は血液中に余ってる糖をジャンジャカ捨てるクスリであって、糖からエネルギーを取り出す作用は無いので、作用機序的にも1型糖尿病を単剤でどうにかする力は無いと思います。

1型糖尿病の患者さんにスーグラだけが処方されてたら、インスリンも併用しているかご確認ください~。

一方、インスリンとSGLT2阻害薬と併用することで、インスリン製剤の減量が出来る可能性があります。
臨床試験では、低血糖リスクの低減のため、1日量を15%減量することが推奨されていました。2)

ただ15%一気に減らすとケトアシドーシスになる恐れがあるので、専門医の下ゆっくりと減量して行くことになるかと思います。
1型糖尿病はケトアシドーシスとの闘いですね…。
添付文書にも「患者に対し、以下の点を指導すること」と記載があります。

重要な基本的注意(抜粋):
(3)患者に対し、以下の点を指導すること。

・ケトアシドーシスの症状(悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害等)。
・ケトアシドーシスの症状が認められた場合には直ちに医療機関を受診すること。
・血糖値が高値でなくともケトアシドーシスが発現しうること。

特に、1型糖尿病患者に対しては、上記3点に加えて、ケトアシドーシス発現リスクが高いことも説明すること。

 

キイトルーダ

キイトルーダはいっぱい変更ありますよ!!

悪性黒色腫(メラノーマ)

メラノーマは術後補助化学療法の適応追加と、固定用量への変更がありました。
これでオプジーボに続き、キイトルーダも全適応が1回200mgの固定用量になりましたね。

ちゅーわけで20mg製剤の出番が無くなりました…合掌。
用法・用量の経過措置は、2019年1月31日までだそうです。3)

非小細胞肺がん

こちらは「PD-L1陽性」の制限が外れましたね。
これはニュースリリースによると、以下の2点が内包されてるようです。4)

・PD-L1発現にかかわらず切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌 (非扁平上皮癌/扁平上皮癌)に対する初回治療としての併用療法
・PD-L1陽性(TPS≧1%)の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対する初回治療としての単独療法

もともと1次治療(化学療法未治療)は、TPS50%以上でしか有効性が確認されてませんでしたが、今回の適応拡大でTPS1%以上まで条件が緩和されました。
(TPS1~49%は、サブグループ解析の結果が微妙だった&ガイドラインにでキイトルーダ単剤投与の記載なしなので、実際使われるかはわかりませんが…。)

また、化学療法を併用する場合は、PD-L1の発現率は関係なしに使えるようになりました。

併用する化学療法剤は、添付文書上は指定されておらず、「臨床成績の項見てね~。」となっております。
最適使用推進ガイドラインには以下のように記載。5)

2. 本剤の他の抗悪性腫瘍剤との併用投与は下記の患者において有効性が示されている。
・ペメトレキセド及びプラチナ製剤との併用投与:化学療法歴のない、EGFR遺伝子変異陰性及びALK融合遺伝子陰性の切除不能な進行・再発の非扁平上皮非小細胞肺癌患者
・カルボプラチン及びパクリタキセル又はnab-パクリタキセルとの併用投与:化学療法歴のない切除不能な進行・再発の扁平上皮非小細胞肺癌患者

3. 化学療法歴のない進行・再発の非小細胞肺癌患者は、PD-L1検査でPD-L1陽性(TPS≧1%)であれば、本剤の単独投与を考慮するべきである。
また、標準化学療法に対する忍容性に問題がないと考えられる患者に対しては、PD-L1発現状況にかかわらず、それぞれの組織型に対して適切な標準化学療法との併用投与を考慮することができる。
なお、本剤の投与にあたっては、肺癌診療ガイドライン(日本肺癌学会編)等を参照すること。

参考 最適使用推進ガイドライン(医薬品)PMDA

MSI-High(エムエスアイ ハイ)がん

最後にMSI-Highがんの適応追加です。

MSIは「マイクロサテライト不安定性:Microsatellite Instability」という意味です。よく分かりませんね。
結論からいうと、MSIはDNAの損傷度合いを示す指標です。

マイクロサテライトというのは、DNA上にある特定の短い塩基配列の繰り返しです。6)
CACACA…とか。

で、このマイクロサテライトは、DNAの複製時にミスが起きやすい部分です。
通常は修復機構で正しい配列に修復されますが、がんは修復機構がバグってる(ことが多い)ので、うまく修復がされません。

こうやって蓄積した、異常な塩基配列の繰り返しを「MSI」といいます。6)
MSIが多く生じているがんを「MSI-Highがん」といいます。

MSI-Highがんは様々ながん腫で存在しており、とりわけ子宮内膜がんや胃腺がん、小腸がん、結腸・直腸がんなどに多くみられます。6)
また、遺伝性のがんであるリンチ症候群も、MSI-High(というかDNAミスマッチ修復の異常)が原因とされております。

薬剤師的には、「色んながん腫の人がキイトルーダを使うようになったよ!」という点と、「遺伝カウンセリングを受けた方が良い場合があるよ!」という点を留意いただければ良いかと。
特に後者ですね。
「遺伝子情報は究極の個人情報」といわれますし、キイトルーダの服薬指導に当っては、遺伝性疾患の可能性を心に留めながら対応する必要が出てくるかと思います。

この辺は日本家族性腫瘍学会に詳しく載っていますので、ご興味ある方はゼヒ。

免疫チェックポイント阻害薬の適応判定のためのMSI検査実施について

MSI(マイクロサテライト不安定性)検査は、これまで遺伝性腫瘍症候群であるリンチ症候群のスクリーニングや補助診断のために利用されてきた検査ですが、この度、免疫チェックポイント阻害薬の適応判定に用いるコンパニオン診断薬としてのMSI検査が健康保険適用となりました。

このように、リンチ症候群のスクリーニングを主目的としないMSI検査の場合は、1)検査の目的、2)検査の費用、3)リンチ症候群のスクリーニングにもなりうることを説明し、同意を得たことを診療録に明記した上で検査を実施すること、と「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版2016年11月(日本臨床腫瘍学会編)」に記載されています。

しかしながら、医療機関によっては、リンチ症候群とも関りがあるMSI検査の実施に際し、文書による説明・同意取得を希望されることが予想されます。

日本家族性腫瘍学会では、薬物療法のコンパニオン診断としてのMSI検査を実施する際の説明文書・同意書の参考文書を作成し、ホームページに掲載しました。この説明文書・同意書(参考文書)を利用される場合は、各施設の倫理規範や診療体制等に合わせて適宜修正し、各医療機関の責任のもとでご利用ください。

参考 免疫チェックポイント阻害薬適応判定のためのマイクロサテライト不安定性(MSI)検査(説明文書・同意書)日本家族性腫瘍学会

 

なお、2019年に改訂予定の「大腸癌治療ガイドライン」の中で、「MSI-HまたはdMMRの切除不能大腸癌既治療例に、抗 PD-1 抗体薬療法を行うことを強く推奨する。(推奨度1・エビデンスレベルB)」ことになる予定です。8)

注意:まだ案です!!正式版ではありません!!

CQ23:大腸癌に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?
MSI-HまたはdMMRの切除不能大腸癌既治療例に、抗PD-1抗体薬療法を行うこと強く推奨する。
(推奨度 1・エビデンスレベル B)

・・・ 一方、pMMRまたはNon-MSI-H大腸癌に対しては、抗PD-1抗体単剤療法は無効であり、推奨されない。
現在、免疫チェックポイント阻害薬併用療法の臨床試験が行われているが、現時点ではその有用性は明らかではなく臨床試験以外では使用されるべきではない。

また、元々、MSI検査およびMMR蛋白質免疫染色はリンチ症候群のスクリーニング検査として用いられていていることから、本検査を行う際には、事前に本検査がリンチ症候群のスクリーニングにもなりえる点を説明し、陽性であった場合には遺伝カウンセリングと確定診断のための遺伝学的検査(自費診療)への対応が必要となることを想定した体制整備が求められることに留意されたい。

参考 ガイドライン改訂案に関するパブリックコメント募集大腸癌研究会

 

テセントリク

テセントリクは「化学療法未治療の扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対して、カルボプラチン+パクリタキセル+アバスチンとの併用療法が追加されました。

今回、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用が熱いですね…!
キイトルーダと違って、テセントリクは併用する相方が指定されているので注意。

この辺の違いは、臨床試験の設定によるものと思われます。

最適使用推進ガイドラインも改訂されておるよ~。

参考 最適使用推進ガイドライン(医薬品)PMDA

 

ヘムライブラ

最後はヘムライブラだ!

ヘムライブラは「インヒビター保有の」の制限が取れました。
第一選択で使えるようになりましたね!

そして2週に1回&4週に1回の用法・用量が追加されました。
既存の血友病A治療薬で、投与間隔が一番長いのがイロクテイトの週1回。
4週に1回って4倍の間隔じゃないか…!

血友病治療薬ということで、あまりなじみの無い薬剤師さんも多いかと思いますが、個人的に今回のイチオシ適応追加はヘムライブラちゃんです。
使いやすいクスリは良いですねぇ。

なお、今回の適応追加に伴い、留意事項通知から「インヒビター力価の測定年月日を診療報酬明細書の摘要欄に記入すること。」の一文が削除されました。10)

 

その他の薬剤は…?

同日付で部会を通ったゴナックス、ビソノテープ、ビムパット、レベトールの効能追加はまだです。
新薬の承認と同じタイミングになると思うので、年明けですかねぇ…。

いつもは12月に新薬が承認されるので、今くらいのタイミングなんですけどね。
何の影響なんだろ~。やっぱ増税に伴う薬価改定の影響?

 

参考文献
1)各社プレスリリース
2)各製品添付文書
3)ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)製剤(遺伝子組換え)製剤の使用に当たっての留意事項について, 薬生薬審発1221第1号, 平成30年12月21日.
4)抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「キイトルーダ」、以下の効能・効果について一部変更承認を取得, MSD(株), http://www.msd.co.jp/newsroom/msd-archive/2018/product_news_1221.xhtml.
5)抗PD-1抗体抗悪性腫瘍剤及び抗PD-L1抗体抗悪性腫瘍剤に係る最適使用推進ガイドラインの改訂等に伴う留意事項の一部改正について, 保医発1221第3号, 平成30年12月21日.
6)インフォームドコンセント用資料 MSI-High固形がん, MSD(株), https://www.msdconnect.jp/static/mcijapan/pdf/keytruda_ictool_MSI-High_KMS18PH0016.pdf.
7)ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌)の作成及び最適使用推進ガイドライン(非小細胞肺癌、悪性黒色腫)の一部改正について, 薬生薬審発1221第5号, 平成30年12月21日.
8)改訂のポイント(2018年7月6日 第89回大腸癌研究会 公聴会資料より), 大腸癌研究会, http://www.jsccr.jp/guideline/data/guideline_2019_point.pdf.
9)アテゾリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(非小細胞肺癌)の一部改正について, 薬生薬審発1221第9号, 平成30年12月21日.
10)ヘムライブラ皮下注30mg、同皮下注60mg、同皮下注90mg、同皮下注105mg及び同皮下注150mgの医薬品医療機器等法上の効能・効果等の変更に伴う留意事項の一部改正について, 保医発1221第2号, 平成30年12月21日.