新薬雑感:コレクチム軟膏

まずは基本情報

販売名 コレクチム軟膏0.5%
名前の由来 免疫(IMMU)をただす(CORRECT)
一般名 デルゴシチニブ
製造販売会社 日本たばこ産業(株)
販売会社 鳥居薬品(株)
薬効 外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬
効能・効果 アトピー性皮膚炎
用法・用量 1日2回 適量を患部に塗布
最高1回塗布量:5g

アトピー性皮膚炎ってこういう疾患

  • 悪くなったり良くなったりを繰り返す、かゆみのある皮膚疾患
  • 治療目標は、日常生活に支障が無い状態の維持
  • 治療の基本は、保湿とステロイド外用剤

アトピー性皮膚炎は、悪くなったり良くなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹を伴う疾患です。5)
患者の多くは、家族がアトピーや喘息だったり、IgE抗体を産生しやすかったりといった「アトピー素因」を持っています。5)

一般的には子どものころに発症し、大きくなるにつれて自然に治ることが多いです(年齢別の有症率:乳児で6~32%、学童で5~15%)。5)
一方で、一部の患者は成人型のアトピー性皮膚炎に移行します。5)

治療の目標は、症状がなく(または軽い)、日常生活に支障がなく、薬物療法をあまり必要としない状態を維持することです。5)
そのために薬物療法やスキンケア、悪化する因子の除去等を行います。3)

薬物療法の中心は、ステロイド外用剤です。
患部や症状、年齢等によって、適切な強さのステロイドを使います。3)
また、ステロイド外用剤だけでは治療が難しい場合は、タクロリムス軟膏を用いることもあります。3)

というかあれよ。良い本あるんで読んでください。

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コレクチムってこういうくすり

  • 日本初の、外用JAK阻害薬
  • 1FTU(finger tip unit)が約0.5gになるように新規設計した、5gチューブを採用
  • 1回の最大塗布量は5g

コレクチムは、日本初の外用JAK阻害薬です。

JAK阻害薬自体は、関節リウマチに使うゼルヤンツ・オルミエント・スマイラフが既に発売されてます。
今回初なのは、「外用」ってところです。

JAK阻害薬は、細胞内のJAK/STAT経路を抑制し、免疫細胞や炎症細胞の活性化を抑制する働きがあります。3)
また、皮膚バリア機能関連分子の発現低下を抑制する…皮膚バリアをキープするってことですかね…ので、皮膚バリア機能の低下に伴うかゆみを抑えます

薬剤師的に気になるのは、チューブの設計です。
今回1FTUが約0.5gになるように、新設計されたチューブを使っているそうです。

*ワン・フィンガー・チップ・ユニット:ひとさし指の先端から第一関節まで、軟膏を押し出したときの量。軟膏やクリームの塗る量の目安に使われる。

1FTUといいつつも、チューブの口径によって出てくる量が違ってしまう点が、常々問題になってましたよね。
どういう設計なのかはよくわかりませんが、1FTUの量が示されているのはありがたいと思いました。

なお、1回の最大塗布量は5gです。
安全性と伸展性(のびやすさ)を加味して、体表面積の30%程度まで塗布できる量として設定されたそうです。2)

既存薬と併用できるの?

既存薬と併用可能です。

まず保湿剤。
これは臨床試験で併用されていたので2)、特に問題ナシかと思います。
作用機序的にも問題なさそうですし。

次にステロイド外用剤。
こちらは第3相継続投与試験・長期投与試験で併用可能でした。2)
その結果、併用しても安全性に問題が無いことが確認されています。2)

最後にタクロリムス軟膏。
こちらは臨床試験で使用禁止だったため、併用データはありません2)
しかし、塗布量を考えるとコレクチムが全身作用を示す可能性は低いため、お互いの有効性・安全性に影響はないと考えられています。2)
よって、特に併用を制限する必要はない、と結論づけられました。2)

ただし、タクロリムス軟膏については、併用を推奨できる根拠も乏しいため、医師が病変部位によって使い分ける等の判断が望まれるようです。2)

 

外用剤以外の治療薬(シクロスポリン・デュピルマブ)に関しても、特に併用の制限はありません。2)
(ただし、こちらも臨床試験では併用禁止でした。)

作用機序的には併用によって免疫抑制効果が増強する可能性はあります。
しかし既存外用薬との併用に比べて、コレクチムが特段問題になる可能性は低い、と考えられたようです。2)

小児適応は?

残念ながら、いまのところありません
2020/05/29に小児用規格が申請されましたので、承認を待ちましょう。9)
予定適応は「2~16歳の小児のアトピー性皮膚炎」です。9)

 

既存薬と違う点は?

プロトピックと違う点は?

コレクチムはプロトピックと比較して…

  • 警告の記載が無い
  • 光線療法と併用できる
  • 皮膚刺激感の説明が不要
  • 小児適応が無い(承認申請中)
  • 後発品が無い

コレクチムとプロトピックは作用機序が違うので厳密には比べられないのですが、使うタイミングが一緒なのでちょっと考えて見ました。

コレクチムは、現時点では警告の記載がありません
プロトピックは血中濃度が高くなると諸処の副作用が増えるので、その旨が警告欄に記載されています。7)

 

また、プロトピックは紫外線療法と併用できません
紫外線照射により皮膚腫瘍を発症するマウス(アルビノ無毛マウス)を使った実験で、紫外線照射にプロトピックを併用すると、皮膚腫瘍の発生時期が早まることが示されています。7)
そのため、プロトピックは紫外線療法と併用できませんし、日光への暴露も最小限にとどめる必要があります。7)

コレクチムは、第1相皮膚安全性試験などで光毒性が認められなかったことから、紫外線療法との併用を制限する必要はないと考えられています。2)

 

あとは、皮膚刺激感ですね。
プロトピックは、灼熱感やほてり、痛みといった皮膚刺激感が高頻度に認められます。
そのため、患者さんにその旨を十分説明するよう添付文書に記載されています。7)

コレクチムも適用部位刺激感やそう痒感が認められてはいますが、特に説明する旨の記載はありませんでした。3)
まー外用剤と適用部位の違和感は切っても切れないので、有害事象として何例か報告されるのは仕方ないかなって思います。

 

一方、コレクチムは現時点で小児適応がありません
ただ、2020/05/29付で小児用製剤の承認申請がされましたので、来年くらいには使えるようになるのではなかろうか。9)

あと後発品も無いですね。
プロトピックは後発品があります(成人用のみ、小児用は無い)。

販売名 コレクチム プロトピック
有効成分 デルゴシチニブ タクロリムス
警告 - あり
小児適応 なし(申請中) あり(小児用規格)
用法 1日2回 5gまで 1日1~2回 5gまで
定期的な検査 - 腎機能検査
(重度皮疹に使う場合等:使用開始2~4週間後、その後必要に応じて)
併用禁忌 - PUVA療法等の紫外線療法

 

注意しておきたいことは?

注意
皮膚感染症(重要な特定されたリスク)
悪性腫瘍(重要な潜在的リスク)

注意すべき有害事象(RMP)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 皮膚感染症 添付文書(特定の背景を有する患者に関する注意、その他の副作用)で注意喚起
重要な潜在的リスク 悪性腫瘍 なし
重要な不足情報 なし -

皮膚感染症

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリアが低下していること、および皮膚免疫活性が低下していることから、皮膚感染症を合併しやすい疾患です。2)
また、コレクチム(JAK阻害剤)は免疫細胞や炎症細胞の活性化を抑制する作用があります。

そのため、皮膚感染症のリスクが高まる可能性があることから4)、重要な特定されたリスクに設定されました。

皮膚感染症の発現状況4)
国内第3相試験 コレクチム投与群(506例):39例

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 皮膚感染症を伴う患者
皮膚感染部位を避けて使用すること。
なお、やむを得ず使用する場合には、あらかじめ適切な抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤による治療を行う、若しくはこれらとの併用を考慮すること。

悪性腫瘍

国内臨床試験では、悪性腫瘍に関連する副作用報告はありませんでした。4)
しかし、既存の経口JAK阻害剤で悪性腫瘍の発現が報告されていることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。

コレクチムは外用剤なので、経口薬に比べて全身への作用は少ないと考えられますが、悪性腫瘍の発現状況を把握しておく必要があることから、RMPに記載されたようです。

 

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 既存薬では効果不十分な患者
  • 外で働く患者
  • プロトピックの刺激が耐えられない患者
りんご
既存治療にプラスできるのが強み。

コレクチムは既存の治療法との併用制限がありません
なので、既存治療で上手くいってない患者さんに、上乗せしやすい治療かと思います。

やっぱ外用剤っていうのが、気軽に上乗せしやすくて良いですよね。
「既存薬だと今ひとつなので、注射しますか!」って言われると「ちょっと待って!」と言いたくなりますが、外用剤だと心理的ハードルが少ない気がする。(注射嫌い)

ただ、併用OKなんですけど、長期安全性試験では外用ステロイド以外の併用が禁止だったんですよね…。
なので日本皮膚科学会の安全使用マニュアルでも「同一部位への併用はデータが無く、安全性が不明である」と記載されています。8)

 

あとは外で働く方。
プロトピックは紫外線NGなので、コレクチムの方が使いやすいかもしれません。
まーこれも安全使用マニュアルで「本剤が有する免疫抑制作用を踏まえると、光線療法と本剤を併用する場合には、皮膚腫瘍発生のリスクが高まることを考慮し…」と記載されている8)のですが…。
臨床試験で光毒性が見られなかったこと鑑みると、プロトピックを使うよりは良いのかな~と思います。
でも「なるべく長袖を着てね」位は、服薬指導時に言いたいかな~。

 

最後にプロトピックの皮膚刺激がツラい方。
皮膚刺激感は、皮膚の状態が改善するにつれて少なくなっていきます。7)
なので、基本は治るまでガマンする、です。

そうは言っても、痛みの耐性って人によって違います。
痛みに耐えられなくて塗りたくない…と治療から脱落してしまったら、本末転倒ですよね。
そういった患者さんには、皮膚刺激が少ない(と思う)コレクチムの方が続けやすいかもしれません。
皮膚状態が多少改善してからプロトピックに戻っても良いですしね。
無理なく続けられるのが一番かと。

 

類薬の投与を検討すべき患者像

  • 既存薬で治療できそうな患者
  • 外用剤のコンプライアンスが悪い患者
  • 少しでも治療費を安く抑えたい患者
みかん
朝晩塗るクスリが増えるのは大変。

とはいえ新薬、しかも日本が初承認の薬剤です。
まだまだ知らない有害事象が出る可能性は大いにあります

なので、既存薬で治療できそうな患者に、あえてコレクチムを使う必要はないかな、と思います。

 

また、そもそも現時点で保湿剤もきちんと塗れてない患者の場合は、塗り薬をもう一個足しても塗れない可能性が高いです。
特に朝って忘れますよね~…さらに夏って日焼け止めも塗るじゃないですか。
軟膏塗って軟膏塗ってクリーム塗って日焼け止め塗って…って朝の忙しいときにやるのは大変過ぎますヨネ…(朝弱い勢)。

ちなみに用法は「1日2回」なので、12時間空ければ朝晩じゃなくて昼寝る前とかでもOKです。
あと、どーーしても塗る時間が取れない人は、注射や光線療法を考慮しても良いのかなと、個人的には思います。
人生には、自分の皮膚のことばっかり考えられない時期ってあると思うので。

 

あとはお値段ね。新薬なのでやっぱり高いです。1g139.70円ナリ。
プロトピックの後発品は50.70円のヤツがありますからね。倍以上違います。
成人で3割負担なことを考えると、「高いからちょびっとずつ使おう…」ってなっちゃう位なら、別の薬剤の方が良いかもしれません。

 

 

長く付き合う疾患に新規作用機序の薬剤が増えるのはありがたいですね。
患者さんが病気を上手く付き合っていく手段の一つになれば良いなぁと切望しています。

 

参考文献
1)‪アトピー性皮膚炎治療薬「コレクチム軟膏 0.5%」の日本国内における製造販売承認取得について‬, 日本たばこ産業(株), 2020年1月23日, https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/2020/pdf/20200123_J01.pdf.
2)審査報告書, PMDA, https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20191209001/530614000_30200AMX00046_A100_1.pdf.
3)コレクチム軟膏0.5% 添付文書, インタビューフォーム.
4)RMP, PMDA, https://www.pmda.go.jp/RMP/www/530614/a77ed290-135e-42c4-8ba3-82c4d0c3b9f0/530614_26997A2M1020_001RMP.pdf.
5)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018, 日本皮膚科学会, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_gl1221.pdf.
6)‪アレルギー総合ガイドライン2019, 日本アレルギー学会, https://www.jsaweb.jp/modules/journal/index.php?content_id=4.‬
7)プロトピック軟膏0.1%・0.03%小児用 添付文書, インタビューフォーム.
8)デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏0.5%)安全使用マニュアル, 日本皮膚科学会, https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/Delgocitinib_guidance_2.pdf .
9)JAK 阻害剤「JTE-052(デルゴシチニブ)軟膏」の日本国内における製造販売承認申請等(小児アトピー性皮膚炎)について, 鳥居薬品(株), https://www.torii.co.jp/release/2020/20200529_1.pdf.