まずは基本情報
販売名 | ユリス錠0.5mg・1mg・2mg |
名前の由来 | Urate Reduce |
一般名 | ドチヌラド |
製造販売会社 | (株)富士薬品 |
販売会社 | 持田製薬(株) |
薬効 | 尿酸再吸収阻害薬 |
効能・効果 | 痛風、高尿酸血症 |
用法・用量 | 1回2mg 1日1回 開始量:1回0.5mg 最大投与量:1回4mg |
ニョウサン、ヘラセ。
高尿酸血症ってこういう疾患
- 身体に尿酸が溜まった状態
- 6割が、尿酸が身体から出て行きにくくなる病型
- 尿酸の数値や症状によって、治療を選択する
高尿酸血症は、身体に尿酸が蓄積した状態のことです。2)
男女問わず、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えた状態と定義されています。5)
尿酸値が高い状態が続くと、関節や腎臓・尿管等に結晶ができ、関節炎や結石をきたします。5)
これが痛いヤツね。うちの父もたびたび悶絶しておりました…。
高尿酸血症は、原因によって大きく3つの病型(尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型※、混合型)に分けられます。2)
日本では、尿酸排泄低下型が約60%、尿酸産生過剰型が12%、混合型が25%と報告されています。2)
※新しいガイドラインでは、新たに「腎外排泄低下型」が追加され、尿酸産生過剰型と合わせて「腎負荷型」という分類になっています。5)
治療は、病型に応じた薬物治療が推奨されていました。2)
が、排泄低下型に尿酸生成抑制薬を使っても効くので、現在、病型分類に応じて治療薬を選択する意義の議論中です。5)
実際、現場ではフェブキソスタット51.5%、アロプリノール39.0%と、尿酸生成抑制薬が多く処方されているようです2)。
ベンズブロマロンは8.8%2)…悲しい。
ユリスってこういうくすり
- 新しい尿酸排泄促進薬
- 1日1回投与
ユリスは、ユリノームやベネシッドに代表される尿酸排泄促進薬のひとつです。
ユリノームによる肝障害の原因と考えられている、ミトコンドリア障害やCYP2C9阻害作用による薬物相互作用の少ない薬剤を目指して開発されました。3)
用法はフェブリクに似ていて、1日1回投与で用量は漸増していきます。3)
漸増の理由は、急激に尿酸値を下げることで痛風発作を誘発しないためです。
ちょっとずつ下げるのがスタンダード。
既存薬と違う点は?
ユリノームと違う点は?
- 効果は同等(非劣性)
- 用法がシンプル
- 適応がちょっと広い
- 禁忌が少ない
- 代謝経路が違う
ユリスとユリノームは、同じ尿酸排泄促進作用を持つ薬剤です。
国内第3相試験で両剤を比較した結果、効果は非劣性であったことが示されています。2, 3)
用法は、ユリスは1日1回とシンプル。
ユリノームは、患者に合わせて1日1~3回投与です。
ユリスは時間をかけて漸増することが添付文書に記載されており、イマドキの新薬っぽいですね。
一方、ユリノームはザックリした用法・用量で、昔ながらの薬って感じ。
また、ユリスは適応がちょっと広いですね。
ユリノームは「痛風」と「高尿酸値を伴う高血圧」で、尿酸値が高いだけの人は高血圧でないと使えません。6)
なんでこういう適応なのかはわかりませんでした…。
1978年承認の薬だからなぁ~…ネットに情報が転がってないのよね。
ただ、高尿酸血症(not痛風)の薬物治療についてはかなり慎重な印象をガイドラインから受けるので、適応の広さが直接問題になることは少なそうです。
(なんなら「高尿酸血症合併高血圧患者に対して、生命予後ならびに心血管病発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は積極的には推奨できない。」5)って書いてありますし。)
あと禁忌ね。ユリスは禁忌が少ないです。
少ないっていうか過敏症だけです。3)
ユリノームは、肝障害のある患者、腎結石の患者、妊婦・妊娠している可能性のある患者も禁忌です。6)
特に肝臓については、重篤な肝障害を起こる可能性があるため、ユリノームの投与前や投与中に定期的な肝機能検査が必要です。6)
ユリスも定期的な肝機能検査の記載はあります3)が、これはどちらかというと類薬(ユリノーム)で肝障害が報告されてるから念のためね?という部分が大きそうです。
最後に代謝経路。
ユリノームはCYP2C9で代謝されます。6)
またCYP2C9阻害作用もあり、ワルファリンと併用注意です。6)
ユリスはCYPではなく、主にグルクロン酸抱合や硫酸抱合で代謝されます。3)
販売名 | ユリス | ユリノーム |
有効成分 | ドチヌラド | ベンズブロマロン |
適応 | 痛風、高尿酸血症 | 下記の場合における高尿酸血症の改善 痛風、高尿酸血症を伴う高血圧症 |
用法 | 1日1回 | 1日1~3回 |
警告 | – | あり(肝障害) |
肝機能検査 | 投与中、定期的に実施 | 投与前、投与開始6ヵ月間は必須、その後も定期的に実施 |
特定患者群への投与 | ||
肝機能障害患者 | 慎重な経過観察を行うこと | 禁忌 |
重度(高度)の腎機能障害患者 | 他剤での治療を考慮 | 禁忌 |
腎結石を伴う患者 | やむを得ない場合を除き投与しないこと | 禁忌 |
主な代謝経路 | グルクロン酸抱合、硫酸抱合 | CYP2C9 |
併用注意 | ピラジナミド サリチル酸製剤(アスピリン等) |
ワルファリン ピラジナミド サリチル酸製剤(アスピリン等) |
フェブリクと違う点は?
- 作用機序が違う
- 効果は同等(非劣性)
- 併用禁忌が無い
- 定期的な肝機能検査が必要
まず、ユリスとフェブリクは作用機序が違います。
ユリスは尿酸の排泄を促進して、体内の尿酸を減らす薬。3)
フェブリクは尿酸の生成を阻害して、体内の尿酸を減らす薬です。7)
作用機序は違いますが、効果は同じくらいです。
国内第3相試験で両剤を比較した結果、効果は非劣性であったことが示されています。2)
なお、尿酸産生過剰型と判定不能型は除外されている…つまり尿酸排泄低下型(と混合型と正常型)に投与した結果であることに注意。
そう考えるとフェブキソスタットがんばってますね。
また、ユリスは併用禁忌がありません。3)
一方、フェブリクはメルカプトプリン水和物とアザチオプリンが併用禁忌です。7)
ちなみにフェブリクがメルカプトプリン等と併用禁忌なのは、キサンチンオキシダーゼ阻害作用により、メルカプトプリン等の代謝が阻害されて血中濃度が上がってしまうことが、アロプリノールで確認されているからです。3)
まぁアロプリノールはメルカプトプリンと併用注意なんですけどね…。
こちらは減量の目安があるから、併用注意でOKのようです。3)
なので、フェブリクも減量の目安があれば併用注意なんだろうなぁと思う。
そして、定期的な検査。
ユリスは、定期的な肝機能検査が必要です。3)
これはユリスがっていうよりは、類薬のユリノームが肝障害を起こすので、念のための措置といった様子。
一方、フェブリクは投与期間中、甲状腺所見の有無を確認する必要があります。7)
これは、毒性試験(ラット)で高用量を投与した際に、甲状腺の異常が認められたためです。
ヒトでは甲状腺への影響が生じる可能性は低いそうですが、臨床試験でTSHの増加や減少が認められていること等から、定期的に甲状腺所見を確認することとなりました。7)
販売名 | ユリス | フェブリク |
有効成分 | ドチヌラド | フェブキソスタット |
薬効 | 尿酸再吸収阻害薬 (尿酸排泄促進薬) |
キサンチンオキシダーゼ阻害薬 (尿酸生成抑制薬) |
適応 | 痛風、高尿酸血症 | 痛風、高尿酸血症 がん化学療法に伴う高尿酸血症 |
検査 | 肝機能検査を定期的に実施 | 甲状腺の所見を確認し、異常時には甲状腺機能関連の検査を実施 |
特定患者群への投与 | ||
肝機能障害患者 | 慎重な経過観察を行うこと | 慎重投与 |
重度(高度)の腎機能障害患者 | 他剤での治療を考慮 | 慎重投与 |
併用禁忌 | – | メルカプトプリン水和物 アザチオプリン |
併用注意 | ピラジナミド サリチル酸製剤(アスピリン等) |
ビダラビン ジダノシン |
注意しておきたいことは?
・痛風関節炎(痛風発作)(重要な特定されたリスク)
・尿路結石(重要な特定されたリスク)
・肝機能障害(重要な潜在的リスク)
注意すべき有害事象(RMP)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
重要な特定されたリスク | 痛風関節炎(痛風発作) | 添付文書(用法及び用量に関連する注意、重要な基本的注意、その他の副作用)で注意喚起 |
尿路結石 | 添付文書(重要な基本的注意、特定の背景を有する患者に関する注意、その他の副作用)で注意喚起 | |
重要な潜在的リスク | 肝機能障害 | 添付文書(重要な基本的注意、特定の背景を有する患者に関する注意)で注意喚起 |
重要な不足情報 | なし | – |
痛風関節炎(痛風発作)
これは尿酸降下薬の宿命的な有害事象ですね。
尿酸降下薬を使用すると、血中の尿酸が少なくなります。
そうすると関節に付着している尿酸結晶が関節内に剥がれ落ち、痛風発作を起こすことがあります。4)
ユリスにもこういった発現リスクがあり、発症すると患者のQOLを損なうことから4)、重要な特定されたリスクに設定されました。
痛風性関節炎の有害事象の発現状況2) | |
国内第3相併合データ | ユリス投与群(422例):23例 ベンズブロマロン投与群(99例):5例 フェブキソスタット投与群(101例):6例 |
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意
尿酸降下薬による治療初期には、血中尿酸値の急激な低下により痛風関節炎(痛風発作)が誘発されることがあるので、本剤の投与は0.5mg1日1回から開始し、投与開始から2週間以降に1mg1日1回、投与開始から6週間以降に2mg1日1回投与とするなど、徐々に増量すること。
なお、増量後は経過を十分に観察すること。8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.1 本剤は尿酸降下薬であり、痛風関節炎(痛風発作)発現時に血中尿酸値を低下させると痛風関節炎(痛風発作)を増悪させるおそれがある。本剤投与前に痛風関節炎(痛風発作)が認められた場合は、症状がおさまるまで、本剤の投与を開始しないこと。
また、本剤投与中に痛風関節炎(痛風発作)が発現した場合には、本剤の用量を変更することなく投与を継続し、症状によりコルヒチン、非ステロイド性抗炎症剤、副腎皮質ステロイド等を併用すること。
尿路結石
これは尿酸排泄促進薬共通の有害事象です。
尿中の尿酸排泄量が増えると、尿が酸性に傾くため、尿酸結石ができやすくなります。4)
結石のできた場所や大きさによって症状は異なりますが、一般的には痛いこと、自然に出ない場合は除去治療が必要になることから4)、重要な特定されたリスクに設定されました。
なお、結石を予防するために、尿アルカリ剤(クエン酸カリウムやクエン酸ナトリウム水和物)を併用することが多いです。
実際、臨床試験でも69.7%~100%の症例に尿アルカリ剤が併用されていたようです。2)
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.2 本剤の薬理作用により特に投与初期に尿酸排泄量が増大することから、尿が酸性の場合には、患者に尿路結石及びこれに由来する血尿、腎仙痛等の症状を起こす可能性があるので、これを防止するため、水分の摂取による尿量の増加及び尿のアルカリ化をはかること。
なお、この場合には、患者の酸・塩基平衡に注意すること。9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 尿路結石を伴う患者
治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。
本剤の薬理作用から、尿中尿酸排泄量の増大により、尿路結石の症状を悪化させるおそれがある。
なお、臨床試験では、尿路結石を伴う患者への投与は行われていない。
肝機能障害
劇症肝炎等の重篤な肝障害が、ベンズブロマロンの使用で報告されていること2)、その発生機序が明らかになっていないことから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
既存薬と比べて特段注意する必要はなさそうですが、審査報告書を見るに、まだリスクを判断するには症例数が足りないってことで潜在的リスクに設定されたようです。
肝関連の有害事象の発現状況2) | |
国内第3相併合データ | ユリス投与群(422例):19例 ベンズブロマロン投与群(99例):2例 フェブキソスタット投与群(101例):7例 |
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.3 他の尿酸排泄促進薬において重篤な肝障害が報告されていることから、本剤投与中は、定期的に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.3 肝機能障害患者
慎重な経過観察を行うこと。他の尿酸排泄促進薬では重篤な肝障害が認められている。
なお、臨床試験では、重篤な肝疾患を有する患者、AST又はALT 100IU/L以上の患者は除外されている。
まとめ
本剤投与が有用な患者像
- 既存薬では物足りない、尿酸排泄低下型の患者
- 合併症がある患者
- 併用薬が多い患者
海外で販売されていない薬なので、安全性の評価はしづらいのですが…。
額面どおりに受け取ると、使いやすいユリノームって感じですね。
ですので「尿酸排泄促進薬を使いたいけど、ユリノームは使いづらい…。」という患者さんには、ユリスが良い選択肢になるかもしれません。
また、ユリノームは肝機能障害のある患者に使えず、フェブリクも心疾患のある患者に使いづらいので、こういった合併症がある方には、ユリスの方が使いやすいかと思います。
(その前に、そもそも高尿酸血症治療薬が必要かを考えないとダメですが…。)
あとは併用薬が多い方。
ユリスちゃん、薬剤師としてはCYPに関与しない点がとってもありがたいです。
ユリノームはCYP2C9阻害作用があるので、CYP2C9の基質と併用するのはなんとなく気になるな…と思ってしまいます。
(CYP2C9関連の併用注意はワルファリンだけですが、フェニトインやグリメピリド等もCYP2C9の基質8)なので~…)
その点、ユリスは抱合代謝なので、CYP系よりは相互作用が少ないかな?と思います。
なので、併用薬が多い患者さんには、ユリスが使いやすいかもしれません。
(まぁこれも、そんなに併用薬が多いなら、高尿酸血症治療薬は要らないのでは…?と思わなくもない。)
類薬の投与を検討すべき患者像
- 尿酸産生過剰型の患者
- 今の治療で特に問題ない患者
大前提として、第3相試験では、尿酸産生過剰型の患者さんを除外しています。
ということは尿酸産生過剰型の患者に使って効くかどうかはわかりません。
尿酸産生過剰型の患者さんには、セオリーどおりキサンチンオキシダーゼ阻害薬を使った方が良いかなと思います。
また、今の治療で問題なくやっている患者さんは、そのまま使った方が良いかと思います。
例えば、ユリノームによる重篤な肝障害は、投与開始6ヵ月以内に多く発生します。
なので、もう1年以上ユリノーム使ってるよ!という患者さんを、あえてユリスに変更する異議は無いかな~と思います。
薬価も高いですし。
フェブリクの対抗馬がユリノームという現状は、尿酸排泄促進薬にとって結構不利だったんじゃないかな~と思います。
ユリスの登場で、ガイドラインの推奨が書き換わったらスゴいな!と期待しております。
専門医の先生の評価がとても楽しみです!
2)審査報告書, PMDA, https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200219001/670242000_30200AMX00020000_A100_2.pdf.
3)RMP, PMDA, https://www.pmda.go.jp/RMP/www/670242/7d4aa297-6b97-453e-b7dc-bb3b6b7d4104/670242_39490A1F1028_001RMP.pdf.
4)ユリス錠0.5mg・1mg・2mg 添付文書, インタビューフォーム.
5)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版, 日本痛風・核酸代謝学会, Mindsガイドラインライブラリ, https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0052/G0001086.
6)ユリノーム錠25mg・50mg 添付文書, インタビューフォーム.
7)フェブリク錠10mg・20mg・40mg 添付文書, インタビューフォーム.
8)医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド, 日本医療薬学会, https://www.jsphcs.jp/news/2019/1114-1.html.