まずは基本情報
販売名 | リベルサス錠3mg・7mg・14mg |
名前の由来 | なし |
一般名 | セマグルチド(遺伝子組換え) |
製造販売会社 | ノボ ノルディスク ファーマ(株) |
販売提携会社 | MSD(株) |
薬効 | 経口GLP-1受容体作動薬 |
効能・効果 | 2型糖尿病 |
用法・用量 | 1回7mg 1日1回 患者の状態に応じて適宜増減 開始用量:1回3mg(4週以上投与後、1回7mgに増量) 1回7mgで4週以上投与しても効果不十分時:1回14mgまで増量可 |
由来なしだと…!?
2型糖尿病ってこういう疾患
- 高血糖が慢性的に続き、失明や透析に至ることもある
- 治療は、まず生活習慣の改善からはじめる
- 薬物治療では、患者の病態によって治療薬を選択する
糖尿病は、高血糖が慢性的に続く病気です。5)
インスリンという血糖値を下げるホルモンが不足したり、効きづらくなったりすることで発症します。5)
病態によって大きく1型と2型に分けられています。
日本では2型糖尿病の患者が多く、疑いも含めると成人の6人に1人、約1,870万人が糖尿病だと言われています。5)
糖尿病は自覚症状が少ない病気ですが、進行すると体内の細かい血管が障害を受けて網膜症や腎症、神経障害をきたします。5)
失明や透析に至ることも多く、糖尿病性網膜症は中途失明原因の第3位12)、糖尿病性腎症は透析導入原因の第1位13)と報告されています。
他にも大きな血管の動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中になるリスクも高まることが知られています。5)
治療は、まず生活習慣の改善からはじめます。5)
食事や運動の習慣を見直しても糖尿病が良くならない場合は、薬物治療を検討します。
薬物治療では、患者の病態によって治療薬を選択します。
インスリンの投与が適切な患者にはインスリンを投与しますが、それ以外の場合は経口薬から入ることが多いようです。14)
リベルサスってこういうくすり
- 日本初の経口GLP-1受容体作動薬
- 1日1回投与
- 空腹時にコップ半分の水で服用
リベルサスは、日本初の「経口」のGLP-1受容体作動薬です。
GLP-1は、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進するホルモンです。3)
「依存的」というのは、つまり血糖値が高いときだけインスリンを分泌させるってことです。
このGLP-1を真似して作られたのが、GLP-1受容体作動薬です。
「濃度依存的に」という部分が特徴で、このため低血糖になりづらい薬として期待されているところです。2)
一方で、GLP-1受容体作動薬は今まで注射しかありませんでした。
そのため、自分で注射が打てない人には使いづらい製剤でした。
Q. GLP-1受容体作動薬は、なんで注射しか無かったの?
A. タンパク質(ペプチド)だからだよ。
-ほら、みんなステムがtideでしょう?(薬剤師向け情報)
タンパク質は胃で分解されてしまうため、そのまま経口投与しても効果を発揮できません。
また、分解されなくても消化管から吸収するには大きすぎるため(食べ物はアミノ酸まで分解されますよね)、吸収することが出来ず、これまた体内で効果を発揮できません。
そのためGLP-1受容体作動薬は、注射を使って体内にダイレクトインせざるをえませんでした。
リベルサスは、新しい添加剤である「ザルカプロザートナトリウム」を用いることで、注射を錠剤にすることに成功しました。3)
1日1回投与で、注射剤と同様に効果を発揮します。
その一方で空腹時に投与するなど、飲み方に色々な制約があります。
詳細は下記をご参照ください。
ザルカプロザートナトリウムについて考える
吸収促進剤であるSNACは、本来注射剤であるセマグルチドの経口投与を可能にした添加物です。2)
局所的にpHを上昇させることで、タンパク質分解酵素による分解からセマグルチドを保護すると考えられています。3)
ピロリ菌が胃で生きられるのと似たような原理ですね。
自分の周りのpH濃度を上げることで、酵素による分解を回避しています。
(ピロリちゃんは、アンモニアを生成することでpHを上げてますが。)
さらに、SNACは細胞の脂質膜を流動化すること、およびセマグルチドを多量体から単量体に変化させることで、吸収を促進するそうです。3)
ちなみにこのSNAC、日本では医薬品に使ったことが無いらしく2)、審査報告書でかなりのページ数をさいて議論されています。
空腹時に服用
リベルサスの主な吸収部位は胃です。3)
胃に何かが入っていると吸収が低下するので、最初の食事or飲水の前にリベルサスを服用します。3)
バイオアベイラビリティは約1%。3)
食事の影響をみた試験によると、食後に投与した場合は定量下限以下の濃度しか認められなかったようです。3)
吸収されてない…。
また、服用後もある程度時間が経つまで飲食できません。
食後15分で服薬すると、120分待ったときの1/3~1/2位のAUCになっちゃうようで3)、添付文書には最低30分と記載があります。
が、インタビューフォームの試験結果を見るに、出来れば120分待った方が良さそうです。
「飲食」と書いたように、水も飲めません。
投与2時間後に水を飲んだ結果、やっぱりAUCの低下が認められています。3)
飲水量が50mLと240mLのデータを見ると、50mLの方がAUCは大きいので、やむを得ず飲むにしても、必要最低限にした方が良さそうです。
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意:
7.1 本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、本剤は、1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)とともに3mg錠、7mg錠又は14mg錠を1錠服用すること。
また、服用時及び服用後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けること。
分割・粉砕及びかみ砕いて服用してはならない。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
本剤はセマグルチドの吸収を促進するSNACを含有している。
経口投与後にセマグルチドは主に胃で吸収される。
セマグルチドの吸収には下記の要因が影響を及ぼすため、以下の注意を守るよう患者に指導すること。注意1. 本剤は空腹の状態で服用する必要がある。1日のうちの最初の食事又は飲水の前に服用すること。
注意4. 本剤服用後の絶飲食時間(服用時及び服用後少なくとも30分)を順守すること。他の経口剤の服用も本剤の絶飲食時間後とすること。
コップ半分の水(約120mL以下)で服用
50mLで服用したときに比べて、240mLの水で服用するとAUCが約40%低下することから2)、120mL以下の水で服用するよう設定されました。
120mL以下になった理由は、50mLと120mLで比較した別の試験で、曝露量に大きな影響が見られなかったためです。2)
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意:
7.1 本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、本剤は、1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)とともに3mg錠、7mg錠又は14mg錠を1錠服用すること。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
注意2. 本剤はコップ約半分の水(約120mL以下)とともに服用すること。
胃腸障害の軽減のため、少しずつ増やす
これは既存のGLP-1受容体作動薬と一緒ですね。
漸増投与です。
臨床試験で、リベルサス7mg投与群に比べて、14mg投与群の方が胃腸障害や投与中止に至った有害事象の発現割合が高い傾向が認められています。3)
そのため、1回3mgを4週間以上投与した後に、維持用量の7mgへ増やします。3)
ただし、3mgで十分な効果が得られている場合は、3mgのまま投与継続することが可能です。3)
絶対1錠で飲む
リベルサスは、胃の中に2つ以上の錠剤が存在すると、吸収に影響が出る可能性があります。3)
そのため、他の錠剤はもちろん、リベルサスも必ず1錠で服用します。
実際、リベルサスとプラセボ錠(5錠)を同時に投与した結果、AUCが34%低下したことが認められています。2)
14mg投与したいから7mg2錠…はダメってことですね。
きびしい。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
注意3. 他の経口剤と同時に服用しないこと。
注意4. 本剤服用後の絶飲食時間(服用時及び服用後少なくとも30分)を順守すること。他の経口剤の服用も本剤の絶飲食時間後とすること。
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意:
7.2 本剤14mgを投与する際には、本剤の7mg錠を2錠投与することは避けること。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
本剤は胃で崩壊・吸収され、吸収は錠剤表面の周辺部に限定されることから、SNACの投与量の差異、及び物理的に2つの錠剤が胃内に存在することが本剤の吸収に影響を及ぼす可能性がある。本剤の1回の投与で複数錠を患者に服用させるような処方は避けること。
一包化不可(PTPシートから出さない)
リベルサスは安定性試験(加速試験)で含量低下や不純物の増加が認められています。3)
また、光安定性試験では、無包装状態で黄色の着色変化があったようです。(その他の項目は基準範囲内)3)
そのため、PTPシートの状態で保存し、服用直前に取り出すよう添付文書に記載されています。
【添付文書記載事項】
14. 適用上の注意(抜粋):
14.1 薬剤交付時の注意
14.1.2 本剤は吸湿性が強いため、服用直前にPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。20. 取扱い上の注意:
本剤は吸湿性が強く、光に不安定なため、PTPシートの状態で保存すること。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
本剤は吸湿性が強い製剤である。
服用直前にPTPシートから取り出すよう、患者に指導すること。
また一包化は避けること。
PTPシートを切らない
一包化不可と同じ理由です。
PTPシートで防湿しているので、ミシン目以外で切り離さないよう添付文書に記載されています。3)
そのため、奇数錠の調剤をする際は、10錠包装ではなく7錠包装を活用するよう、インタビューフォームに記載があります。3)
め、めんどくさぁ。(うっかりこぼれ出る本音)
【添付文書記載事項】
14. 適用上の注意(抜粋):
14.1 薬剤交付時の注意
14.1.3 本剤は吸湿性が強く、PTPシートで防湿しているため、ミシン目以外の場所で切り離さないこと。
【インタビューフォーム記載事項】
(解説)
PTP包装シートにて防湿を確保しており、ミシン目以外の場所で切り離した場合の製剤に与える湿度の影響は確認していない。
本剤を奇数錠処方する際には、10錠包装シートのミシン目以外の部分を切り離さず、本剤の7錠包装シートを活用すること。
吸湿性が強い理由はよくわかりませんでした。
インタビューフォームの「有効成分に関する項目」に「吸湿性である」と記載があるので、有効成分自体が吸湿性なのかな…?
既存薬と違う点は?
オゼンピックと違う点は?
- 有効成分は一緒
- 投与経路が違う
- 投与間隔が違う
リベルサスとオゼンピックは、同じ「セマグルチド」という有効成分のクスリです。
違いは投与経路です。
オゼンピックが注射剤なのに対し、リベルサスは経口薬です。
投与間隔も違いまして、オゼンピックが週1回なのに対し、リベルサスは1日1回です。3)
なお、臨床試験をしていないので、有効性が同等かは不明です。
なんでしなかったんだ。
販売名 | リベルサス | オゼンピック |
剤形 | 錠剤 | 皮下注製剤 |
規格 | 3mg・7mg・14mg | 0.25mg・0.5mg・1.0mg |
有効成分 | セマグルチド(遺伝子組換え) | |
投与間隔 | 1日1回 | 週1回 |
併用注意 | 糖尿病用薬 レボチロキシン製剤 |
糖尿病用薬 |
ビクトーザと違う点は?
- 投与経路が違う
- 効果は同等(非劣性)
同じGLP-1受容体作動薬のビクトーザとの違いは、やはり投与経路ですね。
ビクトーザは注射剤です。
効果は同等であることが臨床試験で確認されています。3)
メトホルミンまたはメトホルミン+SGLT2阻害薬で効果不十分な患者に対して、リベルサスやリラグルチドを上乗せで26週間投与した結果、リベルサス14mgのリラグルチド1.8mgに対する非劣性が検証されています。(国際共同第3相試験(NN9924-4224:PIONEER4試験)3)
国内第2/3相試験(NN9924-4281:PIONEER9試験)でもリラグルチドが対照にいますが、こちらは非劣性を検証してないようです。
検証してないっていうか、検定自体していません。
なんでだろ、こっちは非盲検だからかな。単に参考でおいただけ?
販売名 | リベルサス | ビクトーザ |
剤形 | 錠剤 | 皮下注製剤 |
規格 | 3mg・7mg・14mg | 18mg |
有効成分 | セマグルチド(遺伝子組換え) | リラグルチド(遺伝子組換え) |
投与間隔 | 1日1回 | 1日1回 |
併用注意 | 糖尿病用薬 レボチロキシン製剤 |
糖尿病用薬 |
ジャヌビアと違う点は?
- 作用機序が違う
- 服薬時の注意が多い
- 効果は同等(非劣性)
リベルサスとジャヌビアの大きな違いは、作用機序です。
ジャヌビアは体内のDPP-4という酵素を阻害することで、体内のGLP-1の分解を防ぎ、効果を発揮します。
リベルサスは、直接GLP-1受容体に作用して、血糖を降下させます。
リベルサスがダイレクトダンクシュートなのに対して、ジャヌビアはパス回しが得意な感じ(謎)。
一方で、ジャヌビアは投与時の制約が少なく、1日1回、食事の影響を受けずに服用できます。10)
効果は同等であることが臨床試験で確認されています。3)
メトホルミンまたはメトホルミン+SU薬で効果不十分な患者に対してリベルサスやシタグリプチンを上乗せで26週間投与した結果、リベルサス7mgまたは14mgのシタグリプチン100mgに対する非劣性が検証されています。(国際共同第3相試験(NN9924-4222:PIONEER3試験))3)
リベルサス3mgは非劣性が確認できませんでしたが、日本でのジャヌビアの通常臨床用量が50mgであることから「ジャヌビア100mgと非劣性じゃ無かったからといって、効果が無いわけじゃ無いよね。」とされたようです。2)
販売名 | リベルサス | ジャヌビア |
剤形 | 錠剤 | 錠剤 |
規格 | 3mg・7mg・14mg | 12.5mg・25mg・50mg |
薬効 | GLP-1受容体作動薬 | DPP-4阻害薬 |
有効成分 | セマグルチド(遺伝子組換え) | シタグリプチン |
投与間隔 | 1日1回 | 1日1回 |
併用注意 | 糖尿病用薬 | 糖尿病用薬 ジゴキシン 血糖降下作用を増強する薬剤 血糖降下作用を減弱する薬剤 |
メモ:トルリシティorジャディアンスと、リベルサスの効果の比較は?
トルリシティ(デュラグルチド)は、非盲検長期(52週)安全性国内第3相試験(NN9924-4282:PIONEER10試験)で対照群に設定されていますが、これも検定していません。
なんで検定しないんだぁ~。
ジャディアンス(エンパグリフロジン)は、海外第3相試験(NN9924-4223:PIONEER2試験)で比較検討されました。11)
結果、エンパグリフロジン25mgに対し、リベルサス14mgの優越性が示されています。11)
とはいえ非盲検試験だったため?なのか、承認審査においては参考データという扱いです。
なんで錠剤同士なのに二重盲検にしなかったんだぁ~。
注意しておきたいことは?
・低血糖(重要な特定されたリスク)
・胃腸障害(重要な特定されたリスク)
・甲状腺髄様癌(甲状腺C細胞腫瘍)(重要な潜在的リスク)
・急性膵炎(重要な潜在的リスク)
・膵癌(重要な潜在的リスク)
・腸閉塞(重要な潜在的リスク)
・インスリン中止に伴う糖尿病性ケトアシドーシスを含む高血糖(重要な潜在的リスク)
・糖尿病網膜症関連事象(重要な潜在的リスク)
・胚・胎児毒性(重要な潜在的リスク)
・日本人における心血管系リスクへの影響(重要な不足情報)
・腎機能障害患者への投与時の安全性(重要な不足情報)
字面だけ見ると「うわっ怖い。」となりそうですが、オゼンピックと一緒の注意事項です。
RMP自体もオゼンピックと共通でしたね~。ちょっとビックリした。
注意すべき有害事象(RMP)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
重要な特定されたリスク | 低血糖 | 添付文書(重大な副作用、重要な基本的注意、特定の背景を有する患者に関する注意)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 |
胃腸障害 | 添付文書(その他の副作用、特定の背景を有する患者に関する注意)で注意喚起 | |
重要な潜在的リスク | 甲状腺髄様癌(甲状腺C細胞腫瘍) | 添付文書(重要な基本的注意、非臨床に基づく情報)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 |
急性膵炎 | 添付文書(重大な副作用、重要な基本的注意)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
膵癌 | – | |
腸閉塞 | – | |
インスリン中止に伴う糖尿病性ケトアシドーシスを含む高血糖 | 添付文書(重要な基本的注意)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
糖尿病網膜症関連事象 | 添付文書(その他の副作用)で注意喚起 | |
胚・胎児毒性 | 添付文書(妊婦の項)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
重要な不足情報 | 日本人における心血管系リスクへの影響 | – |
腎機能障害患者への投与時の安全性 | – |
低血糖
GLP-1受容体作動薬は血糖降下作用があるため、低血糖の恐れがあります。
臨床試験ではプラセボ群と比較して大きな違いは認められず、用量依存的な低血糖の増加もありませんでした。2)
しかしSU薬やインスリン併用時に低血糖が多く発現したことから2)、重要な特定されたリスクに設定されました。
低血糖の発現状況2) | |
国内第2/3相試験 (4281試験) |
リベルサス3mg投与群(49例):1例 リベルサス7mg投与群(49例):3例 リベルサス14mg投与群(48例):2例 プラセボ投与群(49例):2例 リラグルチド投与群(48例):5例 |
国際共同第3相試験 (4233試験) |
リベルサス3mg投与群(175例):15例 リベルサス7mg投与群(175例):11例 リベルサス14mg投与群(175例):7例 プラセボ投与群(178例):2例 |
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.3 本剤の使用にあたっては、患者に対し、低血糖症状及びその対処方法について十分説明すること。
8.4 低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転等に従事している患者に投与するときには注意すること。9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.1.3 低血糖を起こすおそれがある以下の患者又は状態
・脳下垂体機能不全又は副腎機能不全
・栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足又は衰弱状態
・激しい筋肉運動
・過度のアルコール摂取者11. 副作用(抜粋):
11.1.1 低血糖(頻度不明)
脱力感、倦怠感、高度の空腹感、冷汗、顔面蒼白、動悸、振戦、頭痛、めまい、嘔気、視覚異常等の低血糖症状があらわれることがある。また、インスリン製剤又はスルホニルウレア剤との併用時に重篤な低血糖症状があらわれ意識消失を来す例も報告されている。
低血糖症状が認められた場合には、糖質を含む食品を摂取するなど適切な処置を行うこと。ただし、α-グルコシダーゼ阻害剤との併用時はブドウ糖を投与すること。また、患者の状態に応じて、本剤あるいは併用している糖尿病用薬を減量するなど適切な処置を行うこと。
胃腸障害
胃腸障害は、GLP-1受容体作動薬でよく見られる副作用です。4)
嘔吐や下痢を発症すると、脱水になる可能性があります。4)
プラセボ投与群に対し、本剤投与群で発現率が高い傾向が認められていること、投与中止に至った胃腸障害が、本剤14mg投与群で多い傾向にあること等から2)、重要な特定されたリスクに設定されました。
胃腸障害の発現状況2) | |
国内第2/3相試験 (4281試験) |
リベルサス3mg投与群(49例):17例 リベルサス7mg投与群(49例):18例 リベルサス14mg投与群(48例):16例 プラセボ投与群(49例):10例 リラグルチド投与群(48例):18例 |
国際共同第3相試験 (4233試験) |
リベルサス3mg投与群(175例):44例 リベルサス7mg投与群(175例):32例 リベルサス14mg投与群(175例):55例 プラセボ投与群(178例):30例 |
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.6 胃腸障害が発現した場合、急性膵炎の可能性を考慮し、必要に応じて画像検査等による原因精査を考慮する等、慎重に対応すること。9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.1.2 重度胃不全麻痺等、重度の胃腸障害のある患者
十分な使用経験がなく、胃腸障害の症状が悪化するおそれがある。
甲状腺髄様癌(甲状腺C細胞腫瘍)
オゼンピックの動物実験(がん原性試験)で、臨床用量またはそれを下回る用量で、甲状腺C細胞腫瘍の発生頻度の増加が認められています。9)
このセマグルチド投与後に誘発されたC細胞腫瘍は、特定のGLP-1受容体が関与しているようです。9)
ただし、実験で用いたラットやマウスはこのメカニズムに対して感受性が高いのですが、ヒトは感受性が高くないことが知られています。9)
また、臨床試験で甲状腺髄様癌の報告はなく、腫瘍マーカー(血漿カルシトニン値)からも影響は認められていません。9)
しかし、発症した場合生命に関わる事象であることから、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
15.2 非臨床試験に基づく情報(抜粋):
15.2.1 マウス及びラットを用いたセマグルチドのがん原性試験
皮下投与用セマグルチドを用いたラット5) 及びマウス6) における2年間がん原性試験において、臨床用量に相当する又は下回る用量(最大臨床用量でのAUC比較においてラットでは定量下限未満のため算出できず、マウスで約2.8倍)で、甲状腺C細胞腫瘍の発生頻度の増加が認められたとの報告がある。
甲状腺髄様癌の既往のある患者及び甲状腺髄様癌又は多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴のある患者に対する、本剤の安全性は確立していない。
急性膵炎
急性膵炎も、GLP-1受容体作動薬共通の有害事象です。
臨床試験の結果、既存のGLP-1受容体作動薬を超えるリスクは示されませんでしたが、因果関係が否定できない急性膵炎が発現していることから2)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
8. 重要な基本的注意(抜粋):
8.5 急性膵炎の初期症状(嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛等)があらわれた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けるよう指導すること。[9.1.1 参照][11.1.2 参照]
8.6 胃腸障害が発現した場合、急性膵炎の可能性を考慮し、必要に応じて画像検査等による原因精査を考慮する等、慎重に対応すること。11. 副作用(抜粋):
11.1.2 急性膵炎(0.1%)
嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛等、異常が認められた場合には、本剤の投与を中止し、適切な処置を行うこと。また、膵炎と診断された場合は、再投与は行わないこと。
膵癌
他のGLP-1受容体作動薬で、膵癌が報告されています。4)
現時点ではセマグルチドと膵癌の因果関係は不明ですが、長期的な追跡が必要であること、発現時に生命に関わることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
腸閉塞
オゼンピックや他のGLP-1受容体作動薬で、腸閉塞が報告されています。4)
現時点ではセマグルチドと腸閉塞の因果関係は不明ですが、発現時に手術等の処置をする可能性があることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
インスリン中止に伴う糖尿病性ケトアシドーシスを含む高血糖
副作用というか、GLP-1受容体作動薬に共通の注意事項です。
インスリン製剤の投与が不可欠な患者に、インスリンを中止してGLP-1受容体作動薬を投与すると、糖尿病性ケトアシドーシスになる可能性があります。4)
リベルサスも、投与に当たってインスリンを中止してしまうと同様の事象が発生する可能性があることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
まぁ、リベルサスは経口剤なので、そういう間違いは起こらないとは思いますが…一応ね。
糖尿病網膜症関連事象
これはオゼンピックで懸念されている有害事象です。
オゼンピックの臨床試験にて、プラセボ群よりも糖尿病網膜症に関連する合併症の発現割合が高かったことが確認されています。4)
リベルサスの臨床試験では、プラセボと比較して発現率に大きな違いはありませんでした。2)
ただ、試験によってはリベルサス投与群の方が発現率が高いものもあったようです。4)
しかし、一般的に血糖値が急激に改善すると糖尿病網膜症が悪化する可能性があること、発症すると失明の恐れがあることから4)、重要な潜在的リスクに設定されたと思われます。
胚・胎児毒性
動物実験で、臨床用量またはそれを下回る用量で、胎児毒性(生存率の減少、骨格異常等の発生増加etc)が認められています。4)
一方、(人を対象にした)臨床試験では認められていないため4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
今話題のGLP-1受容体作動薬ダイエットは、こういった面からも注意が必要ですね…。
ヒトでどうだかはわからないけれど、気づかずに妊娠すると、薬剤師的にはちょっとアワアワしちゃう。
せめて提供するクリニックには、こういう危険性の情報提供や、その後のフォロー体制をしっかりして欲しいなぁと思います。(本当は提供しないで欲しいけど…)
参考
GLP-1受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解日本糖尿病学会
【添付文書記載事項】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
9.5 妊婦
妊婦、妊娠している可能性のある女性には本剤を投与せず、インスリンを使用すること。
皮下投与用セマグルチドを用いた動物試験において、臨床用量に相当する又は下回る用量(最大臨床用量でのAUC比較においてラットで約0.6倍、ウサギで約0.5倍、サルで約5.6~8.6倍)で、胎児毒性(ラット:胚生存率の減少、胚発育の抑制、骨格及び血管異常の発生頻度増加1) 、ウサギ:早期妊娠損失、骨格異常及び内臓異常の発生頻度増加2) 、サル:早期妊娠損失、外表異常及び骨格異常の発生頻度増加)が認められている。
これらの所見は母動物の体重減少を伴うものであった。
日本人における心血管系リスクへの影響
心血管系事象は、糖尿病患者の主な死因です。4)
また、糖尿病患者は心血管系障害の死亡リスクが、およそ2倍以上増加するという報告もあります。4)
心血管イベントについて検討した海外臨床試験では、本剤投与による心血管イベントの増加は認められませんでした。2)
しかし、日本人患者でのデータが不足していることから4)、重要な不足情報に設定されました。
腎機能障害患者への投与時の安全性
生体内のGLP-1は、ナトリウム利尿の促進および利尿作用が認められています。9)
セマグルチドでは同様の影響は認められていませんが、重度腎機能障害患者に対する試験データが限られていることから4)、重要な不足情報に設定されました。
まとめ
本剤投与が有用な患者像
- 注射が嫌いな患者
ちゃんと飲めるかどうか。
注射が嫌いという情熱が、服薬の手間を上回るかどうか。
もうこれだけですよ。
GLP-1受容体作動薬は、かなり理想的な作用機序の薬剤です。
グルコース依存的な血糖降下作用ということは、血糖値が高いときには効果を発揮するければ、血糖値が低くなったら効果は出ないってことですからね。
理論的には低血糖リスクは低い。
同じような作用機序のDPP-4阻害薬は皮膚症状が多いこともあって(DPP-4って皮膚にもあるんですよね)、GLP-1受容体作動薬の方が良いんじゃ無いの…?と個人的には思っています。
でも注射剤がネックすぎて、なかなかDPP-4阻害薬の牙城を崩せずにいました。
注射はハードル高いからね。わたしも自己注射は怖くて無理だ…。
(他の注射ですが、自己注射無理すぎて毎日病院に通ったことあり)
今回初めて経口剤が出た!ということで、個人的にはめっちゃ期待しています。
効果もジャヌビアと非劣性ですし、DPP-4阻害薬に変わる存在だと思っています。
服薬時の注意点が守れそうな患者さんは、検討する価値があるかなと思います。
早起きで性格がしっかりしてる人ならいけそうかなぁ。
起きる→リベルサス服用→朝の支度→朝食、みたいな感じで…。
できれば朝のスケジュールを確認して、飲むタイミングを患者さんと一緒に考えたい薬剤です。
ちなみに私が飲むとしたら、朝は抜きます。
早起き is 無理。
出社後に時間があったらコーヒー牛乳飲むわ。
類薬の投与を検討すべき患者像
- 服薬時の注意が守れなさそうな患者
- 経口ビスホスホネートを服用中の患者
- 他剤の投与が適切な患者
リベルサスは良い薬なんだよ。
でもね、飲むのがものすごく面倒くさいんだ…!!
しかも飲み方間違えると全然効かないんだ…!!
(衝撃のバイオアベイラビリティ約1%)
というわけで、注意点を守れなさそうな患者さんは無理に試す必要はないかと。
まぁ1回飲み忘れた程度では影響は少ないそうなので3)、うっかり朝食食べちゃっても1回位なら問題はなさそうですが…。
毎日だとダメそう。
なお、同じようなタイミングで服用するビスホスホネートとは相性が最悪なので、あえてリベルサスを使う必要はないかと。
どうしてもという場合は、ビスホスホネートを注射にするって手もあります。
両方錠剤は止めて欲しい。
あとは他の薬効の方が適切な患者さん。
特に、メトホルミンね。
海外の臨床試験はほぼほぼメトホルミンが入っているので、いきなりリベルサスよりはメトホルミンの投与を検討するべきかと。メトホルミン安いし。
あとはSGLT2阻害薬ですね。
ADA等のガイドラインでは、メトホルミンで効果不十分な場合の次の手として、主にGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が記載されています。
具体的には動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往がある場合はGLP-1受容体作動薬、心不全(HF)やCKDの既往がある場合はSGLT2阻害薬が推奨されています。6), 7)
(コスト重視の場合はSU剤なども記載されているので、上記2剤以外はダメ!というわけではないです)
というわけで、病態を見て他剤の方が良さそうな患者さんには、そっちを検討した方が良いのかなーと思います。
とはいえ注射の経口剤化はすごい
タンパク質の医薬品を、添加剤の追加だけで経口投与できるようにしたっていうのは、薬剤師的にはかなりトキメキます!すごい!!
リベルサスは、Emisphere社のEligen Technologyという技術を使っているようですね。
他にも色々な会社が注射の経口化技術を持ってるようで。
Intract PharmaのSoteriaとか。
ProtalixのProCellExとか。
参考
Orally Delivered ProteinsProtalix Biotherapeutics
抗TNFα抗体の経口剤化がハヤリなのかな…?
まー分子によって経口剤にしやすいしにくいはあるんでしょうな。(不勉強の極み)
注射嫌い勢としては、この調子で全部の注射を経口剤にして欲しいです。
患者さんが好きな剤形を選べる未来は、すぐそこに来ているのかもしれませんね。
なお、バイオベンチャーはケンさんのブログを参考にさせていただきました。
この情報量は圧巻です…!弟子入りしたい。
製薬の研究所で働いていた時周りの人たちは大手製薬会社の動向はウォッチしてるけど、バイオベンチャーはあまり見ていませんでした。私はこれからの創薬研究の主役はバイオベンチャーだと思います。そこで一部のバイオベンチャーについてまとめました。https://t.co/0EIK0jxWBb
— 吉田 研 (@kenyoshida36) August 20, 2017
2)審査報告書, PMDA, https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200629001/620023000_30200AMX00513_A100_1.pdf.
3)リベルサス錠3mg・7mg・14mg 添付文書, インタビューフォーム, 適正使用ガイド.
4)オゼンピック皮下注0.25mg・0.5mg・1.0mgSD、リベルサス錠3mg・7mg・14mg RMP, PMDA, https://www.pmda.go.jp/RMP/www/620023/861d4a17-4529-4d28-ad71-848ad5c64b15/620023_24990A4F1021_003RMP.pdf.
5)糖尿病, 厚生労働省 e-ヘルスネット, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-048.html.
6)2019 update to: Management of hyperglycaemia in type 2 diabetes, 2018. A consensus report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD), https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s00125-019-05039-w.pdf.
7)SGLT2阻害薬、GLP1作動薬の推奨が米で拡大, 日経メディカル, https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201912/563656.html.
8)オゼンピック皮下注0.25mg・0.5mg・1.0mgSD 添付文書.
9)ビクトーザ皮下注18mg 添付文書.
10)ジャヌビア錠12.5mg・25mg・50mg 添付文書.
11)経口セマグルチドは、成人2型糖尿病患者における投与後26週の血糖低下作用に関し、ジャディアンスに対する優越性を示し(PIONEER2試験)、ビクトーザに対する非劣性を示した(PIONEER4試験), ノボ ノルディスク ファーマ(株), 2019年6月14日, https://www.novonordisk.co.jp/content/Japan/AFFILIATE/www-novonordisk-co-jp/Extweb/news/2019/06/14/19_08.pdf.
12)視覚障害の原因疾患の全国調査:第 1 位は緑内障 ~高齢者に多く、増加傾向であることが判明~, 岡山大学, https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press30/press-180927-6.pdf.
13)2018年末の慢性透析患者に関する集計, 日本透析医学会, https://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html.
14)糖尿病標準診療マニュアル, 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会, http://human-data.or.jp/dm_manual.
更新履歴
2020.9.13 公開
2020.11.12 「2型糖尿病ってこういう疾患」「ザルカプロザートナトリウムについて考える」の記載を修正(ご指摘ありがとうございます!)