新薬雑感:グーフィス錠

まずは基本情報

販売名 グーフィス錠5mg
名前の由来 Good(優れた)とFeces(便)の組み合わせに由来
一般名 エロビキシバット水和物
会社名 EAファーマ(株)
販売:持田製薬(株)
プロモーション提携:エーザイ(株)
薬効 胆汁酸トランスポーター阻害剤
効能・効果 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
用法・用量 1回10mg 1日1回食前
症状により適宜増減(最高用量:1日15mg)

慢性便秘症ってこういう疾患

  • 本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態
  • 第一選択(強い推奨)は、浸透圧性下剤か上皮機能変容薬
  • 第二選択(弱い推奨)は、消化管運動賦活薬、刺激性下剤、膨張性下剤、漢方薬等

慢性便秘症は、ガイドラインによると「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」です。4)
「快適に」という主観が入っているので、「自分が便秘だと思ったら便秘」位のザックリした定義かと。

治療には生活習慣の改善や薬物療法などがあります。
薬物療法のうち、強く推奨されているのは浸透圧性下剤と上皮機能変容薬です。4)

一方、習慣性のある刺激性下剤などは、一段階低い推奨となっています。4)

慢性便秘症の内服薬による治療4)

種類 主な販売名
推奨度1(強い推奨)
浸透圧性下剤 酸化マグネシウム、ラクツロース
上皮機能変容薬 アミティーザ、リンゼス
推奨度2(弱い推奨)
膨張性下剤 コロネル/ポリフル
刺激性下剤 アローゼン、プルゼニド、ラキソベロン
消化管運動賦活薬 ガスモチン
漢方 大黄甘草湯、麻子仁丸、大建中湯
坐剤 新レシカルボン、テレミンソフト

グーフィスってこういうくすり

  • 国内初の胆汁酸トランスポーター阻害薬
  • 1日1回食前投与
  • [注]併用注意薬がある

グーフィスは、国内初の胆汁酸トランスポーター阻害薬です。
小腸(回腸)で胆汁酸トランスポーター(IBAT)を阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制します。

作用機序は胆汁酸性下痢が起こるメカニズムと似ています
グーフィスは小腸での胆汁酸再吸収を抑制するため、大腸への胆汁酸の流入が増えます。
胆汁酸は、大腸で水分を引っ張ってくる作用と消化管運動を促進させる働きがあり、その2つの作用で効果を発揮します。3),5)

また、グーフィスは1日1回、食前に投与します。
食前の理由は2つあり、1つ目は、グーフィスの作用機序に由来します。
グーフィスは胆汁酸の再吸収を阻害する薬剤のため、食事の刺激により胆汁酸が放出されるより前に投与しておいた方が良いので、食前投与に設定されました。2)
臨床試験では朝食前投与でしたが、昼食時・夕食時にも胆汁酸が分泌されるため、時間帯の指定はされなかったようです。2)

2つ目は、グーフィスの吸収率に由来します。
朝食前投与と絶食時で比較したところ、朝食前投与時のCmaxおよびAUCが絶食時の約20~30%だったことが示されています。2), 3)
グーフィスは血中濃度が薬効に影響しない薬剤です(消化管で直接作用します)ので、血中濃度が低く抑えられる食前投与に設定されました。2)

既存薬と違う点は?

アミティーザと違う点は?

グーフィスはアミティーザと比べて…

  • 服薬回数が少ない
  • 禁忌・慎重投与が少ない
  • [注]併用注意薬がある

アミティーザと比較したグーフィスの良い点は、1日の服薬回数が少ないところです。
アミティーザが1日2回朝・夕食後なのに対し、グーフィスは1日1回食前ですので、自分で忘れにくい時間を決めて服薬することができます。

また、アミティーザは妊婦に禁忌、重度腎機能障害患者は慎重投与ですが、グーフィスは特に設定されていない(妊婦は有益性投与)ので、アミティーザよりは使える患者の範囲が広いと思います。

ちなみに、どちらも重度肝機能障害患者には慎重投与(アミティーザは中等度も)ですが、理由は異なりますので、ご注意ください。
アミティーザはありがちな「本剤の血中濃度が上昇する恐れがあるため6)」で、グーフィスは「本剤の効果が期待できないため3)です。
SGLT2阻害薬が重度腎機能障害患者に慎重投与となっているのと、同じような理由ですね。

どちらの薬剤も消化管内で直接作用し、血中にはあまり移行しませんが、グーフィスは胆汁酸製剤やジゴキシン、ダビガトランなどが併用注意である旨、ご注意ください。

販売名
(成分名)
グーフィス錠
(エロビキシバット)
アミティーザカプセル
(ルビプロストン)
薬効 胆汁酸トランスポーター阻害 クロライドチャネルアクチベーター
用法 1日1回 食前 1日2回 朝・夕食後
肝機能障害患者への投与 重度は慎重投与
(胆道閉塞や胆汁酸分泌が低下している患者等では本剤の効果が期待できない場合がある)
中等度・重度は慎重投与
腎機能障害患者への投与 重度は慎重投与
妊婦への投与 使用上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること 禁忌
併用禁忌
併用注意 胆汁酸製剤、アルミニウム含有制酸剤、コレスチラミン、コレスチミド、ジゴキシン、ダビガトラン、ミダゾラム

リンゼスと違う点は?

グーフィスはリンゼスと比べて…

  • [注]併用注意薬がある
  • [注]適応が違います

リンゼスと比較したグーフィスの良い点は、すみませんわかりませんでした。
リンゼスの使い勝手が良すぎるのがいけないのだ…。

作用機序が違うので、併用しても良いかとは思います。

なお、いまのところリンゼスは便秘型IBSにしか使えないので、厳密には適応が違う点に注意が必要かと。7)

販売名
(成分名)
グーフィス錠
(エロビキシバット)
リンゼス錠
(リナクロチド)
薬効 胆汁酸トランスポーター阻害 グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト
適応 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く) 便秘型過敏性腸症候群
用法 1日1回 食前 1日1回 食前
肝機能障害患者への投与 重度は慎重投与(胆道閉塞や胆汁酸分泌が低下している患者等では本剤の効果が期待できない場合がある)
併用禁忌
併用注意 胆汁酸製剤、アルミニウム含有制酸剤、コレスチラミン、コレスチミド、ジゴキシン、ダビガトラン、ミダゾラム

注意しておきたいことは?

注意

・とくになし

RMPに、注意すべき安全性検討事項がありませんでした。
そうか無いのか…。ほとんど吸収されないからですかねぇ。

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 既存薬で効果不十分な患者(上乗せ投与)
  • 既存薬の副作用が気になる患者
[hukidashi name=”りんご” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/ringo.png” type=”left lp”]酸化マグネシウムやアミティーザへの上乗せ投与が考えられます。[/hukidashi]

下剤は、なにせ塩類下剤(と刺激性下剤)のコスパが良すぎるので、第一選択でグーフィスを選ぶ理由があまり無いんですよね。
単純に、選べる下剤が1個増えたよ!と思ってもらって良いかと。
新しい作用機序の薬剤なので、併用する意義はあるはず。

あとは、酸化マグネシウム製剤の長期投与による高マグネシウム血症、刺激性下剤の連用による耐性などが懸念される患者は、この機会にグーフィスなどの新しい作用機序の薬剤に挑戦しても良さそうです。(アミティーザやリンゼスでも良いのですが…。)


参考
酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について[PDF]PMDA

類薬の投与を検討すべき患者像

  • P糖タンパク基質薬を服薬中の患者
[hukidashi name=”みかん” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/mikan.png” type=”right lg”]併用注意薬があるので注意してね~。[/hukidashi]

個人的にグーフィスの注意点はこの1点に集約されると思っているのですが、この子併用注意薬があるんですよ!
アミティーザとリンゼスには無いのに!6),7)

まず、ウルソなどの胆汁酸製剤や、コレスチラミンなどの胆汁酸を吸着する薬剤です。
これはグーフィスの主作用を減弱してしまうからですね。

次に、ジゴキシンとダビガドランも併用注意です。
これはグーフィスがP糖タンパクを阻害するからですね。

併用注意薬 併用すると起こること
胆汁酸製剤
(ウルソなど)
胆汁酸製剤の腸管循環が阻害され、胆汁酸製剤の効果が弱まるおそれがある
アルミニウム含有制酸剤 腸管内の胆汁酸がアルミニウム含有制酸剤に吸着されるため、グーフィスの効果が弱まるおそれがある
コレスチラミン、コレスチミド 腸管内の胆汁酸がコレスチラミン等に吸着されるため、グーフィスの効果が弱まるおそれがある
ジゴキシン ジゴキシンはP糖タンパクの基質のため、グーフィスの阻害作用によってジゴキシンの血中濃度が上昇するおそれがある
ダビガトラン ダビガトランはP糖タンパクの基質のため、グーフィスの阻害作用によってダビガトランの血中濃度が上昇するおそれがある

添付文書上はジゴキシンとダビガドランのみで、他のP糖タンパク基質薬は記載されていません。
しかし、個人的には注意すべきだと考えます。

注意すべきだと考えた理由は、審査報告書の中にあります。
審査報告書によると、メーカー側は「P糖タンパク基質薬非併用群と比較して、併用群の有害事象発現割合が高くないから、ジゴキシン以外のP糖タンパク基質薬との併用について注意喚起する必要はない(意訳)」と言っていますが、下表をご覧ください。

P糖タンパク基質薬併用有無別の有害事象発現割合2)

P糖タンパク基質薬併用群 P糖タンパク基質薬併用群
国内第2相試験 35.3%(6/17例) 30.2%(32/106例)
国内第3相試験 55.6%(5/9例) 36.7%(22/60例)
国内長期投与試験 97.1%(68/70例) 72.6%(196/270例)

※併用群:グーフィス投与期間中、1回でもP糖タンパク基質薬を併用した患者

併用薬の例数少なくない!?
そして(比較検定はしていなさそうだけれど)頻度結構違く見えるよ!?
併用群の基準もゆるくない!?(1回飲めば併用群なのか…)

というわけで、個人的にはP糖タンパク基質薬と併用するなら、グーフィスに拘る必要はないんじゃないかなーと思います。
他の薬剤もいろいろありますしね。

雑談:腸肝循環大丈夫?

個人的にここがものすごく気になっているのですが、グーフィスって胆汁酸の再吸収を阻害するじゃないですか。
ということは胆汁酸の腸肝循環を止めちゃうの…?という疑問が湧いてきました。
え、怖いんですけど。

審査報告書を紐解いてみたところ、以下の記載が見つかりました。

3.1.2 胆汁酸再吸収抑制作用(P.4)
(前略)本薬1.7mg/kg群の吸収抑制率は0.5時間後70%、3時間後71%及び8時間後31%であり、マウスの回腸における本薬の胆汁酸再吸収抑制作用は少なくとも投与後3時間は持続するが、8時間後には減弱することが示された

7.R.2.5 脂溶性ビタミンへの影響について(P.32)
(前略)本薬は回腸における胆汁酸の再吸収を阻害することから、長期投与時には循環する胆汁酸量の減少等により脂溶性ビタミンの吸収に影響を与える可能性が否定できないため、国内長期投与試験において、脂溶性ビタミンであるビタミンA、ビタミンD及びビタミンE、並びにビタミンKが関与するPT及びAPTTについて変動の有無を確認した。
長期にわたり本薬の投与を継続してもビタミンA、ビタミンD及びビタミンE、並びにビタミンKが関与するPT及びAPTTに臨床的に問題となるような変動は認められなかった。

ということは、まー半日もすれば腸肝循環は大体戻っていると考えても良さそうです。
良かった。腸肝循環を全面的に止めるわけじゃ無かった。

考えてみれば、便秘薬は24時間効く必要はないですものね…グーフィスちゃんサッと効いてサッと排泄されていく良い便秘薬かもしれぬ。

ただ、腸肝循環する薬剤を併用する場合は、念のため投与時間をずらした方が良いかなーと個人的には思います。

他の薬剤師さんは、グーフィスのことどう思ってるの?

グーフィスについて、他の薬剤師さんが書かれているブログを紹介させていただきます。
様々な視点で書かれているので、勉強になること間違いなしです!

https://twitter.com/keisyukeblog/status/965948544992493569

http://syokuadoyakuzaishitt.com/2017/12/06/kusuri-gu-fisu/

 

参考文献
1)胆汁酸トランスポーター阻害剤「グーフィス錠5mg」日本において慢性便秘症に係る製造販売承認を取得, EAファーマ(株),
https://www.eapharma.co.jp/news/2018/0119.html
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180201001/111890000_23000AMX00013_A100_1.pdf, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180201001/111890000_23000AMX00013_A101_1.pdf.
3)グーフィス錠5mg, 添付文書, インタビューフォーム.
4)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編, 慢性便秘症診療ガイドライン2017, 南江堂.
5)大菅俊明, 胆汁酸と疾病, 腸内細菌学雑誌 11:69-73,1998, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1997/11/2/11_2_69/_pdf.

6)アミティーザカプセル24μg, 添付文書.
7)リンゼス錠0.25mg, 添付文書.
8)下痢の正しい対処法, 日本臨床内科医会, http://www.japha.jp/doc/byoki/042.pdf.