まずは基本情報
販売名 | セリンクロ錠10mg |
名前の由来 | Select, Increase and Controlの3文字からなる造語 |
一般名 | ナルメフェン塩酸塩水和物 |
製造販売会社 | 大塚製薬(株) |
薬効 | 選択的オピオイド受容体調節薬 |
効能・効果 | アルコール依存症患者における飲酒量の低減 |
用法・用量 | 1回10mg 飲酒の1~2時間前に経口投与 1日1回まで |
アルコール依存症ってこういう疾患
- 家族や仕事、趣味よりも飲酒を優先させる状態
- 原則、断酒を目指す
- 治療のメインは心理社会的治療
アルコール依存症は、家族や仕事、趣味よりも、飲酒をはるかに優先させる状態のことです。4)
飲酒したいという強い欲望や強迫感が湧き、飲酒量のコントロールができなくなったり、離脱症状(吐き気・手のふるえ・けいれん発作など)が出たりします。4), 6)
治療目的は2つあります。
1つは依存状態からの脱却。もう1つは合併症の治療と進行抑制です。
アルコールは身近な飲料である一方で、精神依存(飲みたくてしょうがない)・身体依存(飲まないと不快)を引き起こす薬物でもあります。7)
そのため一旦依存症になってしまうと完全に治癒することはなく6)、個人や家族の努力でどうにかすることは難しい疾患です。
というのも、本人が依存症だと思っていない(ただお酒が好きなだけだよ!)、または思っていたとしても自分の力ではどうにも止められない状態になっているからです。6)
よって、治療は専門のプログラムや専門家の指導の下で取り組む必要があります。
また、アルコールはうつや不安障害、高血圧、糖尿病、認知症、一部のがんなど、多様な疾患の原因になるとされています。5)
習慣的に大量に飲酒している場合は、上記のような疾患にかかるリスクが高くなってしまうため、飲酒習慣の改善が重要です。5)
治療は、原則断酒を目指します。5)
特に家庭生活の維持が困難になっている、飲酒が原因の合併症で生命の危機であるなどの場合は、断酒をすべきです。5)
治療方法のメインは、認知行動療法や動機付け面接などの心理社会的治療です。5)
アルコール依存症は単に脳の機能障害というだけではなく、孤独感やストレスなどの生きづらさがあるゆえに「飲酒せずにはいられない」と考えられています。6)
そのため、患者さん自身が飲酒に対する考え方を変え、生活を改善する手助けとして、心理社会的治療が実施されています。
ひとりでは断酒を続けることが難しい場合は、アルコール・アノニマスなどの自助グループに参加しても良いかと思います。
自助グループに参加した方が、断酒できる確率は高いようです。6)
治療の補助的に薬剤を使うこともあります。
現状、断酒を目的とした治療には、第1選択にレグテクト(アカンプロサートナトリウム)、第2選択にノックビン(ジスルフィラム)やシアナマイドが用いられています。5)
一方、依存が軽度で、かつ断酒が難しい場合は、飲酒量を減らすことを目標にする場合もあります。5)
これは、
1. 依存症治療では治療の継続が重要であるため、患者が治療からドロップアウトしないように出来る限り患者の希望に沿った治療を選択すべき5)
2. すぐに飲酒を止められない場合は、飲酒量を減らして害を出来るだけ減らすべき(ハームリダクション)5)
という考えに基づいています。
セリンクロってこういうくすり
- 選択的オピオイド受容体調節薬
- 飲酒量低減のための治療薬物として、ガイドラインに記載
- 分割・粉砕禁止(皮膚感作性がある)
セリンクロは、減酒に用いる選択的オピオイド受容体調節薬です。
μ(ミュー)オピオイド受容体とδ(デルタ)オピオイド受容体に対しては拮抗薬、κ(カッパ)オピオイド受容体に対しては部分的作動薬として働きます。
アルコール依存症の発症機序は明確ではありませんが、以下の仮説が支持されています。2)
アルコール摂取により、β-エンドルフィンが放出
→β-エンドルフィンがμオピオイド受容体を刺激
→GABA神経の活動が抑制
→報酬系回路(ドパミン神経系)が活性化⇒「快」
→代償的にκオピオイド受容体のシグナル伝達が増強⇒「不快」
セリンクロはμオピオイド受容体拮抗作用を持つため、「β-エンドルフィンがμオピオイド受容体を刺激」の部分を阻害して、飲酒量を減らす効果を発揮すると考えられています。2)
また、κオピオイド受容体の部分作動薬としても働きます。2)
部分作動薬は過剰にシグナルが増強している環境下では抑制的に働きますので、κオピオイド受容体のシグナル伝達も抑制し、不快感を減らします。
まとめると、お酒による「快」「不快」の程度を減らす薬剤って感じですかね。
ちなみにセリンクロの有効成分であるナルメフェンは、既にガイドラインに記載されております。5)
治療目標が飲酒量低減
●軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは、飲酒量低減が治療目標になりうる。
●より重症な依存症のケースであっても本人が断酒を希望しない場合には、飲酒量低減を暫定的な治療目標にすることも考慮する。
その際、飲酒量低減がうまくいかない場合には断酒に目標を切り替える。
●治療薬物としてナルメフェンを考慮する。
●毎日の飲酒量のモニタリングなどの心理行動療法の併用が重要である。
用法は1日1回、飲酒の1~2時間前に服用します。3)
1日1回なので、毎食お酒を飲む人はどこかに合わせて服用します。
ちなみに皮膚感作性(皮膚でのアレルギー反応を誘発すること8))があるので、分割・粉砕はできません。3)
補足:飲み忘れたら、お酒と一緒に飲んでも良いの?
少数例での検討ですが、飲酒中にセリンクロを服薬しても、有効性・安全性に問題はないとされています。2)
添付文書にも「服薬せずに飲酒し始めた場合には、気付いた時点で直ちに服薬すること。ただし、飲酒終了後には服薬しないこと。」と記載されています。3)
ただし、セリンクロのCmax(血中濃度が最大になる時間)は投与後0.5~1.5時間であること、μオピオイド受容体の最大占有率は投与後3時間後までに得られることから、「飲酒1~2時間前に飲むこと」と設定されています。2)
なので、添付文書どおりに服薬した方が効果は感じられると思います。(ここは個人の感想)
ちなみにお酒を飲まない日は、セリンクロは服薬しません。
これは、飲酒の意思が無い場合には、セリンクロの不必要な曝露を避けることを目的として、頓用に設定したとのことでした。2)
また、患者自身が疾患の管理に自覚を持って取り組むため、という意味もあるようです。2)
補足:いつまで服薬すれば良いの?
服用3ヵ月ごとに、飲酒量低減が出来ているかを判断して決定します。3)
ただし、達成を持ってアルコール依存症の治療が終了するわけではなく、次は断酒に向かって取り組む必要があります。
飲酒量低減の達成は、以下のいずれかを3ヵ月維持した場合が適切、とされました。2)
・飲酒量が、男性では1日平均40g以下、女性では平均20g以下の場合
・飲酒量が低下し、飲酒に関係した健康問題、社会問題に顕著な改善を認めた場合
ちなみに飲酒量低減達成後のセリンクロの減量基準や断酒への移行基準等は、今のところありません。
なので、個々のケースで判断すべき、とのことです。2)
補足:1日2回以上お酒を飲みたくなっちゃったらどうするの?
セリンクロは1日1回までなので、朝・夕お酒を飲むからといって、セリンクロを朝・夕服薬することは出来ません。
ただ、血中半減期が約12時間あること3)、脳内のμオピオイド受容体占有率が投与後26時間で83~100%であったこと2)から、1日1回服薬すれば、複数回飲酒してもある程度の効果は出るとのことでした(メーカーさん情報)。
オススメは量を一番飲みそうなタイミングでセリンクロを服用する、とのことでしたが、このあたりは医師の考えによるかと思います。
既存薬と違う点は?
レグテクトと違う点は?
- 治療目標が違う
- 作用機序が違う
セリンクロとレグテクトの一番大きな違いは、治療目標です。
断酒を目指している場合はレグテクト、減酒を目指している場合はセリンクロを用います。
「レグテクトが使えないから、断酒じゃなくて減酒にしよっか。」とはならないので、まず治療目標を決めて、治療薬を選択する流れになると思います。
作用機序も違いますね。
セリンクロは過剰に活性化したドパミン系を抑制する薬剤、レグテクトは(作用機序は明確でないものの)グルタミン酸系を抑制する薬剤です。
販売名 | セリンクロ錠 | レグテクト錠 |
効能・効果 | アルコール依存症患者における飲酒量の低減 | アルコール依存症患者における断酒維持の補助 |
用法・用量 | 1回10mg 飲酒の1~2時間前 1日1回まで |
1回666mg 1日3回食後 |
投与期間 | (3ヵ月毎を目安として投与継続の要否を検討) | 原則24週間 |
使用上の注意(抜粋) | 1. 飲酒量低減を治療目標とすることが適切と判断された患者に対して投与すること。 2. 心理社会的治療と併用すること。 3. (アルコール依存症の)基準を満たす場合にのみ投与すること。 4. 習慣的に多量飲酒が認められる患者に使用すること。(目安:純アルコールとして1日平均男性60g超、女性40g超) 5. 離脱症状を呈している患者では、離脱症状に対する治療が終了してから使用すること。 6. 飲酒量低減治療の意思のある患者にのみ使用すること。 |
1. (アルコール依存症の)基準を満たす場合にのみ使用すること。 2. 心理社会的治療と併用すること。 3. 断酒の意志がある患者にのみ使用すること。 4. 離脱症状がみられる患者では、離脱症状に対する治療を終了してから使用すること。 |
禁忌 | 1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 2. オピオイド系薬剤(鎮痛、麻酔)を投与中又は投与中止後1週間以内の患者 3. オピオイドの依存症又は離脱の急性症状がある患者 |
1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 2. 高度の腎障害のある患者 |
慎重投与 | 1. アルコール離脱症状を呈したことのある患者 2. 肝機能障害又は腎機能障害のある患者 3. 自殺念慮又は自殺企図の既往のある患者、自殺念慮のある患者 |
1. 軽度から中等度の腎障害のある患者 2. 自殺念慮又は自殺企図の既往のある患者、自殺念慮のある患者 3. 高齢者 4. 高度の肝障害のある患者 |
注意しておきたいことは?
・オピオイド系薬剤との併用(重要な潜在的リスク)
・肝機能障害患者への投与(重要な潜在的リスク)
・注意力障害・浮動性めまい・傾眠(重要な潜在的リスク)
・自殺行動・自殺念慮(重要な潜在的リスク)
・錯乱・幻覚・解離等の精神症状(重要な潜在的リスク)
・敵意・攻撃性(重要な潜在的リスク)
注意すべき有害事象(RMP)(2019.4.3追記)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
重要な特定されたリスク | なし | – |
重要な潜在的リスク | オピオイド系薬剤との併用 | 添付文書(禁忌、併用禁忌、併用注意)で注意喚起 適正使用ガイドの配布 |
肝機能障害患者への投与 | 添付文書(用法・用量に関連する使用上の注意、慎重投与)で注意喚起 適正使用ガイドの配布 |
|
自殺行動・自殺念慮 | 添付文書(慎重投与、重要な基本的注意)で注意喚起 適正使用ガイドの配布/td> |
|
注意力障害・浮動性めまい・傾眠 | 添付文書(重要な基本的注意、副作用)で注意喚起 適正使用ガイドの配布 |
|
錯乱・幻覚・解離等の精神症状 | 添付文書(副作用)で注意喚起 適正使用ガイドの配布 |
|
敵意・攻撃性 | 添付文書(副作用)で注意喚起 適正使用ガイドの配布 |
|
重要な不足情報 | なし | – |
オピオイド系薬剤との併用
セリンクロはμとδオピオイド受容体に対する拮抗薬です。
そのため、麻薬性鎮痛薬(μまたはδオピオイド受容体作動薬)の薬理作用を減弱させる恐れがあること2)から、重要な潜在的リスクに設定されました。
併用時のリスクとしては、
1. オピオイド系薬剤の薬理作用の減弱
2. オピオイド系薬剤の長期投与後にセリンクロを投与することによる、オピオイド離脱症状の発現
3. 緊急手術等でオピオイド系薬剤が過量投与されることによる呼吸抑制の発現
があげられています。2)
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
禁忌(抜粋):
2. オピオイド系薬剤(鎮痛、麻酔)を投与中又は投与中止後1週間以内の患者
[オピオイドの離脱症状(又はその悪化)があらわれるおそれがある。]併用禁忌(一部略):
オピオイド系薬剤(鎮痛、麻酔)(ただし、緊急事態により使用する場合を除く)
モルヒネ(MSコンチン 等)
フェンタニル(フェント ス等)
フェンタニル・ドロペリ ドール(タラモナール)
レミフェンタニル(アル チバ等)
オキシコドン(オキシコ ンチン等)
メサドン(メサペイン)
ブプレノルフィン(ノル スパン等)
タペンタドール(タペンタ)
トラマドール(トラマー ル等)
トラマドール・アセトア ミノフェン(トラムセット)
ペチジン ペチジン・レバロルファ ン(ペチロルファン)
ペンタゾシン(ソセゴン 等)
ヒドロモルフォン(ナル サス等)本剤によりオピオイド受容体作動薬の離脱症状を起こすおそれがある。
また、本剤によりオピオイド受容体作動薬の鎮痛作用を減弱させるため、効果を得るために必要な用量が通常用量より多くなるおそれがある。
緊急の手術等によりやむを得ずオピオイド系薬剤を投与する場合、患者毎にオピオイド用量を漸増し、呼吸抑制等の中枢神経抑制症状を注意深く観察すること。
また、手術等においてオピオイド系薬剤を投与することが事前にわかる場合には、少なくとも1週間前に本剤の投与を中断すること。
本剤を処方する際には、事前に本剤を服用している旨を医療従事者へ伝える必要があることを患者に説明すること。併用注意(一部略):
オピオイド系薬剤(併用禁忌の薬剤を除く)
コデイン、ジヒドロコ デイン、ロペラミド、 トリメブチン等本剤によりオピオイド受容体作動薬の効果を減弱させるため、効果が得られないことがあるので、注意すること。
肝機能障害患者への投与
国内臨床試験では、プラセボ群に比べて、大きな差異は認められませんでした。
一方で、海外の製造販売後安全性情報で肝機能障害関連の有害事象が46件(21.3件/10万人年、うち重篤29件)報告されたことから、引き続きの情報収集が必要であるとして2)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
用法及び用量に関連する使用上の注意(抜粋):
3. 重度の肝機能障害のある患者(Child-Pugh分類C)には、1日最高用量を10mgとすること。
軽度及び中等度の肝機能障害のある患者(Child-Pugh分類A及びB)並びに重度の腎機能障害のある患者(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)では、血中濃度が過度に上昇するおそれがあるので、20mgに増量する場合には、患者の状態を観察しながら慎重に行うこと。慎重投与(抜粋):
2. 肝機能障害又は腎機能障害のある患者
[肝機能又は腎機能の低下に伴い血中濃度が上昇するおそれがある。]
注意力障害・浮動性めまい・傾眠
国内第3相試験で、セリンクロの投与によって中枢神経系の有害事象の発現が増えることが示されています。2)
しかし、中枢神経系の有害事象と転倒・外傷関連の有害事象が同時に発現した割合はプラセボ群と同程度(本剤10mg投与群:1/6例、本剤20mg投与群:2/7例、プラセボ群:4/16例)であり、認められた事象はいずれも軽度かつ非重篤でした。2)
そのため、中枢神経系の有害事象が臨床上大きな問題になるかについては、引き続きの情報収集が必要であるとして2)、重要な潜在的リスクに設定されました。
ちなみに自動車運転は「注意」です。
中枢神経系の有害事象の発現状況2) | |
国内第3相試験 (339-14-001試験) |
本剤10mg投与群(184例):63例 (主な事象:頭痛21例、浮動性めまい20例、傾眠18例) 本剤20mg投与群(248例):100例 (主な事象:頭痛24例、浮動性めまい51例、傾眠39例) プラセボ投与群(245例):53例 (主な事象:頭痛20例、浮動性めまい10例、傾眠17例) |
国内第3相長期投与試験 (339-14-002試験) |
本剤10mg投与群(94例):19例 (主な事象:頭痛8例、浮動性めまい5例、傾眠5例) 本剤20mg投与群(137例):32例 (主な事象:頭痛8例、浮動性めまい8例、傾眠9例) プラセボ投与群(172例):60例 (主な事象:頭痛13例、浮動性めまい27例、傾眠12例) |
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
重要な基本的注意(抜粋):
1. 注意力障害、浮動性めまい、傾眠等が起こることがあるので、本剤を服用している患者には自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。
自殺行動・自殺念慮
アルコール依存症患者の自殺の生涯リスクは7%とされており、元々自殺リスクの高い疾患です。2)
国内第3相試験によると、セリンクロ投与時の自殺関連の有害事象の発現割合は、プラセボ群と同程度(本剤10mg投与群:1/184例、本剤20mg投与群:1/248例、プラセボ群:1/248例、いずれも自殺念慮)でした。2)
一方で、海外の製造販売後安全性情報で自殺関連の有害事象が63件(29.2件/10万人年、うち重篤59件)報告され、うち56件はセリンクロとの因果関係が否定されませんでした。2)
そのため、製造販売後も引き続き情報収集する必要があるとして2)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
慎重投与(抜粋):
3. 自殺念慮又は自殺企図の既往のある患者、自殺念慮のある患者[自殺念慮、自殺企図があらわれることがある。]重要な基本的注意(抜粋):
4. 本剤との因果関係は明らかではないが、自殺念慮、自殺企図等が報告されているので、患者の状態を十分に観察するとともに、関連する症状があらわれた場合には、本剤の投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
錯乱・幻覚・解離等の精神症状
アルコール依存症患者は精神症状を合併していることがあり、本剤と精神症状との関連性は、まだ良くわかっていません。13)
しかし、海外試験(統合データ)での精神系有害事象の発現率は、セリンクロ群で3.6%(17/475例)、プラセボ群で0.3%(1/369例)とセリンクロ群で高頻度に発現していること13)から、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
効能又は効果に関連する使用上の注意(抜粋):
5. 緊急の治療を要するアルコール離脱症状(幻覚、痙攣、振戦せん妄等)を呈している患者では、離脱症状に対する治療が終了してから使用すること。[緊急の治療を要するアルコール離脱症状が認められる患者における安全性及び有効性は確立していない。]
敵意・攻撃性
国内第3相試験では、敵意・攻撃性関連の有害事象の発現割合はプラセボ群と同程度でした。2)
しかし、製造販売後も引き続き情報収集する必要があるとして2)、重要な潜在的リスクに設定されました。
敵意・攻撃性関連の有害事象の発現状況2) | |
国内第3相試験 (339-14-001試験) |
本剤10mg投与群(184例):3例 (易刺激性2例、激越1例) 本剤20mg投与群(248例):2例 (易刺激性1例、損傷1例) プラセボ投与群(245例):1例 (感情不安定1例) |
国内第3相長期投与試験 (339-14-002試験) |
本剤10mg投与群(94例):1例 (易刺激性1例) 本剤20mg投与群(137例):1例 (易刺激性1例) プラセボ投与群(172例):2例 (易刺激性2例) |
まとめ
本剤投与が有用な患者像
- 断酒が難しい患者
- 飲酒量の低減を目標に出来る患者
- 依存から脱却する意思がある患者
前提として、アルコール依存症の治療は原則「断酒」です。
ですが、いきなり断酒は厳しいのもわかります。
なので「断酒は正直厳しいけど、減らすことなら出来るかも…。」という患者さんは、状況が許せば、はじめの一歩として減酒を治療目標にしても良いかと思います。
その際に、セリンクロの力を借りても良いのかな、と。
クスリ飲んでると治療してる感が得られますし、「クスリ飲んだからちょっと飲む量減らそ。」と思えるならば、セリンクロを併用するのも一案です。
ただ、プラセボ(心理社会的治療のみ)でも約8日間ほど多量飲酒日を減らせているので、セリンクロを絶対服用しなきゃいけないわけでは無いです。
治療期12週時における多量飲酒日数のベースラインからの変化量3) | |
国内第3相試験 (339-14-001試験) |
本剤10mg投与群(180例):-12.09±0.74日 (ベースライン:23.49±6.07日) 本剤20mg投与群(242例):-12.25±0.64日 (ベースライン:22.64±6.37日) プラセボ投与群(244例):-7.91±0.61日 (ベースライン:22.97±6.44日) |
治療に絶対必要な薬では無いので、目標達成に必要そうだったら服用する。って感じで良いかと。
類薬の投与を検討すべき患者像
- 断酒できる患者
- 断酒すべき患者
アルコール依存症の治療は、最終的には断酒しないとならないので、断酒できる人は断酒した方が良いです。
その場合はセリンクロの出番は無く、心理社会的治療をメインにレグテクトを併用するか考えます。
抗酒薬(シアナマイド、ノックビン)は、最近はあんまり出番が無いですかね…。
これは患者さんの意思と好みによるかと思います。
タバコでいうと、ニコレット挟んだほうが禁煙しやすいか、決めた日にバッと禁煙した方がやりやすいか、みたいな。
一方、すでに家庭が崩壊していたり身体がボロボロだったりする場合は、減酒を治療目標にすることは出来ません。
こういった患者さんの場合は、原則入院&断酒になるかと思います。
参考:断酒を目標とした治療を選択すべき患者の例
・入院による治療が必要な患者
・飲酒に伴って生じる問題が重篤で社会・家庭生活が困難な患者
・臓器障害が重篤で飲酒により生命に危機があるような患者
・緊急の治療を要するアルコール離脱症状のある患者
また、妊婦と授乳婦も、子どもへの影響が出るため断酒すべきです。
特に妊婦の飲酒が原因の「胎児性アルコール症候群」は、脳の障害だけでなく顔を中心に奇形を引き起こす11)ので、妊婦の飲酒は本当に止めた方が良いです。。。
授乳中の飲酒は、授乳までに飲酒後2時間以上あけることが推奨されています。12)
母親の血中のアルコールは母乳に移行しますが、飲酒後2時間をピークに低下していきます。
なので、普通の方が息抜きに飲む程度なら問題ないかと思います。
プロラクチンを抑制するので、母乳が出にくくなったりするかもしれませんが…。
参考
産婦人科診療ガイドライン―産科編2017[PDF]日本産科婦人科学会
ただ、アルコール依存症の方は飲酒量やタイミングのコントロールが出来なくなっているので、減酒ではなく断酒を目指すべきですね。
でもここもケースバイケースかも。
私があんまりお酒好きでは無いので、ちょっと辛口評価になってしまいました。
依存症治療は個々人の状況によってさまざまですので、まずは専門医の受診をオススメします!
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190109002/180078000_23100AMX00009_A100_1.pdf.
3)セリンクロ錠10mg, 添付文書, インタビューフォーム, 新医薬品の使用上の注意の解説.
4)知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス アルコール依存症, 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol.html.
5)新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】(2018年12月), 一社)日本アルコール・アディクション医学会, 日本アルコール関連問題学会, http://www.j-arukanren.com/pdf/20190104_shin_al_yakubutsu_guide_tebiki.pdf.
6)市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン, 三重県立こころの医療センター, http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000646195.pdf.
7)5. アルコール依存症, 久里浜医療センター, http://www.kurihama-med.jp/info_box/al_5_3_2.html.
8)感作性試験, 食品薬品安全センター秦野研究所, http://www.fdsc.or.jp/contract/device/d_immun.html.
9)ナルメフェン塩酸塩水和物の使用に当たっての留意事項について, 薬生薬審発0108第10号, 薬生安発0108第1号, 障精発0108第1号, 平成31年1月8日.
10)レグテクト錠333mg, 添付文書, インタビューフォーム.
11)胎児性アルコール症候群, 厚生労働省, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-015.html.
12)産婦人科診療ガイドライン―産科編2017, 日本産科婦人科学会, http://www.jsog.or.jp/uploads/files/medical/about/gl_sanka_2017.pdf.
13)RMP, PMDA, https://www.pmda.go.jp/RMP/www/180078/4e6fb6ff-af96-48bb-8dd7-f8ed2065f26d/180078_1190025F1023_001RMP.pdf.
2019.2.11 公開
2019.4.3 RMPの情報を追記