新薬雑感:イベニティ皮下注

まずは基本情報

販売名 イベニティ皮下注105mgシリンジ
名前の由来 海外における製品名「Evenity」に準じた
一般名 ロモソズマブ(遺伝子組換え)
製造販売会社 アステラス・アムジェン・バイオファーマ(株)
販売会社 アステラス製薬(株)
薬効 抗スクレロスチン抗体製剤
効能・効果 骨折の危険性の高い骨粗鬆症
用法・用量 1回210mg 月1回 12ヵ月皮下注

名前の由来ってそういうことじゃないと思う…!(主張)

骨粗鬆症ってこういう疾患

  • 骨折しやすい状態
  • 患者数は約1,300万人
  • 治療のメインは薬物療法

骨粗鬆症は、骨折リスクが増大した状態のことです。4)
骨の量と質が低下し、折れやすくなっている状態のことですね。
日本では高齢化に伴い患者数が年々増加しており、約1,300万人の患者がいると推測されています。4)

骨量は20歳前後で最大になるため、骨粗鬆症の予防のためには、成長期(少なくとも18歳以前)に骨密度を増やしておくことが効果的です。4)
そのためにはバランスの良い食事と運動習慣が大事で、食事からのカルシウム摂取と骨に負荷がかかるような運動(球技のような、ジャンプや踏み込み動作による強い衝撃がある運動)が良いようです。4)
よって、思春期の過度な食事制限は、骨粗鬆症予防の観点からはオススメできません。

中高年以降でも、体重が減少すると骨折リスクが高くなるので、適正体重の維持が推奨されています。4)
また、歩行を中心とした日常的な運動も大事です。4)
喫煙者と常習的な飲酒者は男女ともに骨折リスクが高いので、タバコを吸わないこと、飲酒も適度な量に抑えることが推奨されています。4)

バランスの良い食事・運動・喫煙・節酒は、生活習慣病全体に言える予防法ですね~。

治療は、骨折の予防を目的に実施されます。4)
治療の中心は薬物療法で、骨の破壊を抑える「骨吸収抑制薬」や、骨量を増やす「骨形成促進薬」が用いられます。4)

イベニティってこういうくすり

  • 国内初の抗スクレロスチン抗体
  • 月1回、12ヵ月投与
  • 投与中はカルシウム剤とビタミンD剤を併用

イベニティは、国内初の抗スクレロスチン抗体製剤です。
スクレロスチンは骨から分泌される糖タンパクのひとつで、骨の破壊(骨吸収)を促進し、骨の形成(骨形成)を抑制します。3)

現在、スクレロスチンは運動の負荷や重力を骨に伝えるセンサーと考えられており5)、骨に力学負荷(重力とか運動とかですね)がかかると、スクレロスチンが抑制されて骨量が増えるといわれています。6)
運動が骨に良いっていうのは、スクレロスチンの働きを阻害するからなんですね。

ちなみに、PTHは骨細胞のスクレロスチンを抑制するため、PTHの骨形成促進作用の一部はスクレロスチン抑制を介していると考えられているようです。6)

イベニティは、このスクレロスチンに結合することで作用を阻害し、骨吸収を抑制して骨形成を促進します。
1回2シリンジ(210mg)を月1回、12ヵ月間皮下投与します。
1箱2シリンジ入りなので、1箱が1回分ですね。

なお、投与中は適切なカルシウムとビタミンDを補給します。
臨床試験では、少なくともカルシウム500mg/日、ビタミンD 600IU/日が投与されていました。3)
プラリアでいうデノタスチュアブル的な薬剤は今のところ無いので、ドクターの判断で併用薬が選ばれるのかな~と思います。

骨折リスクの高い骨粗鬆症って?

イベニティの適応は「骨折リスクの高い骨粗鬆症」です。
では「骨折リスクが高い」って具体的にどういうことでしょうか??

結論から言うと、統一された定義は存在していないようです。2)

イベニティは、2つの定義に基づく「骨折リスクの高い骨粗鬆症」患者に対する有効性を検討し、いずれの定義でも有効性が認められました。2)

※(1)原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)の定義(1. 腰椎骨密度が-3.3SD未満 2. 2個以上の既存椎体骨折がある 3. 半定量評価法によるグレード3以上の既存椎体骨折がある のうち、1つ以上を有する場合)に該当する場合
(2)WHOによる重症骨粗鬆症(骨密度のTスコアが-2.5SD以下であり、かつ1個以上の脆弱性骨折を有するもの)に該当する場合

日本だと、主に(1)の定義が使われるんですかね~。

なんで「骨折リスクの高い」骨粗鬆症という適応になったの?

審査の過程で、「適応は骨粗鬆症で良いんじゃないの?」という議論もされたようですが、結局「骨折リスクの高い骨粗鬆症」という適応になりました。

これは、重篤な心血管系事象に関する懸念が払拭されていないこと、そのため、より有用性の高い患者群を示すべきだということから、このような結論に至ったようです。2)

心血管系事象は、2017年にFDAが「懸念が払拭されない」としてイベニティの承認を見送った件で、ちょっと話題になりましたね。7)
この余波を受けてか、日本でも2016年12月に承認申請されてからまったく音沙汰が無く…。
2年越しにようやく承認されました。良かった。

 

既存薬と違う点は?

ボナロンと違う点は?

イベニティとボナロンは…

  • 作用機序が違う
  • 有効性はイベニティの方が高い?
  • 心血管系イベントの発現率は、イベニティの方が高い?
  • 使い方が違う

骨粗鬆症治療の標準薬であるビスホスホネート製剤のボナロンと、イベニティの一番大きな違いは作用機序です。

イベニティはスクレロスチンの作用を阻害することで、骨吸収の抑制と骨形成の促進という2つの作用を示します。
ボナロンは骨の表面に吸着し、破骨細胞の働きを阻害することで、骨吸収を抑制します。9)

 

有効性については、イベニティとアレンドロン酸製剤(1回70mg週1回経口投与)で比較試験(海外第3相試験:ARCH試験)が実施されています(アレンドロン酸の投与量が、日本の2倍であることに注意)。3)

閉経後骨粗鬆症患者に、イベニティ12ヵ月投与→アレンドロン酸12ヵ月投与、またはアレンドロン酸24ヵ月投与を実施した結果、イベニティ→アレンドロン酸投与群で、新規椎体骨折の発現率が有意に低下しました。3)

24ヵ月間の新規椎体骨折の発現率3)
海外第3相二重盲検比較試験
(20110142試験、ARCH試験)
イベニティ→アレンドロン酸投与群(1825例):4.1%(74/1825例)
アレンドロン酸投与群(1834例)8.0%(147/1834例)

一方で、アレンドロン酸投与群に比べ、イベニティ→アレンドロン酸投与群で重篤な心血管系有害事象が多く発現したという結果も出ています。3)
(心血管系事象については、こちら)

 

あとは使い方ですね。
イベニティは1ヵ月に1回投与で、原則12ヵ月間投与です。3)
ボナロンは1日1回または週1回投与です。10)
他のビスホスホネート製剤では、月1回投与や年1回投与もありますね。

剤型も、ボナロンは錠剤・ゼリー製剤・点滴静注製剤とバリエーション豊かです。
患者のニーズに合わせて投与方法を選べるのがビスホスホネート製剤の魅力ですね。

ビスホスホネート製剤の投与期間については、添付文書上に記載はありません。
しかし、長期間投与すると顎骨壊死や非定型大腿骨骨折の発生リスクが上昇することから、一般的には3~5年で投与継続の可否を再検討します。4)

販売名 イベニティ皮下注 ボナロン錠35mg
効能・効果 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 骨粗鬆症
用法・用量 1回210mg
1ヵ月に1回皮下注
1回35mg
週1回経口投与
服用後、少なくとも30分は横にならず、飲食・服薬を避ける
投与期間 原則、12ヵ月 (一般的には3~5年で再検討)
併用薬 本剤投与中は適切なカルシウム及びビタミンDの補給を行うこと (特に記載なし)
併用禁忌・注意 - 併用注意:
カルシウム、マグネシウム等の金属を含有する経口剤

※国際共同第3相試験では、試験期間を通じて全被験者に毎日少なくとも500mgのカルシウム及び600IUのビタミンDを補充した。

フォルテオと違う点は?

イベニティとフォルテオは…

  • 作用機序が違う
  • 有効性はイベニティの方が高い?
  • 使い方が違う

同じ「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」に用いるフォルテオと、イベニティの一番大きな違いは作用機序です。

イベニティはスクレロスチンの作用を阻害することで、骨吸収の抑制と骨形成の促進という2つの作用を示します。
フォルテオはPTH(副甲状腺ホルモン)の活性本体であり、骨芽細胞の機能を活性化することで骨形成を促進します。10)

 

有効性については、一応イベニティとテリパラチド1日1回皮下注製剤との比較試験(第3相試験:STRUCTURE試験)が実施されています(非盲検試験ですが…)。3)

ビスホスホネートの治療経験のある閉経後骨粗鬆症患者にいずれかの薬剤を投与した結果、イベニティ投与群で、大腿骨近位部の骨密度が有意に改善しました。3)

12ヵ月時点における大腿骨近位部骨密度(BMD)のベースラインからの変化率3)
海外第3相非盲検比較試験
(20080289試験、STRUCTURE試験)
イベニティ投与群(206例):2.6%
テリパラチド1日1回皮下投与群(209例):-0.6%

 

また、同じ注射剤であるものの、用法・用量や投与期間等がかなり違います。
イベニティは1ヵ月に1回投与で、原則12ヵ月間投与です。3)
フォルテオは1日1回投与で、投与期間は24ヵ月までです。10)

フォルテオの方が投与頻度が高いものの、自己注射が可能なので実際医療機関に行くのは1ヵ月に1回程度かと思います。
イベニティは自己投与できないので、1ヵ月に1回、必ず医療機関を受診する必要があります。

販売名 イベニティ皮下注 フォルテオ皮下注
効能・効果 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 骨折の危険性の高い骨粗鬆症
用法・用量 1回210mg
1ヵ月に1回皮下注
1回20μg
1日1回皮下注
投与期間 原則、12ヵ月 24ヵ月まで
自己投与 ×
併用薬 本剤投与中は適切なカルシウム及びビタミンDの補給を行うこと (特に記載なし)
併用禁忌・注意 - 併用注意:
活性型ビタミンD製剤、アルファカルシドール、ジギタリス製剤

※国際共同第3相試験では、試験期間を通じて全被験者に毎日少なくとも500mgのカルシウム及び600IUのビタミンDを補充した。

 

注意しておきたいことは?

注意
過敏症(重要な特定されたリスク)
低カルシウム血症(重要な特定されたリスク)
重篤な心血管系事象(重要な潜在的リスク)
顎骨壊死(重要な潜在的リスク)
非定型大腿骨骨折(重要な潜在的リスク)
過骨症(重要な潜在的リスク)
胎児へのリスク(重要な潜在的リスク)
治療終了・中止後の安全性(重要な潜在的リスク)
抗体産生の影響(重要な潜在的リスク)
腎機能障害患者における安全性(重要な不足情報)

イベニティに特徴的なのは、「重篤な新血管系事象」と「治療終了・中止後の安全性」でしょうか。
「低カルシウム血症」「顎骨壊死」「非定型大腿骨骨折」は、既存薬でも見られるので従来と同様の注意をしていただければ良いのかなーと思います。

注意すべき有害事象(RMP)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 過敏症 添付文書(禁忌、その他の副作用)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
低カルシウム血症 添付文書(禁忌、慎重投与、重要な基本的注意、重大な副作用)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
重要な潜在的リスク 重篤な心血管系事象 添付文書(効能・効果に関連する使用上の注意、重要な基本的注意、その他の注意)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
顎骨壊死 添付文書(重要な基本的注意、重大な副作用)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
非定型大腿骨骨折 添付文書(重要な基本的注意、重大な副作用)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
過骨症 -
胎児へのリスク 添付文書(妊婦、産婦、授乳婦への投与)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
治療終了・中止後の安全性 添付文書(用法・用量に関連する使用上の注意、重要な基本的注意)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
抗体産生の影響 添付文書(その他の注意)、患者向医薬品ガイドで注意喚起
重要な不足情報 腎機能障害患者における安全性 -

過敏症

イベニティは抗体製剤なので、インフュージョンリアクションなどの過敏症の発現リスクがあります。

臨床試験ではプラセボ投与群に比べてイベニティ投与群での過敏症関連事象の発現割合は低かったものの、重篤な事象が多く認められたこと、臨床試験用製剤(70mg/mL)よりも市販予定製剤(90mg/mL製剤)で有害事象が多く認められていること11)から、重要な特定されたリスクに設定されました。

過敏症の有害事象の発現状況11)
国際共同第3相試験(20070337試験)の日本人集団
国内第2相試験(20101291試験)
イベニティ投与群(308例):29例
プラセボ投与群(307例):38例
国内外の臨床試験 イベニティ投与群(3695例):249例(うち重篤なもの7例)
プラセボ投与群(3689例):253例(うち重篤なもの1例)
生物学的同等性試験
(20120156試験)
イベニティ70mg/mL製剤群(119例):3例
イベニティ90mg/mL製剤群(123例):14例
プラセボ投与群(52例):3例

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
禁忌(抜粋):
1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

低カルシウム血症

イベニティがスクレロスチンを阻害することで、急激に骨量が増加し、血清カルシウム濃度が低下する可能性があります

臨床試験での低カルシウム血症の発現例は少なかったものの、基礎治療薬(カルシウムとビタミンD)が血清カルシウム濃度の維持に寄与していた可能性があること2)、悪化した場合重篤な転帰を辿る可能性があること11)から、重要な特定されたリスクに設定されました。

低カルシウム血症の有害事象の発現状況11)
国内外の臨床試験
(20070337試験・20060326試験・20101291試験)
イベニティ投与群(3695例):1例
プラセボ投与群(3689例):0例

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
禁忌(抜粋):
2. 低カルシウム血症の患者
[低カルシウム血症が悪化するおそれがある]

慎重投与:
重度の腎機能障害患者(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)あるいは透析を受けている患者
[低カルシウム血症が発現しやすい]

重要な基本的注意(抜粋):
1. 低カルシウム血症やマグネシウム、intact-PTH等の骨・ミネラル代謝異常がある場合には、本剤投与前にあらかじめ治療すること。
2. 本剤投与中は適切なカルシウム及びビタミンDの補給を行うこと。
本剤投与後に血清カルシウム値が低下する可能性があるので、低カルシウム血症の徴候や症状がないか観察し、血清カルシウム値に注意すること。
なお、臨床試験では、本剤投与後2週間から1ヵ月の時点で血清カルシウム値の低下が認められている。

重大な副作用(抜粋):
1. 低カルシウム血症(頻度不明)
QT延長、痙攣、テタニー、しびれ、失見当識等を伴う低カルシウム血症があらわれることがあるので、観察を十分に行うこと。
低カルシウム血症が認められた場合には、カルシウム及びビタミンDの補充に加えて、緊急時には、カルシウムの点滴投与を併用するなど、適切な処置を速やかに行うこと。

重篤な心血管系事象

イベニティが阻害するスクレロスチンは、大動脈や血管の石灰化巣にも確認されています。
そのため、スクレロスチンを阻害することで、血管の石灰化を促進したり悪化させたりする懸念があります。11)
(ただし、硬結性骨化症またはvan Buchem病(スクレロスチンの欠損や低下がみられる病気)患者では、血管の石灰化や心血管疾患の早期発症の増加は報告されていません。)11)

プラセボ対照試験では、プラセボ群と比べて重篤な心血管事象の増加が見られませんでした
一方、アレンドロン酸を対照とした試験にて、アレンドロン酸投与群に比べてイベニティ投与群での重篤な心血管事象が多く認められたため2)、重要な潜在的リスクに設定されました。

ちなみに「ビスホスホネート系薬剤が心血管系リスクにどう影響するのか」については、心血管系リスクの低下や増加に関係があるという報告と、関係がないという報告の両方があります。2)
なので、現時点では何故差がついたのかの解釈が難しいようです。。。

重篤な心血管事象の有害事象の発現状況11)
国際共同第3相試験
(20070337試験)
イベニティ投与群(3576例):46例(心筋梗塞9例、脳卒中8例)
プラセボ投与群(3581例):46例(心筋梗塞8例、脳卒中10例)
海外第3相試験
(20110142試験:ARCH試験)
イベニティ→アレンドロン酸投与群(2040例):50例(心筋梗塞16例、脳卒中13例)
アレンドロン酸投与群(2014例):38例(心筋梗塞5例、脳卒中7例)

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
効能又は効果に関連する使用上の注意(抜粋):

2. 海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験において、心血管系事象(虚血性心疾患又は脳血管障害)の発現割合がアレンドロン酸ナトリウム群に比較して本剤群で高い傾向が認められている。
本剤の投与にあたっては、本剤のベネフィットとリスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること。

重要な基本的注意(抜粋):
3. 虚血性心疾患又は脳血管障害のリスクが高い患者への投与は有益性と危険性を考慮して判断すること。
また、投与する場合には、虚血性心疾患及び脳血管障害の徴候や症状を患者に説明し、徴候や症状が認められた場合は、速やかに医療機関を受診するよう指導すること。

顎骨壊死

顎骨壊死は、あごの骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になることです。12)
古くは顎骨への感染や放射線治療での発症が知られていましたが、近年、ビスホスホネート等の骨吸収抑制薬の使用での発現が注目されています。12)

顎骨壊死の病因は明らかではありませんが、イベニティも骨吸収抑制作用を持つことから、イベニティの使用が顎骨壊死の発現リスクとなる可能性があるため11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

参考 重篤副作用疾患別対応マニュアル「骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死・顎骨骨髄炎」厚生労働省

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
重要な基本的注意(抜粋):
5. 顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれることがあるので、以下の点に留意すること。
・リスク因子としては、悪性腫瘍、化学療法、血管新生阻害剤、コルチコステロイド治療、放射線療法、口腔の不衛生、歯科処置の既往等が知られている。
・本剤の投与前は、口腔内の管理状態を確認すること。また、患者に対し、必要に応じて、適切な歯科治療を受け、侵襲的な歯科処置をできる限り済ませておくよう指導すること。
・患者に対し、本剤投与中は口腔内を清潔に保つこと、定期的な歯科検査を受けること、歯科受診時に本剤の使用を歯科医師に告知することを説明し、異常が認められた場合には歯科又は口腔外科を受診するよう指導すること。
・本剤投与中に顎骨壊死を発症した又は発症の疑いのある患者に対し、歯科又は口腔外科を受診するよう指導すること。
・本剤の中止は本剤の有益性と危険性を考慮して判断すること。

重大な副作用(抜粋):
2. 顎骨壊死・顎骨骨髄炎(頻度不明)
顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。

非定型大腿骨骨折

非定型大腿骨骨折(AFF)は軽微な外力によって大腿骨小転子遠位部直下から顆上部の直上までに生じる骨折です。13)
ちょっと難しいので、薬剤師的には「骨粗鬆症など骨が弱くなって起こる骨折(定型骨折)とは違う骨折」と覚えておけば事足りるかと。

非定型骨折も、ビスホスホネート等の骨吸収抑制薬の使用で発現が認められている有害事象です。
イベニティも骨吸収抑制作用を持つこと、少数ですが臨床試験で非定型大腿骨骨折が認められていることから11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
効能又は効果に関連する使用上の注意(抜粋):
1. 本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。

重要な基本的注意(抜粋):
6. 骨吸収抑制作用を有するビスホスホネート系薬剤を長期使用している患者において、非外傷性の大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折が発現したとの報告がある。
これらの報告では、完全骨折が起こる数週間から数ヵ月前に大腿部や鼠径部等において前駆痛が認められている報告もあることから、このような症状が認められた場合には、X線検査等を行い、適切な処置を行うこと。
また、両側性の骨折が生じる可能性があることから、片側で非定型骨折が起きた場合には、反対側の大腿骨の症状等を確認し、X線検査を行うなど、慎重に観察すること。
X線検査時には骨皮質の肥厚等、特徴的な画像所見がみられており、そのような場合には適切な処置を行うこと。

重大な副作用(抜粋):
3. 大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折(頻度不明)
大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折を生じることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。

過骨症

過骨症は、骨に必要以上にカルシウムがたまってしまう病態です。14)
骨に突起物ができるなどの症状が出て、関節や骨に痛みを感じたり14)、神経障害を発症するリスクがあります。2)

国内外の臨床試験では特段大きな問題は認められなかったものの、イベニティの作用機序を考えると過骨症が生じるリスクが考えられるため11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

過骨症の可能性がある有害事象の発現状況11)
国際共同第3相試験(20070337試験)の日本人集団
国内第2相試験(20101291試験)
イベニティ投与群(308例):10例
プラセボ投与群(307例):8例

胎児へのリスク

ラットを用いた試験にて、ヒトに投与する量の30倍以上の量を投与した結果、正常な骨格の発達がやや遅延したことが認められています。11)

イベニティが妊婦に投与される可能性は極めて低いですが、低いながらもリスクが存在するとして11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
妊婦、産婦、授乳婦等への投与(抜粋):
1. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
ラットを用いた生殖発生毒性試験において、ヒトの曝露量(本剤210mgを1ヵ月に1回投与時のAUC)の30倍以上の曝露量となる用量を投与した母動物の胎児に、ヒトには存在しない解剖学的構造である第6頸椎椎弓化骨不全の発現率の増加が認められたが、出生児では認められず、発育遅延と考えられている。
また、ヒトの曝露量(本剤210mgを1ヵ月に1回投与時のAUC)の32倍の曝露量となる用量を投与した75匹中1匹の母動物の同腹胎児に、外表及び骨格奇形(合指症や多指症を含む)が認められた。

治療終了・中止後の安全性

臨床試験で、イベニティの投与終了後に一過性の骨吸収促進が認められていること、既存薬(プラリア)で治療中止後に一過性の骨吸収促進と多発性椎体骨折のリスク増加が認められたことから11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

海外第2相試験(20060326試験)にて、イベニティ投与後にプラセボが投与された患者群で腰椎・大腿骨近位部・大腿骨頸部の骨密度低下が認められ、骨吸収マーカーもイベニティ投与前と比較して上昇したようです。2)(最終的にはベースラインに戻ったようなので、作用は可逆的と判断されています。11)

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
重要な基本的注意(抜粋):
4. 本剤による投与終了後、骨吸収が一過性に亢進したことから、本剤の治療を終了又は中止する場合には、本剤治療終了後又は中止後に骨吸収抑制薬の使用を考慮すること

抗体産生の影響

イベニティは抗体製剤なので、中和抗体などが産生される懸念があります。

抗ロモソズマブ抗体が臨床上どのように影響するのかは不明ですが、何かしらの影響を与える可能性があることから11)、重要な潜在的リスクに設定されました。

腎機能障害患者における安全性

腎機能障害患者は、活性型ビタミンDの産生能力が低下しています。
そのため、イベニティを投与すると、健常人よりも低カルシウム血症を発現するリスクが高くなっています。

ただ、臨床試験では重度~末期の腎機能障害患者に対する投与症例が少なかったことから、腎機能障害患者にイベニティを投与した場合の影響については十分な情報がないとして11)、重要な不足情報に設定されました。

添付文書には、以下のように記載。

【添付文書記載事項】
慎重投与:
重度の腎機能障害患者(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)あるいは透析を受けている患者
[低カルシウム血症が発現しやすい]

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 骨折リスクの高い患者
  • 心血管系イベントのリスク・既往歴がない患者
りんご
高リスク患者への最終兵器的な存在?

有効性が高いのは間違いないと思うので、心血管系の有害事象をどう捉えるかが論点かと。

ビスホスホネート製剤とどっちが良いのかについては、今にも骨折しそうな患者さんだったら、心血管系に問題がなければ個人的にはイベニティを投与した方が良いのかな~と思います。
骨折して動けなくなったら、元も子もないですし。

テリパラチド製剤(フォルテオ、テリボン)とどっちが良いかは悩ましいですね。
STRUCTURE試験の結果だけを考えると、ビスホスホネート製剤で効果不十分な場合は、イベニティの方が良いのかな…。
非盲検というのがちょっと引っ掛かりますが…。

抗RANKL抗体製剤のプラリア(デノスマブ)との比較試験は見当たりませんでした。
ただ、国際共同第3相試験で、プラセボ→デノスマブ群よりもイベニティ→デノスマブ群で、新規椎体骨折の発現率が低いという結果が出ています。3)
なので、イベニティを使ってからプラリアの方が良いかもしれません。

12ヵ月および24ヵ月までの新規椎体骨折の発現率3)
国際共同第3相試験
(20070337試験:FRAME試験)
12ヵ月時:
イベニティ→デノスマブ投与群(3321例):0.5%(16/3321例)
プラセボ→デノスマブ投与群(3322例):1.8%(59/3322例)
24ヵ月時:
イベニティ→デノスマブ投与群(3325例):0.6%(21/3325例)
プラセボ→デノスマブ投与群(3327例):2.5%(84/3327例)

類薬の投与を検討すべき患者像

  • 骨折リスクがそれほど高くない患者
みかん
骨折リスクが低ければ、経口薬から始めてみては。

閉経後骨粗鬆症の標準薬は引き続きビスホスホネート製剤です。
よって、骨折リスクがそれ程高くない場合は、今までどおりビスホスホネート製剤で良いかと思います。

イベニティはお値段が高いですし、何より世界初の薬剤なので使用経験が少ないです。
反面、ビスホスホネート製剤は使用経験もエビデンスも豊富。
喫緊に対応が必要な状態でなければ、まずはビスホスホネート製剤から開始するのが妥当かなぁと考えます。
座ってられなくて経口剤が無理な場合でも、今は注射剤もありますし。

 

個人的には、「既存薬では効果が物足りない!」となった場合に、初めて投与を検討する薬剤なのかなーと思います。
もうちょっと情報が欲しいですね~。
世界初の製剤の評価は、いつも悩ましいです。

 

参考文献
1)イベニティ皮下注105㎎ シリンジ 骨折の危険性の高い骨粗鬆症の治療薬として 世界初の製造販売承認を日本で取得, アステラス製薬(株), https://www.astellas.com/jp/ja/news/20091.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190122003/112292000_23100AMX00004_A100_1.pdf.
3)イベニティ皮下注105mgシリンジ, 添付文書, インタビューフォーム, 新医薬品の使用上の注意の解説.
4)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版, 日本骨粗鬆症学会, http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf.
5)須田立雄, 重力センサーとしての骨, https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/5/65_250/_pdf.
6)小出雅則他, スクレロスチンによる骨リモデリング制御, https://mdu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=2694&file_id=22&file_no=1.
7)第2の骨形成促進薬の命運 抗スクレロスチン抗体romosozumabの米国での承認見送りに思う 東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長 川口浩, MedicalTribune, 2017年9月12日, https://medical-tribune.co.jp/news/2017/0912510665/.
8)ヒト抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤「ロモソズマブ」骨折の危険性の高い骨粗鬆症の治療薬として製造販売承認申請, アステラス製薬(株), https://www.astellas.com/jp/system/files/news/2017-03/161220_Jp_3.pdf.
9)ボナロン錠35mg, 添付文書, インタビューフォーム.
10)フォルテオ皮下注キット600μg, 添付文書, インタビューフォーム.
11)RMP, PMDA, http://www.pmda.go.jp/files/000227958.pdf.
12)重篤副作用疾患別対応マニュアル「骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死・顎骨骨髄炎」, 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/tp1122-1l.html.
13)萩野 浩, 非定型大腿骨骨折の定義と現状, 整形・災害外科 60巻8号 (2017年7月), https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18888/se.0000000077.
14)過骨症, がん情報の検索, 中外製薬(株), https://search.gan-guide.jp/search/search?q=%E9%81%8E%E9%AA%A8%E7%97%87.