まずは基本情報
販売名 | ブコラム口腔用液2.5mg・5mg・7.5mg・10mg |
名前の由来 | ミダゾラム(Midazolam)を頬粘膜投与(Buccal)できる薬剤として、ブコラムと命名された。 |
一般名 | ミダゾラム |
製造販売会社 | 武田薬品工業(株) |
薬効 | 抗けいれん剤(ベンゾジアゼピン系薬) |
効能・効果 | てんかん重積状態 |
用法・用量 | 1回 頬粘膜投与 〈1回量〉 修正在胎52週以上1歳未満:2.5mg 1歳以上5歳未満:5mg 5歳以上10歳未満:7.5mg 10歳以上18歳未満:10mg |
てんかん重積状態ってこういう疾患
- けいれん発作が長時間続く状態
- できるだけ早く治療を開始する
- 医療機関外で使える治療薬の開発が望まれていた
てんかん重積状態は、てんかんの発作が止まらなくなったり、異常に長く続く状態のことです。5)
通常、てんかん発作は1~2分でおさまりますが、5分以上続いた場合はてんかん重積状態とみなして治療を開始します。5)
けいれんが30分以上続くと後遺症をきたす可能性があるため、できるだけ早く治療を開始することが望まれています。6)
しかし、119番から病院収容まで平均39.4分かかるという調査結果があるとおり、発作開始から治療開始までに30分以上経過してしまうこともあります。6)
そのため、医療機関受診までの治療法としてダイアップ坐剤等が使われていますが、効果が出るまでに時間がかかる上に、急性けいれん発作に対する明確なエビデンスはありません。8)
また、けいれん状態の患者へ挿肛するのも困難であるため、複数人数で処置する必要がある等の課題があります。6)
一方、欧米では家庭での対処法として、ミダゾラムの鼻腔内投与・頬粘膜投与、ジアゼパムの直腸内投与などが推奨されており8)、日本でも薬剤の開発が望まれていました。
ブコラムってこういうくすり
- てんかん重積状態に用いるベンゾジアゼピン系薬
- 頬粘膜に投与する製剤
- 親などの介護者も投与可能
ブコラムは、てんかん重積状態に用いるベンゾジアゼピン系薬です。
ミダゾラムは、すでにミダフレッサ静注が使われていますね。それの頬粘膜投与製剤です。
ガイドラインには既に記載がありまして、病院初期治療に用いる薬剤に位置づけられています。
投与量は年齢毎に固定用量が決まっており、対応したシリンジの全量を1回で投与します。
医療従事者はもちろん、親などの介護者も投与が可能です。
室温で、立てて保管する
シリンジの構成成分に有効成分が吸収されて含量が低下するおそれがあるため、プラスチックチューブのふた側を上向きにして立てて保管する必要があります。3)
家庭内で保存するときはもちろん、旅行に持っていく際には倒れないように持つ工夫が必要ですね。
追加投与は不可
追加投与すると曝露量が上がりすぎる可能性があるため、家庭内で2本目の投与はしません。
吐き出したりこぼしたりして全量が投与できなかった場合や、飲み込んでしまった場合なども、自己判断での追加投与はできません。
その場合は救急搬送の上、医師の指示に従ってください。
なお、医療機関では、呼吸抑制や血圧低下などに注意すれば、再投与が可能です。
両親や祖父母が投与できるの?
投与可能です。
ただし、投与前に医師から投与方法や副作用とその対処法について、説明を受ける必要があります。3), 9)
もし祖父母に預けることが多いのであれば、一緒に説明を受けたほうが良いかもしれませんね。
また、使い方のガイドブックや動画をメーカーさんが出しているので、定期的に一緒に見ることもオススメします。
慌ててると使い方をど忘れしちゃうと思うので。
参考
各種製品情報資材ダウンロード(医療従事者向け)武田薬品工業
学校の先生は投与できるの?
2021年3月現在、多分可能ですが、詳細は事務連絡待ちです。
他人への薬剤投与は医行為になるため、基本的には医師法17条違反です。
しかし生命に危険が及ぶにもかかわらず本人が薬剤を投与できない場合に、居合わせた人が代わって投与するケースが、学校などで発生することがあります。
従来使われていたダイアップ坐剤は、2016年2月に文部科学省から「学校におけるてんかん発作時の坐薬挿入について」という事務連絡が出されています。6), 7)
【事務連絡記載事項】
学校現場等で児童生徒がてんかんによるひきつけを起こし、生命が危険な状態等である場合に、現場に居合わせた教職員が、坐薬を自ら挿入できない本人に代わって挿入する場合が想定されるが、当該行為は緊急やむを得ない措置として行われるものであり、次の4つの条件を満たす場合には、医師法違反とはならないと解してよろしいか。
(略)(回答)
貴見のとおり。
なお、一連の行為の実施に当たっては、てんかんという疾病の特性上、学校現場において児童生徒のプライバシーの保護に十分配慮がなされるよう強くお願いする。
参考
学校におけるてんかん発作時の坐薬挿入について文部科学省
また、部会の議事録でも学校での投与について言及されています。14)
【部会議事録記載事項】
○堀委員 ということは、今おっしゃったように、余り体重は関係ないという形で、考えていいのでしょうか。私ども、もし病院以外の、例えば幼稚園、小学校とか、保育園、20歳前18歳未満でしたら中学、高校とかで、もし教員の立場に立って生徒がこういうふうになったときには、事前にそのおうちの方、あとは担当の医師の方から、何かあったら投与してくださいといった形で委託をされるという状況なのでしょうか。
(中略)
○事務局 追加で御質問を頂きました、保護者の方々にどういう形で渡されるのかというところなのですけれども、基本的に、最初にもう保護者の方などに、「これこの用量お願いします」という形で、同じ規格のものが複数本渡されるような形になると思いますので、それを事前に学校などに置いたりして、そちらを使っていただくという形になると考えております。
ブコラムで同様の通知は確認できていませんが、議事録を見る限り、おそらく大丈夫なんじゃないかなぁと思っています。
情報持ってる方教えてくださいませ~。
救急救命士は投与できるの?
2021年3月現在、投与できないそうです。
救急救命士が行うことのできる救命救急処置は、厚生労働省課長通知で指定されています。
いまのところその通知の改正が無いので、ブコラムを救急救命士が投与することは出来ません。(2020年12月15日現在)8), 9)
エピペンは出来るんですけどね~…。
既存薬と違う点は?
ミダフレッサと違う点は?
- 有効成分は一緒
- 投与経路が違う
- 投与可能な年齢が違う
ブコラムとミダフレッサは、同じ有効成分(ミダゾラム)の薬剤です。
ブコラムは頬の内側から吸収させる薬剤なのに対し、ミダフレッサは注射です。
なので、ブコラムは自宅や学校など、医療機関外でけいれんが起こったときの初期対応に使うのに対し、ミダフレッサは病院でしっかりけいれんを抑えるために使われます。
また、投与可能な年齢も違います。
ブコラムは修正在胎(在胎週数+出生後週数)が52週以上の小児に使うことが出来ます。
ミダフレッサはもっと広くて、修正在胎45週以上の患者に使えます。
臨月で産まれたら在胎週数が40週くらいなので、ブコラムは大体生後3ヵ月から、ミダフレッサは大体生後1ヵ月から使える感じですね。
早く産まれた子の場合、例えば32週で産まれた子がブコラムを使えるのは、大体生後5ヵ月からです。
なお、6ヵ月までの乳幼児にブコラムを使う場合は、医療機関(医師の監督下)で投与する必要があります。
販売名 | ブコラム | ミダフレッサ |
剤形 | 口腔用液 | 静注 |
有効成分 | ミダゾラム | |
投与可能な年齢 | 修正在胎52週以上18歳未満 | 修正在胎45週以上 |
ダイアップと違う点は?
- 投与経路が違う
- ブコラムのほうがTmaxが早め
- ブコラムのほうが併用注意が多め
ダイアップ坐剤とブコラムは、同じ小児用のベンゾジアゼピン系薬です。
投与経路は、ダイアップが坐剤(おしりに挿入)、ブコラムは口腔用液(おくちに注入、ほっぺから吸収)です。
Tmax(薬剤の血中濃度がピークに達する時間)は、ダイアップが1.2時間(小児患者1.5時間)、ブコラムが30分(小児患者20分)なので、ブコラムのほうが効き目が早そうです。
実際、ブコラムの国内第3相試験にて、25例中20例で投与10分以内に発作が消失しています。3)
なので、結構早く効くのかなぁという印象。
併用注意は、ブコラムのほうがちょっと多めですね。
ブコラムはCYP3A4で代謝されるので、グレープフルーツジュースが併用注意になってる系薬剤(薬剤師にしか伝わらない感)です。
小児だと、てんかん系(トピラマートなど)、マクロライド系(クラリスロマイシンなど)、テオフィリンあたりに注意。3)
販売名 | ブコラム | ダイアップ |
剤形 | 口腔用液 | 坐剤 |
有効成分 | ミダゾラム | ジアゼパム |
Tmax | 30分 (小児患者20分) |
1.2時間 (小児患者1.5時間) |
注意しておきたいことは?
・呼吸抑制(重要な特定されたリスク)
・前向性健忘(重要な潜在的リスク)
・乱用又は薬剤違法流用(重要な潜在的リスク)
・誤嚥又は誤嚥性肺炎(重要な潜在的リスク)
・シリンジキャップの誤飲・誤嚥による息詰まり(重要な潜在的リスク)
・薬剤相互作用による中枢神経抑制作用の増強(重要な潜在的リスク)
・循環器系の抑制(重要な潜在的リスク)
・ショック、アナフィラキシー(重要な潜在的リスク)
・悪性症候群(重要な潜在的リスク)
・心室頻拍及び心室頻脈(重要な潜在的リスク)
・過鎮静(重要な潜在的リスク)
・逆説反応(重要な潜在的リスク)
・非けいれん性てんかん重積状態患者の安全性(重要な不足情報)
・医療期間外投与での安全性(重要な不足情報)
・追加投与での安全性(重要な不足情報)
注意すべき有害事象(RMP)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
重要な特定されたリスク | 呼吸抑制 | 添付文書(「2. 禁忌」「8. 重要な基本的注意」「9.1.1 呼吸不全を有する患者」「9.1.2 呼吸機能障害(呼吸不全を除く)、睡眠時無呼吸症候群を有する患者」「9.1.3 心不全を有する患者」「9.3.1 重度の肝機能障害患者(Child-Pugh 分類 C)」「9.5 妊婦」「9.7 小児等」「10.1 併用禁忌」「10.2 併用注意」「11.1 重大な副作用」「13. 過量投与」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 |
重要な潜在的リスク | 前向性健忘 | – |
乱用又は薬剤違法流用 | 添付文書(「9.1.6 アルコール又は薬物乱用の既往を有する患者」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
誤嚥又は誤嚥性肺炎 | 添付文書(「7. 用法及び用量に関連する注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
シリンジキャップの誤飲・誤嚥による息詰まり | 添付文書(「14.1 薬剤投与時の注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
薬剤相互作用による中枢神経抑制作用の増強 | 添付文書(「10.1 併用禁忌」「10.2 併用注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
循環器系の抑制 | 添付文書(「8. 重要な基本的注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
ショック、アナフィラキシー | 添付文書(「2. 禁忌」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
悪性症候群 | – | |
心室頻拍及び心室頻脈 | – | |
過鎮静 | 添付文書(「2. 禁忌」「10.1 併用禁忌」「13. 過量投与」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
逆説反応 | 添付文書(「9.7 小児等」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 | |
重要な不足情報 | 非けいれん性てんかん重積状態患者の安全性 | 添付文書(「5. 効能又は効果に関連する注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 |
医療期間外投与での安全性 | 添付文書(「1. 警告」「8. 重要な基本的注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 医療従事者向け資材(ブコラム患者説明用下敷き)および患者向け資材(ブコラム使い方ガイドブック)の作成及び提供 |
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追加投与での安全性 | 添付文書(「7. 用法及び用量に関連する注意」「8. 重要な基本的注意」)および患者向け医薬品ガイドで注意喚起 医療従事者向け資材(ブコラム患者説明用下敷き)および患者向け資材(ブコラム使い方ガイドブック)の作成及び提供 |
呼吸抑制
呼吸抑制は、けいれん発作の合併症です。
また、ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用としても知られています。4)
国内第3相試験にて、呼吸抑制が25例中2例みられたこと、3~6ヵ月の乳幼児は呼吸機能が未成熟のため遅発性の呼吸抑制を来す可能性があること等から4)、重要な特定されたリスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
2. 禁忌〈抜粋〉:
1. 重症筋無力症を有する患者
[重症筋無力症の症状を悪化させるおそれがある。]
5. ショックの患者、昏睡の患者、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者
[呼吸抑制や血圧低下等の症状を悪化させるおそれがある。]8. 重要な基本的注意(抜粋):
2 3~6ヵ月の乳幼児に本剤を投与する場合は、患者の状態を観察することができ、必要時に救急蘇生のための医療機器、薬剤等の使用が可能な医師の監督下においてのみ行うこと。9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
1 合併症・既往歴等のある患者
1.1 呼吸不全を有する患者
本剤投与前に酸素吸入器、吸引器具、挿管器具等の人工呼吸のできる器具及び昇圧剤等の救急蘇生剤を手もとに準備し、救急蘇生の対応が可能な状況下でのみ、本剤を投与すること。本剤投与により呼吸のさらなる抑制や急激な血圧低下等を引き起こすおそれがある。1.2 呼吸機能障害(呼吸不全を除く)、睡眠時無呼吸症候群を有する患者
必要時に救急蘇生のための医療機器等の使用が可能な状況下でのみ本剤を投与すること。本剤投与により呼吸状態が悪化するおそれがある。1.3 心不全を有する患者
本剤投与前に酸素吸入器、吸引器具、挿管器具等の人工呼吸のできる器具及び昇圧剤等の救急蘇生剤を手もとに準備し、救急蘇生の対応が可能な状況下でのみ、本剤を投与すること。本剤投与により呼吸のさらなる抑制や急激な血圧低下等を引き起こすおそれがある。3 肝機能障害患者
3.1 重度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類C)
本剤投与前に酸素吸入器、吸引器具、挿管器具等の人工呼吸のできる器具及び昇圧剤等の救急蘇生剤を手もとに準備し、救急蘇生の対応が可能な状況下でのみ、本剤を投与すること。本剤の代謝が遅延し、中枢神経系への作用が増強又は遷延して呼吸の抑制や急激な血圧低下等を引き起こすおそれがある。5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
(2)妊娠末期の妊婦へ投与又は分娩中の患者に高用量を投与したとき、胎児に心拍数の不整、新生児に低血圧、哺乳困難、低体温、呼吸抑制があらわれたとの報告がある。なお、ベンゾジアゼピン系薬剤で新生児に哺乳困難、嘔吐、活動低下、筋緊張低下、過緊張、嗜眠、傾眠、呼吸抑制・無呼吸、チアノーゼ、易刺激性、神経過敏、振戦、低体温、頻脈等を起こすことが報告されており、これらの症状は、離脱症状あるいは新生児仮死として報告される場合もある。また、ベンゾジアゼピン系薬剤で新生児に黄疸の増強を起こすことが報告されている。
(3)分娩前に連用した場合、出産後新生児に離脱症状があらわれることが、ベンゾジアゼピン系薬剤で報告されている。7 小児等
7.1 0~3ヵ月の乳幼児を対象とした試験は実施していない。
7.2 3~6ヵ月の乳幼児に本剤を投与した場合に遅発性の呼吸抑制があらわれるおそれがある。
7.3 小児等において、激越、不随意運動(強直性/間代性痙攣、筋振戦を含む)、運動亢進、敵意、激しい怒り、攻撃性、発作性興奮、暴行などの逆説反応が起こりやすいとの報告がある。13. 過量投与:
1. 症状
本剤の過量投与により、傾眠、錯乱状態、嗜眠、運動失調、筋緊張低下、低血圧又は呼吸抑制があらわれるおそれがあり、まれに昏睡、ごくまれに死亡に至るおそれがある。
2. 処置
本剤の過量投与が明白又は疑われた場合の処置としてフルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)を投与することも考慮すること。
前向性健忘
前向性健忘とは、原因となる出来事の前に新しい記憶を保持できないことです。15)
ベンゾジアゼピン系薬の副作用として知られています。4)
臨床試験では有害事象として報告されませんでしたが、起こった際に自動車運転や機械操作に影響を及ぼす可能性があること等から4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
乱用又は薬剤違法流用
こちらもベンゾジアゼピン系薬のリスクですね。
乱用などの発生が報告されています。
臨床試験ではみられませんでしたが、ブコラムにも可能性はありますので4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
1.6 アルコール又は薬物乱用の既往を有する患者
誤嚥又は誤嚥性肺炎
ブコラムは頬の粘膜に投与する製剤です。
発作時の小児に投与するため、頬に吸収される前にうっかり飲み込んでしまう(誤嚥)可能性があります。
臨床試験ではみられませんでしたが、可能性があることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意(抜粋):
1 本剤のシリンジ液剤の全量を片側の頬粘膜に緩徐に投与すること。体格の小さい患者や用量が多い場合は、必要に応じて両側の頬粘膜に半量ずつ投与すること。
3 本剤は頬粘膜より吸収されるため、投与時に可能な限り本剤を飲み込まないように注意すること。
シリンジキャップの誤飲・誤嚥による息詰まり
シリンジキャップを外さないで投与した場合、キャップを誤嚥する可能性があることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
実際、海外では販売後に内側のシリンジキャップが外されないまま投与されたことがあるようです。
なお、その後製剤を改良したため、同様の報告は起きていないとのことです。4)
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
14. 適用上の注意:
1 薬剤投与時の注意
1.1 本剤は1回投与分の規定量を充填した頬粘膜投与用のプレフィルドシリンジであり、その他の投与経路には用いないこと。
1.2 本剤は注射剤ではないため、針、静脈内投与用チューブ又はその他の非経口投与用器具をシリンジに装着しないこと。
1.3 本剤の偶発的な吸引を避けるため、咽頭気管へ挿入しないこと。
1.4 誤飲・誤嚥を避けるため、本剤投与前にシリンジキャップを外し、確実に2つのキャップ(赤色キャップとその内側の白色キャップ)が外れていることを確認すること。
1.5 使用済みのシリンジは再使用せず、安全に廃棄すること。
薬剤相互作用による中枢神経抑制作用の増強
ベンゾジアゼピン系薬とアルコールなどの中枢神経抑制剤を併用すると、中枢神経作用が強くなって過鎮静や呼吸抑制が起こる可能性があります。
臨床試験では発生していませんが、可能性があることから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
まぁ子どもはアルコール飲まないでしょうし、併用するおくすりは医師と薬剤師のチェックが入っているはずなので、過度に気にする必要はないかと思います。
気になる場合は、おくすり手帳を持ってかかりつけ医やかかりつけ薬剤師に相談しましょう。
自己判断でくすりを中止するのは、(特に子どもは)避けたほうが良いと思います。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
10. 相互作用(抜粋):
本剤は主に肝薬物代謝酵素CYP3A4で代謝される。
1 併用禁忌(併用しないこと)
HIVプロテアーゼ阻害剤
過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれがある。
これらの薬剤のCYP3A4に対する阻害作用により、本剤の血中濃度が上昇する。
循環器系の抑制
ショック、アナフィラキシー
悪性症候群
心室頻拍及び心室頻脈
上記4つはどれも臨床試験で報告されていませんが、同じ有効成分のドルミカムの重大な副作用に記載されているため4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
ちなみに既存薬のミダフレッサ静注では報告されていませんし、ドルミカムは麻酔前投薬で使い方も使う量も全然違うので、過度に心配する必要はないと思います。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
2. 禁忌(抜粋):
5. ショックの患者、昏睡の患者、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者
[呼吸抑制や血圧低下等の症状を悪化させるおそれがある。]8. 重要な基本的注意(抜粋):
1 無呼吸、呼吸抑制、舌根沈下、血圧低下等があらわれるおそれがあるため、医療機関で投与する場合は、本剤投与前に救急蘇生のための医療機器、薬剤等を準備しておくとともに、本剤投与中は、パルスオキシメーターや血圧計等を用いて、患者の呼吸及び循環動態を継続的に観察すること。
過鎮静
鎮静とは、意識レベルを低下させることです。12)
医療現場では、全身麻酔による手術時や緩和ケアでよく使われる用語で、意識レベルを低下させて痛みや不安を和らげることを指します。
過鎮静は、この鎮静が過度に起こった状態のことです。
意識レベルが思ったよりも低下しすぎて、一日中ぼーっとしてしまったり眠り続けてしまうこともあります。
ベンゾジアゼピン系薬は、間接的に抑制系(GABA神経系)を亢進するため、鎮静作用を有しています。
そのため、過鎮静が起こる可能性が否定できないことから4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
2. 禁忌(抜粋):
5. ショックの患者、昏睡の患者、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者
[呼吸抑制や血圧低下等の症状を悪化させるおそれがある。]13. 過量投与:
1. 症状
本剤の過量投与により、傾眠、錯乱状態、嗜眠、運動失調、筋緊張低下、低血圧又は呼吸抑制があらわれるおそれがあり、まれに昏睡、ごくまれに死亡に至るおそれがある。
2. 処置
本剤の過量投与が明白又は疑われた場合の処置としてフルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)を投与することも考慮すること。
逆説反応
逆説反応(奇異反応)は、ベンゾジアゼピン系薬で報告されている副作用です。13)
ベンゾジアゼピン系薬は、気分を落ち着かせ不安を和らげる作用があります。
しかし、ベンゾジアゼピン系薬を服用した際に、不安や焦燥、攻撃性や敵意、興奮などを呈したという報告が相次いだことから、「薬剤に期待する効果とは逆の反応が起きた」=逆説反応という副作用が認識されました。
一般的な発生頻度は0.2~0.7%と多くありませんが、臨床用量の範囲内で生じること、生じた場合に暴力や自殺企図につながる恐れがあります。
ブコラムの臨床試験では確認されていませんが、小児では逆説反応が起こりやすいという報告がある等から4)、重要な潜在的リスクに設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋):
7 小児等
7.3 小児等において、激越、不随意運動(強直性/間代性痙攣、筋振戦を含む)、運動亢進、敵意、激しい怒り、攻撃性、発作性興奮、暴行などの逆説反応が起こりやすいとの報告がある。
非けいれん性てんかん重積状態患者の安全性
臨床試験では非けいれん性のてんかん重積状態患者に投与されたことがないため4)、重要な不足情報に設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
5. 効能又は効果に関連する注意(抜粋):
2 非けいれん性てんかん重積状態に対して、保護者又はそれに代わる適切な者が本剤を投与する場合は、重症度や患者の包括的な医療環境を考慮して、投与可能であると医師が適切に判断した患者にのみ投与すること。
医療機関外投与での安全性
臨床試験で、医療機関外で投与された患者は3例しかおらず(2020年1月現在)、十分な安全性情報が得られていないことから4)、重要な不足情報に設定されました。
実臨床では医療機関外での投与のほうが多いと思いますので、今後データが集積されてくると思います。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
1. 警告:
本剤を交付する際には、本剤交付前に保護者又はそれに代わる適切な者が自己投与できるよう、本剤の投与が必要な症状の判断方法、本剤の保存方法、使用方法、使用時に発現する可能性のある副作用等を保護者又はそれに代わる適切な者が理解したことを確認した上で交付すること。8. 重要な基本的注意(抜粋):
4 保護者又はそれに代わる適切な者が本剤を投与する場合は、その適用開始にあたり、医師は保護者又はそれに代わる適切な者に対して、以下の点について指導すること。また、保護者又はそれに代わる適切な者が、以下の投与方法及び使用方法並びに副作用及びその対処方法等について理解し、事前に医師と十分に連携し、救急搬送の必要性を保護者又はそれに代わる適切な者が判断できることを確認した上で本剤を交付すること。4.1 本剤に関する患者向けの説明文書等を熟読し、日頃から本剤の使用方法について理解しておくこと。
4.2 医師と保護者又はそれに代わる適切な者が、本剤の投与が必要となるてんかん重積状態の症状について認識を共有した上で、本剤投与前に本剤投与の必要性について確認すること。
4.3 原則として本剤投与後は救急搬送の手配を行い、10分以内に発作が停止しない場合や薬剤を全量投与できなかった場合、浅表性呼吸や意識消失等が認められた場合は、医療機関に救急搬送すること。その際、本剤投与状況の確認のため、使用済みのシリンジを医療従事者に提示すること。
4.4 本剤投与後に発作が再発した場合でも、本剤を追加投与しないこと。
4.5 呼吸抑制及び徐脈等があらわれるおそれがあるため、患者の呼吸数及び脈拍数を確認し、無呼吸、呼吸抑制、脈拍数低下がないか等、患者の状態を注意深く観察するとともに、救急搬送の手配等の緊急事態の対応に備えること。
追加投与での安全性
臨床試験では追加投与した患者がいなかった(単回投与試験だったので)等から4)、重要な不足情報に設定されました。
添付文書には、以下のように記載。
【添付文書記載事項】
7. 用法及び用量に関連する注意(抜粋):
1 本剤のシリンジ液剤の全量を片側の頬粘膜に緩徐に投与すること。体格の小さい患者や用量が多い場合は、必要に応じて両側の頬粘膜に半量ずつ投与すること。
2 保護者又はそれに代わる適切な者が本剤を投与する場合は、1回分(シリンジ1本)のみの投与とするよう指導すること。8. 重要な基本的注意(抜粋):
3 本剤を追加投与(シリンジ2本目を投与)することにより、本剤の曝露量が増加する可能性がある。やむを得ず追加投与する際には、呼吸抑制及び血圧低下等のおそれがあるため、患者の状態を十分に観察し追加投与の可否を慎重に判断し、呼吸及び循環動態の連続的な観察ができる施設においてのみ用いること。
まとめ
本剤投与が有用な患者像
- てんかん発作が頻回に起こる小児
ブコラムのことを「てんかん界のエピペン」って呼んでいるのですが、頻回に発作が起こるお子さんがいる家庭では、お守り代わりに持っていても良いのかなぁと思います。
やっぱり子どもがけいれんすると親としては慌てますし、それが何分も持続するとなれば、どうにかして治してあげたいと思うと思うんですよ。
特に今ダイアップを常備しているご家庭だったら、ブコラムに切り替えても良いのかなぁと考えます。やっぱ早く効いた方が良い。
ただ、使い方がちょっと大変…というか、しっかり説明書を読み込んで手技を確認しないと、いざというときに慌てそうですよね。
メーカーさんが練習用の形状見本を配っているので3)、ぜひ貰って保護者全員で(できれば先生も)練習して、いざというときに備えてほしいです。
たぶん、医師か薬剤師に言えば手配してくれるはず。
ちなみにブコラムは、患者会からの早期承認の要望があった薬剤です。
Twitterで下記リンクのマンガがバズってましたね。
参考
助けてください。私の大事な友達の子供がドラベ症候群という、難病です。かざりび
そしてようやく発売されてたブコラムの処方によって、行動範囲が広がり「リスクが高過ぎて行くことが出来なかった山の中のスキー場に行けました!」という患者会の記事がありました。
こういうエピソードを聞くとこちらも嬉しくなります。お守り代わりのブコラムを片手に、子どもならではの経験を積めるように色々なところへお出かけして欲しいです。
2)審査報告書, PMDA, https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20201005001/400256000_30200AMX00935_A100_1.pdf.
3)ブコラム口腔用液2.5mg・5mg・7.5mg・10mg 添付文書, インタビューフォーム, 適正使用ガイド.
4)RMP, PMDA, https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400256/e7ad6c33-fcea-404e-a593-99b99d3f68e3/400256_1139700Q1029_002RMP.pdf.
5)てんかん診療ガイドライン2018, 日本神経学会, https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html.
6)小児けいれん重積治療ガイドライン2017, 小児神経学会, https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=36.
7)学校におけるてんかん発作時の坐薬挿入について, 文部科学省, 平成28年2月29日, https://www.mext.go.jp/content/20200525-mxt_tokubetu02-000007449_9.pdf.
8)救命救急処置の範囲等について, 厚生労働省, 平成26年1月31日, https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp140204-1-02.pdf.
9)よくある質問(会員限定), 武田薬品工業(株), https://www.takedamed.com/medicine/buccolam/faq.
10)ミダフレッサ静注0.1% 添付文書.
11)ダイアップ坐剤4・6・10 添付文書.
12)鎮静とは?, 看護roo!, https://www.kango-roo.com/learning/5562/.
13)倉田明子, ベンゾジアゼピン系薬剤による奇異反応:攻撃性,暴力を中心に, 臨床精神薬理11:253-259,2008, https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwiLz–wjLnvAhVTA4gKHeJJB8QQFjAAegQIAxAD&url=https%3A%2F%2Fwww.benzodiazepine-yakugai-association.com%2Fapp%2Fdownload%2F5718128066%2F%25E3%2583%2599%25E3%2583%25B3%25E3%2582%25BE%25E3%2582%25B8%25E3%2582%25A2%25E3%2582%25BC%25E3%2583%2594%25E3%2583%25B3%25E7%25B3%25BB%25E8%2596%25AC%25E5%2589%25A4%25E3%2581%25AB%25E3%2582%2588%25E3%2582%258B%25E5%25A5%2587%25E7%2595%25B0%25E5%258F%258D%25E5%25BF%259C%25EF%25BC%259A%25E6%2594%25BB%25E6%2592%2583%25E6%2580%25A7%25EF%25BC%258C%25E6%259A%25B4%25E5%258A%259B%25E3%2582%2592%25E4%25B8%25AD%25E5%25BF%2583%25E3%2581%25AB%25EF%25BC%2588%25E5%2580%2589%25E7%2594%25B0%25E6%2598%258E%25E5%25AD%2590%25EF%25BC%2589.pdf%3Ft%3D1533221486&usg=AOvVaw3CM7KEEDDpI2GG8q0wPUnV.
14)2020年8月27日 薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会 議事録, 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14748.html.
15)健忘, MSDマニュアル プロフェッショナル版, https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/07-神経疾患/脳葉の機能および機能障害/健忘.