新薬雑感:ネイリンカプセル

 

まずは基本情報

販売名 ネイリンカプセル100mg
名前の由来 爪(NAIL)に薬物が入る(IN)ことからNAILINと命名した
一般名 ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物
会社名 佐藤製薬(株)
販売提携:エーザイ(株)
薬効 トリアゾール系抗真菌剤
効能・効果 〈適応菌種〉皮膚糸状菌(トリコフィトン属)
〈適応症〉爪白癬
用法・用量  1回1カプセル 1日1回 12週間 経口投与

爪白癬ってこういう疾患

  • 皮膚糸状菌という真菌(カビ)が爪に感染したもの
  • 常時1000万人以上の患者がいると予測(足白癬と違い、季節変動がない)
  • 足白癬と比べて治療を受けている人が少なく、家庭内の恒常的な感染源となりうる

爪白癬は爪水虫という別名があるように、爪に出来た水虫のことです。
足白癬(水虫)を放置すると白癬菌が爪に侵入し、爪白癬を併発することが多く、約1,000万人の患者がいると推定されています。

爪白癬は痒くならず、多くは爪が白~黄色に濁って厚くなるなど見た目の問題に留まります。(酷くなると分厚くなった爪が靴に当たったり、歩きにくくなったりします。)
そのため治療を受ける人が少なく、家庭内の恒常的な感染源となってしまっている場合があります。9)

ネイリンってこういうくすり

  • 約20年ぶりに承認された経口爪白癬治療薬
  • エーザイで創製されたトリアゾール系抗真菌薬
  • 1日1回1カプセル 12週間経口投与
  • [注]CYP3A阻害作用あり

ネイリンは約20年ぶりに承認された経口爪白癬治療薬であり、国内初の国産経口爪白癬治療薬でもあります。
イトリゾールカプセルは1993年7月、ラミシール錠は1997年7月に承認されていますので、20年半振りの新薬ですね。

1日1回1カプセル、12週間連日経口投与という簡便な使用方法で、爪白癬の治療が可能です。

成分はラブコナゾールのプロドラッグである「ホスラブコナゾール」です。
ホスラブコナゾールは、経口投与後速やかに吸収され、ラブコナゾールに変換されます。

ネイリンは他のアゾール系抗真菌薬ほど強くはありませんが、CYP3A阻害作用を有しています。
よってシンバスタチンやミダゾラム等、CYP3Aで主に代謝される薬剤とは併用注意です。

既存薬と違う点は?

イトリゾールカプセルと違う点は?

ネイリンはイトリゾールカプセルと比べて…

  • 投与方法が簡便
  • 食直後投与などの制限がない
  • 併用禁忌・併用注意の薬剤が少ない
  • [注]適応は爪白癬のみ

イトリゾールカプセルと比較したネイリンの良い点は、投与方法が簡便で薬物相互作用が少ないところです。

イトリゾールカプセルを爪白癬に使う場合、1週間投与して3週間休薬を3サイクル繰り返す「パルス療法」を用います。
また、2号カプセル(長さ18.1mm)を1回4カプセル、食直後に飲む必要があります。6)

そのうえ、イトリゾールカプセルはCYP3A4およびP糖タンパクを阻害するため、かなり多くの薬剤と併用禁忌・併用注意となっています。6)
(多すぎて表に書くのを諦めました…詳細は添付文書をご確認ください!)

一方、ネイリンカプセルは1日1回1カプセルとわかりやすい用法ですし、服用タイミングも特に指定はありません。
治療期間もイトリゾールカプセルと同じ12週間です。3)

また、ネイリンはCYP3Aに対する阻害作用が比較的弱く、承認時点では併用禁忌の薬剤がありません。3)

注意点として、ネイリンは爪白癬の適応しか取得していません3)
よって、足白癬の治療には従来どおりイトリゾールカプセルやラミシール錠、外用抗真菌薬などを使う必要があります。

販売名
(成分名) 
 ネイリンカプセル100mg
(ホスラブコナゾール)
イトリゾールカプセル50
(イトラコナゾール)
 大きさ  3号硬カプセル
(長さ15.6mm)
 2号硬カプセル
(長さ18.1mm)
 適応  <適応菌種>
皮膚糸状菌(トリコフィトン属)

<適応症>
爪白癬
[適応菌種](略)
[適応症]
1. 内臓真菌症(深在性真菌症)(略)
2. 深在性皮膚真菌症(略)
3. 表在性皮膚真菌症(爪白癬以外)(略)
4. 爪白癬
 用法
(爪白癬)
 1日1回  1日2回 食直後
 1回投与量
(爪白癬)
 1回1カプセル 1回4カプセル(200mg)
必要に応じ適宜減量
 治療期間(爪白癬)  12週間  12週間(パルス療法
(1週間投与し、3週間休薬、これを1サイクルとし、3サイクル繰り返す)
 併用禁忌  なし  ピモジド、キニジン、ベプリジル、トリアゾラム、シンバスタチン、アゼルニジピン、ニソルジピン、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、エルゴメトリン、メチルエルゴメトリン、バルデナフィル、エプレレノン、ブロナンセリン、シルデナフィル(レバチオ)、タダラフィル(アドシルカ)、アスナプレビル、バニプレビル、スボレキサント、イブルチニブ、チカグレロル、アリスキレン、ダビガトラン、リバーロキサバン、リオシグアト
 併用注意  CYP3Aにより主に代謝される薬剤(シンバスタチン、ミダゾラム):併用薬の代謝が阻害される
ワルファリン:アゾール系抗真菌薬でINR上昇が報告されている
 多数

ラミシール錠と違う点は?

ネイリンはラミシール錠と比べて…

  • 治療期間が短い
  • 食後投与などの制限がない
  • 肝機能障害・血液障害の発現頻度が低い
  • [注]適応は爪白癬のみ

ラミシール錠と比較したネイリンの良い点は、治療期間が短く、肝機能障害の発現頻度が低いところです。

ラミシール錠を爪白癬に使う場合、6ヵ月程度の治療期間が必要とされています。4)

また、海外で死亡例が報告されていることから、肝機能障害および血液障害に関する警告が設定されています。
そのため、投与開始2ヵ月は月1回、その後も定期的な肝機能検査を行うこととされています。血液検査についても定期的に行う必要があります。7)

適応症に関しては、イトリゾールカプセルと同様ラミシール錠の方が広いです。

販売名
(成分名) 
 ネイリンカプセル100mg
(ホスラブコナゾール)
ラミシール錠125mg
(テルビナフィン)
 大きさ  3号硬カプセル
(長さ15.6mm)
 素錠
(直径9.0mm、厚さ3.7mm)
 適応  <適応菌種>
皮膚糸状菌(トリコフィトン属)

<適応症>
爪白癬
皮膚糸状菌(トリコフィトン属、ミクロスポルム属、エピデルモフィトン属)(略)による下記感染症。
但し、外用抗真菌剤では治療困難な患者に限る。
1. 深在性皮膚真菌症(略)
2. 表在性皮膚真菌症
  白癬:爪白癬、手・足白癬(略)
 用法
(爪白癬)
 1日1回  1日1回 食後 
 1回投与量
(爪白癬)
 1回1カプセル 1回1錠(125mg)
年齢、症状により適宜増減
 治療期間(爪白癬)  12週間 記載なし( 6 ヵ月4)
警告  なし 重篤な肝障害(肝不全、肝炎、胆汁うっ滞、黄疸等)及び汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されている。本剤を使用する場合には、投与前に肝機能検査及び血液検査を行い、本剤の投与中は随伴症状に注意し、定期的に肝機能検査及び血液検査を行うなど観察を十分に行うこと。
本剤の投与開始にあたっては、添付文書を熟読すること。
 禁忌 1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
1. 重篤な肝障害のある患者(肝障害が増悪するおそれがある。)
2. 汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少等の血液障害のある患者(血液障害が増悪するおそれがある。)
3. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

クレナフィンと違う点は?

ネイリンはクレナフィンと比べて…

  • 治療期間が短い
  • 有効性が比較的高い
  • [注]併用注意薬は多い

クレナフィンと比較したネイリンの良い点は、治療期間が短く、有効性が比較的高いところです。

クレナフィンやルコナック等の爪外用液は、爪が生え変わるまでの期間(約1年間)塗布し続ける必要があります。
一方、ネイリンやイトリゾールカプセルは12週間で治療が完結するため、比較的短期間で治療することができます。

また、治癒率も爪外用液に比べ高い傾向があります。
直接比較試験はしていないので単純に比較することは出来ませんが、内用薬の方が良く効くかなぁという印象を受けます。

ただし、クレナフィンやルコナックには併用禁忌・注意の薬がありませんので、併用薬が多い患者は爪外用液を選択する場合もあるかと思います。

販売名
(成分名) 
 ネイリンカプセル100mg
(ホスラブコナゾール)
クレナフィン爪外用液10%
(エフィナコナゾール)
 適応 <適応菌種>
皮膚糸状菌(トリコフィトン属)
<適応症>
爪白癬
〈適応菌種〉
皮膚糸状菌(トリコフィトン属)
〈適応症〉
爪白癬
 用法  1日1回 1日1回
 1回投与量
 1回1カプセル  罹患爪全体に塗布
  治療期間
  12週間  記載なし(治療は爪が生えかわり治癒するまでの期間(手の爪で半年〜1年、足の爪で1〜1年半)が必要)5)
有効性 【国内第3相試験】
投与開始後48週の完全治癒率
(投与期間:12週、観察期間:48週)

本剤群:59.4%(60/101例)
プラセボ群:5.8%(3/52例)*完全治癒:「被験爪の爪甲混濁部の消失」かつ「直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性」の症例
【国際共同第3相試験】
52 週目の完全治癒率
(投与期間:48週、観察期間:52週)

本剤群:17.8%(117/656例)
基剤群:3.3%(7/214例)*完全治癒率:感染面積 0%かつ真菌学的治癒(KOH 直接鏡検と真菌培養検査がともに陰性)の割合
 併用禁忌  なし  なし
併用注意 CYP3Aにより主に代謝される薬剤(シンバスタチン、ミダゾラム):併用薬の代謝が阻害される
ワルファリン:アゾール系抗真菌薬でINR上昇が報告されている
 なし

注意しておきたいことは?

注意

肝機能障害(重要な特定されたリスク)
消化管障害(重要な潜在的リスク)

注意すべき有害事象(RMP)(2018.5.9追記)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 肝機能障害 添付文書(重要な基本的注意、副作用、薬物動態)で注意喚起
重要な潜在的リスク 消化管障害 添付文書(副作用)で注意喚起
重要な不足情報 なし

肝機能障害

本剤は肝障害を有する患者は慎重投与です。
また本剤を投与する際には肝機能検査を実施するなど、観察を十分にすることとされています。3)

理由として、以下の点が挙げられています。2)
・第2相、第3相試験にて、軽度ではあるものの、イトリゾールと同様に肝機能検査値異常が認められていること
・第3相試験にて、投与中止に至った肝機能検査値異常が認められていること
・海外臨床試験にて、グレード3以上の肝機能検査値異常が認められたこと

 臨床試験 肝機能検査値異常の有害事象発現数3)
 第2相試験
 本剤100mg連投群(29例)
 γ-GTP 増加(8例)、肝機能検査異常(3例)
 第3相試験
 本剤投与群(101例)
 γ-GTP増加(16例)、ALT(GPT)増加(9例)、AST(GOT)増加(8例)

消化管障害

消化管障害については添付文書上で特に注意点はあげられていませんが、市販直後調査等で情報収集が行われることとなっています。2)

理由として、以下の点が挙げられています。2)
・第3相試験にて、腹部不快感が特徴的な事象として認められたこと
・既存のアゾール系抗真菌薬でも、副作用として消化管障害が挙げられること

 臨床試験 消化管障害の有害事象発現数3)
 第3相試験
 本剤投与群(101例)
腹部不快感(4例)、便秘(1例)、消化不良(1例)、びらん性胃炎(1例)

まとめ

本剤投与が有用な患者像

  • 禁忌以外の爪白癬患者
  • 治療期間を短くしたい患者
  • すでに服薬している経口薬がある患者
[hukidashi name=”りんご” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/ringo.png” type=”left lp”]個人的には第一選択薬でも良いかと思います。[/hukidashi]

投与期間が短いうえに治癒率も高いので、禁忌でなければ個人的には第一選択薬のひとつとして考慮しても良いのかなーと思います。
少なくともイトリゾールカプセル、ラミシール錠よりは先に考慮しても良いかと。

また、すでに経口薬を服薬している場合はそこに1日1カプセル足すだけですので、併用薬がある場合は、外用薬よりもネイリンの方が忘れなさそうです。

個人的には約1年間毎日かかさず爪にクスリを塗るのは、結構大変かなぁと感じます。
わたくし、ニベアクリームですら1週間くらいで飽きて塗らなくなったりするもんで…。

類薬の投与を検討すべき患者像

  • 足白癬を併発している患者
  • 肝機能障害や消化管障害のリスクを許容できない患者
[hukidashi name=”みかん” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/mikan.png” type=”right lg”]ネイリンには足白癬の適応はありません。[/hukidashi]

ネイリンは爪白癬の適応しかないので、1剤で爪も足も治したい!という場合はイトリゾールカプセルやラミシール錠を使う必要があります。

適応の広さという面では、ネイリンは既存内用薬にまったく及びません。
ですので、真菌症の併発状況によってはネイリンでは事足りない場合もあるかと思います。

また、もともと肝機能が悪い、消化管障害の既往例がある等で、リスクを許容することができない患者は外用液の方が良いかもしれません。
やっぱり新薬なので、現時点でわからないこと、これから新しくわかることもありますからね。
この辺は患者さんの病状によって判断いただくところかと思います。

 

というわけで、個人的には結構良いクスリかな~と思っているのですが、いかがでしょうか?
ポストネイリンの爪白癬治療は、ネイリンとクレナフィンの2択で良いんじゃなかろうかと考えております。

もし論文見つけたりMRさんから情報入手したりされましたら、Twitterで教えていただけると嬉しいです!

参考文献
1)経口抗真菌剤「ネイリンカプセル 100mg」医薬品製造販売承認取得のお知らせ, 佐藤製薬(株), http://www.sato-seiyaku.co.jp/newsrelease/2018/180119/.
2)審査報告書, PMDA,
http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180117001/300089000_23000AMX00012_A100_1.pdf.

3)ネイリンカプセル100mg, 添付文書, インタビューフォーム.
4)皮膚真菌症診断・治療ガイドライン, 日本皮膚科学会 ,
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913553_3.pdf.
5)治療にはどれくらいの期間が必要ですか?, クレナフィン.jp, 科研製薬(株),
http://clenafin.jp/product/faq.html.
6)イトリゾールカプセル50, 添付文書.

7)ラミシール錠125mg, 添付文書.
8)クレナフィン爪外用液10%, 添付文書.
9)皮膚科Q&A 白癬(水虫、たむしなど), 日本皮膚科学会,
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa10/index.html.