新薬雑感:リムパーザ錠

まずは基本情報

販売名 リムパーザ錠100mg・150mg
名前の由来 特になし
一般名 オラパリブ
会社名 アストラゼネカ(株)
薬効 ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬
効能・効果 白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
用法・用量 1回300mg 1日2回 経口投与 患者の状態により適宜減量

卵巣がんってこういう疾患

  • 卵巣に発生するがん
  • いまのところ有用な検診はない
  • 初回化学療法は、TC療法が強く推奨

卵巣がんは、その名のとおり卵巣に発生するがんです。
初期症状があまりなく、有用な検診もないという「どうやって気づけば良いんだ!」というがんです。
急激なおなかの張りや痛みなどの気になる症状がある場合には、早めの受診がオススメされています。5)

治療はまず手術を実施し、その後病期に応じて化学療法が実施されます。5)
化学療法は、プラチナ製剤のカルボプラチンとタキサン系微小管阻害薬のパクリタキセルを併用する「TC療法」が強く推奨されており6)、実際多くの患者に投与されているようです。7)

リムパーザってこういうくすり

  • 国内初のPARP阻害剤
  • プラチナ併用療法で奏効した再発卵巣がんに使用
  • 投与期間に制限はない

リムパーザは、再発卵巣がんの維持療法に使う薬剤です。

治療終了から再発までの期間が6ヵ月以上あいた再発卵巣がんのことを「プラチナ感受性卵巣がん」と呼び、初回化学療法と同様の治療(TC療法など)が実施されます。6)
リムパーザは、この2回目以降のプラチナ併用療法で奏効した患者に対し、再発までの期間を延ばす目的で投与されます。

臨床試験では、化学療法の最終投与から8週間以内に投与が開始されています。3)
投与期間には特に制限はなく、病勢が進行するか副作用で使えなくなるまで投与を継続します。3)

作用機序についてもっと詳しく!

リムパーザの作用機序は、「合成致死」という戦略に基づいています。

「合成致死」とは、「それ単独では致死性を示さない複数の変異が同時に生じることによって初めて生じる致死性。」のことです。(Weblio辞書より)
例えば、DNA修復機構のうち「相同組換え修復」と「塩基除去修復」は、合成致死の関係にあります8)
つまり「相同組換え修復」と「塩基除去修復」の両方が出来なくなった細胞は死ぬってことです。

リムパーザの場合は、このDNA修復機構の合成致死が、作用機序に関わっています。

卵巣がん(高悪性度漿液性癌)患者の約50%は、相同組換え修復機構に異常があるとされています。3)
相同組換え修復機構に異常があると、プラチナ製剤によるDNA架橋を修復できなくなるので、がん細胞が死滅します。
つまり「プラチナ感受性がある」がんであることが多いです。

そのため、プラチナ感受性がある(≒相同組換え修復機構に異常がある)卵巣がん患者に、リムパーザ(=塩基除去修復機構を阻害する薬剤)を投与すると、「相同組換え修復」と「塩基除去修復」の両方が破綻するため、「合成致死」が起こり、抗腫瘍効果が発揮されると推測されています。

説明が難しい~。
あの、メーカーさんの作用機序動画がとってもわかりやすいので、要会員登録なのですが、良かったら見てみてください!


参考
リムパーザの作用機序アストラゼネカ(医療従事者向け:要会員登録)

BRCA遺伝子変異検査は不要です

リムパーザはもともとBRCA遺伝子変異陽性卵巣がんを標的に開発された薬剤なので、「BRCA遺伝子変異の検査は要らないの?」と思われるかもしれません。

結論から言うと、卵巣がんに使う場合は不要です。
これは「白金系抗悪性腫瘍剤感受性」という指標をもって、BRCAnessな卵巣がんとみなしているからだと思われます。

「BRCAness」は、BRCA1/2遺伝子変異はないが相同組み換え修復機能が障害されている状態のことです。9)
結果としてBRCA遺伝子変異陽性の場合と似た状態となり、リムパーザのPARP阻害作用による合成致死が引き起こされると考えられています。10)

実際、海外第2相試験(19試験)では、BRCA遺伝子変異の有無に関わらず、PFSの延長が示されました。3)

患者群 PFS中央値〔ハザード比〕2)
海外第2相試験(19試験) 本剤投与群(136例):8.4ヵ月 〔HR:0.35(95%信頼区間:0.25~0.49)〕
プラセボ投与群(129例):4.8ヵ月
サブグループ解析
gBRCA遺伝子変異陽性集団 本剤投与群(53例):11.2ヵ月HR:0.17(95%信頼区間:0.09~0.31)〕
プラセボ投与群(43例):4.1ヵ月
gBRCA遺伝子野生型/意義不明の変異集団 本剤投与群(50例):8.3ヵ月HR:0.50(95%信頼区間:0.29~0.82)〕
プラセボ投与群(64例):5.5ヵ月

既存薬はありません

同じ位置づけの薬剤はありません。

いままでプラチナ系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で奏効した再発卵巣がん患者は、疾患進行まで追加治療をせず経過観察することとされ、推奨されている治療はありませんでした2)

注意しておきたいことは?

注意

骨髄抑制(重要な特定されたリスク)
間質性肺疾患(重要な特定されたリスク)
二次性悪性腫瘍(重要な潜在的リスク)
胚・胎児毒性(重要な潜在的リスク)
腎機能障害患者への投与(重要な潜在的リスク)

注意すべき有害事象(RMP)

リスク リスク最小化活動の内容
重要な特定されたリスク 骨髄抑制 添付文書(用法・用量に関連する使用上の注意、重要な基本的注意、重大な副作用)、患者向け医薬品ガイドに記載して注意喚起
間質性肺疾患 添付文書(重大な副作用)、患者向け医薬品ガイドに記載して注意喚起
重要な潜在的リスク 二次性悪性腫瘍 添付文書(その他の注意)に記載して注意喚起
胚・胎児毒性 添付文書(妊婦、産婦、授乳婦への投与)に記載して注意喚起
腎機能障害患者への投与 添付文書(用法・用量に関連する使用上の注意、慎重投与)に記載して注意喚起
重要な不足情報 なし

骨髄抑制

臨床試験で貧血、好中球減少症、血小板減少症の発現がプラセボ群よりも高頻度に認められたことから、特定されたリスクに設定されています。4)
添付文書には以下のように記載されており、定期的な血液検査を実施する必要があります。

重要な基本的注意:
貧血、好中球減少、白血球減少、血小板減少、リンパ球減少等の骨髄抑制があらわれることがあるので、本剤投与開始前及び投与中は定期的に血液検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。

重大な副作用:
骨髄抑制:貧血(29.3%)、好中球減少(9.7%)、白血球減少(9.4%)、血小板減少(8.8%)、リンパ球減少(2.4%)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には、本剤の休薬、減量又は投与を中止する等の適切な処置を行うこと。

また、副作用が出た際の減量基準も設けられています。

副作用 程度 処置 再開時の投与量
貧血 ヘモグロビン値がGrade3または4 ヘモグロビン値が9g/dL以上に回復するまで最大4週間休薬 1回目:減量せず投与
2回目:250mg 1日2回投与
3回目:200mg 1日2回投与
好中球減少 Grade3または4の場合 Grade1以下に回復するまで休薬
血小板減少 Grade1以下に回復するまで最大4週間休薬 減量せず投与
上記以外 Grade1以下に回復するまで休薬
臨床試験 血球減少等の発現数2)
国際共同第3相試験(SOLO2試験) 本剤投与群(195例):貧血 85例 好中球減少症 38例 血小板減少症 27例 他
プラセボ投与群(99例):貧血 8例 好中球減少症 6例 血小板減少症 3例 他
海外第2相試験(19試験) 本剤投与群(136例):貧血 31例 好中球減少症 7例 血小板減少症 5例 他
プラセボ投与群(128例):貧血 9例 好中球減少症 7例 血小板減少症 3例 他

間質性肺疾患

国内外の臨床試験でリムパーザとの因果関係が否定できない重篤な間質性肺疾患が認められ、死亡例もあることから、特定されたリスクに設定されています。4)
添付文書には、以下のように記載。

重大な副作用:
間質性肺疾患:間質性肺疾患(0.6%)があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には、本剤の投与を中止する等の適切な処置を行うこと。

臨床試験 間質性肺疾患の発現数2)
国際共同第3相試験(SOLO2試験) 本剤投与群(195例):3例
プラセボ投与群(99例):0例
海外第2相試験(19試験) 本剤投与群(136例):1例
プラセボ投与群(128例):1例

二次性悪性腫瘍

これは作用機序に伴う懸念事項です。
リムパーザが効くがんは、相同組替え機構が破綻している細胞(と推測されているの)ですが、これにリムパーザを投与するとさらに修復機構が破綻するので修復負荷が増え、二次性発がんが起こる可能性があります。4)

臨床試験結果だけをみると、発現率はプラセボ群とほぼ同様4)ですが、死亡例も出ていることから潜在的リスクに設定されたと考えられます。

ただし二次性発がんが起こった患者は、二次性発がんが起こりやすい他の因子(BRCA変異、白金製剤を含む化学療法の複数のサイクルによる前治療歴、DNA傷害剤による前治療歴)を有していた4)点は、注意が必要です。

臨床試験 二次性悪性腫瘍の発現数2)
国際共同第3相試験(SOLO2試験) 本剤投与群(195例):MDS/AML 2例 その他 1例
プラセボ投与群(99例):MDS/AML 4例 その他 1例
海外第2相試験(19試験) 本剤投与群(136例):MDS/AML 2例 その他 4例
プラセボ投与群(128例):MDS/AML 1例 その他 1例

※MDS:骨髄異形成症候群、AML:急性骨髄性白血病

胚・胎児毒性

ラットを用いた生殖発生毒性試験で、胚・胎児生存率の低下や胎児奇形の誘発が認められたため、潜在的リスクに設定されました。4)

腎機能障害患者への投与

薬物動態試験で腎機能障害の重症度に伴いリムパーザの曝露量増加が認められ、有害事象の発現率が増加する可能性が示唆されたため、潜在的リスクに設定されました。4)

他に注意したいところ

ココからはRMPに記載はないけれど、個人的に気になった点を…。

100mg錠と150mg錠は、切り替え不可です

これ薬剤師的にとっても注意なのですが、100mg錠と150mg錠は生物学的同等性が示されていません
(150mg錠よりも、100mg錠の方が溶出が速いそうです。2)
よって、300mgを投与する際に100mg3錠はダメです。必ず150mg2錠で投与します。3)

100mg錠の出番は、減量時のみとなります~。

CYP3A阻害薬・誘導薬と併用注意

リムパーザはCYP3Aの基質なので、阻害薬と併用すればリムパーザの血中濃度が上がりますし、誘導薬と併用すれば血中濃度が下がります。2),3)

ですので、CYP3A阻害薬との併用は可能な限り避けることを考慮し、やむを得ず併用する場合はリムパーザの減量などを検討します。2),3)

あ、グレープフルーツ含有製品も併用注意です!
リムパーザ中はグレープフルーツが入ってる食品は摂取しない旨、お伝えください。3)

添付文書には反映されていませんが、審査報告書に具体的な減量の目安が載っていたので引用します。2)
なお、通常用量は1回300mg 1日2回です。

7.R.5 用法・用量について
(前略)
・中等度の腎機能障害のある患者に投与する際には、200mg(100mg錠2錠)1日2回への減量を考慮すること。
・強力なCYP3A阻害剤を併用する際には200mg(100mg錠2錠)1日2回への減量を、中等度をCYP3A阻害剤を併用する際には、150mg(150mg1錠)1日2回への減量を考慮すること。

まとめ

使える人には使って良いのでは

[hukidashi name=”りんご” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/ringo.png” type=”left lp”]特にBRCA遺伝子変異陽性患者さんには、積極的に投与を検討しても良さそう。[/hukidashi] [hukidashi name=”みかん” icon=”/wp-content/uploads/2018/01/mikan.png” type=”right lg”]副作用の連絡は、服薬手帳が便利だよ。[/hukidashi]

リムパーザは、次の化学療法までの期間(≒PFS)を伸ばす力があります。
特にBRCA遺伝子陽性患者では、プラセボ群と比較してPFSを1年位延長するので、個人的には使える人には使った方が良いんじゃないかなと思います。
競合するようなクスリも無いですし。

患者群 PFS中央値〔ハザード比〕2)
国際共同第3相試験(SOLO2試験) 本剤投与群(196例):19.1ヵ月 〔HR:0.30(95%信頼区間:0.22~0.41)〕
プラセボ投与群(99例):5.5ヵ月

ただし、リムパーザ自体も悪心・嘔吐や貧血、疲労等の化学療法っぽい副作用を持っています。
特に悪心は国際共同第3相試験にて、66.7%(130例/195例)に発現しているので、吐き気止め等の対処療法の検討が必要かと。

副作用の連絡・共有には、服薬手帳が便利です。
短い診察時間・投薬時間に、副作用をあますことなく伝えるのは難しいので、日頃からメモしておくのが良いと思います。
かかりつけ薬剤師さんはぜひ患者さんにお渡しして、副作用管理にご活用ください。


参考
服薬手帳アストラゼネカ(医療従事者向け:要会員登録)

副作用に対して、どういうアドバイスをしたら良いのかわからーん!という方は、こちらの患者向けパンフレットがわかりやすいです。
吐き気・下痢・貧血・疲労に対する食事や生活の工夫が、可愛い絵と一緒に書かれています。
吐き気に耐える姿勢(体の右側を下にして横向きに寝て、体を丸める)、初めて知ったよ。


参考
患者向けパンフレットアストラゼネカ(医療従事者向け:要会員登録)

雑談:他のがん腫でも臨床試験中

リムパーザって、なんらかの機序で相同組換え修復機構が破綻しているがんなら何でも効くぜ!って感じがします。
ですので、色々ながんで臨床試験に挑戦しているようです。

乳がんは、BRCA遺伝子変異がある患者で臨床試験をしており、日本でも既に承認申請がされています。


参考
アストラゼネカとMSD 日本において2件目のオラパリブの医薬品製造販売承認を申請、開発の進展を加速アストラゼネカ

前立腺がんも、相同組み換え修復関連遺伝子変異陽性患者で試験してますね。
こちらの試験はイクスタンジやザイティガとガチンコ勝負なので、結果が気になるところ。


参考
新規ホルモン製剤による前治療が無効であった相同組換え修復関連遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺癌患者に対するオラパリブ(Lynparza)の有効性と安全性をエンザルタミド又はアビラテロン酢酸エステルと比較して評価する無作為割付け非盲検第3相試験(PROfound)臨床研究情報ポータルサイト

こちらは詳細わからず…。


参考
難治性小児悪性固形腫瘍患者を対象としたオラパリブ錠の第Ⅰ相試験(医師主導治験)臨床研究情報ポータルサイト

リムパーザちゃん、初見では乳がん卵巣がん専用の薬剤なのかと思っていましたが、他のがん腫でも使う道が開けそうです。
他に無い作用機序の薬剤ですので、現在良い治療法が無い色々ながんにも効いたら良いなーと、個人的には思っております。

 

参考文献
1)アストラゼネカのリムパーザ(オラパリブ)再発卵巣がん治療薬として国内製造販売承認を取得, アストラゼネカ(株),
https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2018/2018011903.html.
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180216001/670227000_23000AMX00022_A100_1.pdf.
3)リムパーザ錠100mg・150mg, 添付文書, インタビューフォーム.
4)RMP, PMDA, http://www.pmda.go.jp/files/000222742.pdf.
5)卵巣がん, がん情報サービス, https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/index.html.
6)卵巣がん, 癌治療学会, http://jsco-cpg.jp/item/22/index.html.
7)レジメン使用頻度データ 卵巣・子宮附属器の悪性腫瘍, 沢井製薬(株), http://med.sawai.co.jp/oncology/dpc/resume_data08.html.
8)肺小細胞がんや悪性リンパ腫などでみられるCBP遺伝子変異について合成致死に基づく新しいがん治療標的を発見, 国立がん研究センター, https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1209/index.html.
9)膵管腺癌でBRCAnessはオキサリプラチンを用いた治療の効果を予測する可能性【ASCO GI2017】,
がんナビ, http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/201701/549887.html.
10)阪埜浩司, 遺伝性乳がん・卵巣がんに対する分子標的薬, 家族性腫瘍 第16巻 第1号 2016年, https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0ahUKEwiJt-G86bjZAhVEebwKHb7jDwEQFggnMAA&url=https%3A%2F%2Fwww.jstage.jst.go.jp%2Farticle%2Fjsft%2F16%2F1%2F16_23%2F_pdf&usg=AOvVaw1xcdI-LkdAkKO3DFdzhrZt.
11)研究内容, 聖マリアンナ医科大学大学院 医学研究科 応用分子腫瘍学, https://www.marianna-u.ac.jp/t-oncology/about/index.html.