まずは基本情報
販売名 | シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAU・5,000JAU |
名前の由来 | 特になし |
一般名 | なし |
会社名 | 鳥居薬品(株) |
薬効 | スギ花粉症の減感作療法薬 |
効能・効果 | スギ花粉症(減感作療法) |
用法・用量 | 投与開始後1週間:1日1回1錠(2,000JAU) 投与2週間以降:1日1回1錠(5,000JAU) 舌下にて1分保持後、飲み込む。 その後5分はうがい・飲食を控える。 |
「名前の由来:特に無し」ってホントかな~。
シダトレンが「スギ(cedar)花粉に対する免疫反応を、寛容(tolerance)へ導くという意味からcedartolen」だったんだから7)、シダキュアは「スギ(cedar)花粉に対する免疫反応を、治療する(cure)という意味からcedacure」じゃないんかい。と思いますが。
ダニアレルギーに使うミティキュアも「名前の由来:特になし」だし、キュア(治療します!)とは言いづらいんでしょうか…。
スギ花粉症ってこういう疾患
- 日本国民の約6人に1人がかかるアレルギー疾患
- 治療には、対症療法とアレルゲン免疫療法がある
- アレルゲン免疫療法は、効果があれば長期にわたって症状を抑えられる可能性がある
いわずと知れた国民病、スギ花粉症は、国民の約6人に1人が罹患しているアレルギー疾患です。
国民の25%が花粉症に罹患、うち70%がスギ花粉症と推察されています。1)
花粉が身体に入ってくることで体内の免疫が花粉に過剰反応し、くしゃみ・鼻水・かゆみなどのアレルギー症状を引き起こします。1)
発症機序のイメージは、マンガ「はたらく細胞」の1巻に詳しく書いてありましたね。
ご存じない方はヒスタミンさんマスト細胞さんが可愛すぎるのでゼヒ見てください(ダイレクトマーケティング)。
またはアニメで放映されるのを待つのだ・・・。(5話が花粉症です!)
治療には大きく分けて「対症療法」と「アレルゲン免疫療法」の2つがあります。
対症療法は、抗ヒスタミン薬など体内のアレルギー反応を抑えるくすりを服用し、症状を抑える治療法です。
比較的すぐに効きますが6)、病気を根本から治す治療法ではないため、花粉症シーズンには毎年くすりを飲む必要があります。
一方、アレルゲン免疫療法は、根治治療に近い治療法です。
アレルギーの原因物質である「アレルゲン(スギ花粉症ならスギ花粉ですね)」を少量から投与し、からだをアレルゲンに慣らすことでアレルギー症状を抑えます。6)
長期間に渡ってくすりを飲み続ける必要がありますが、うまくいけば長期に渡って症状が抑えられる可能性があります。6)
アレルゲン免疫療法は、以前は治療薬を皮下に注射する「皮下免疫療法」が主流でした。
しかし、近年、治療薬を舌下に投与する「舌下免疫療法」が登場しました。6)
舌下免疫療法は、注射に比べ患者の痛みが少ないこと、自宅で服用できるため通院の負担が少ないこと等から、今後は注射に変わって主流になっていくと思われます。
シダキュアってこういうくすり
- 1日1回1錠投与のアレルゲン免疫療法用薬
- 年齢制限なく投与可能
- 常温保存可能
シダキュアは、アレルゲン免疫療法に用いる舌下錠です。
ザックリいうと、シダトレンの舌下錠バージョンです。
ただし、シダトレンと比べ維持期の用量が多いこと(シダトレンは製剤上の理由で高濃度製剤が開発できなかったそうです2))、年齢制限が無いこと、常温保存ができることなど、使い方は少し違います。
全体的にはシダトレンより使いやすそう。
既存薬と違う点は?
シダトレンと違う点は?
- 年齢制限がない
- 増量が簡便
- 保管方法が違う(シダキュアは室温保存)
- 効果は同じくらい
シダトレンと比較したシダキュアの良い点は、なんといっても年齢制限がない点です。
シダトレンは12歳以上にしか使うことが出来ませんでしたが、シダキュアは医師が舌下投与可能と判断すれば、年齢を問わず使用できます。
なお、臨床試験は5歳以上で実施しているため、メーカーは「5歳以上」と申請していたようです。2)
しかしPMDAが「医師が判断するから年齢制限は要らないよ~。」と判断し、年齢制限がなくなったようです。2)
以下、審査報告書から抜粋。
なお、本剤の投与対象は年齢により区分されるものではなく、規定された用法にしたがって舌下に投与することが可能であるか等を事前に確認した上で、医師が患者ごとに本剤適用の可否を判断するものと考えることから、用法・用量には年齢下限を一律に規定せず、下記のとおり整備することが適当と判断する。
<用法・用量>
通常、成人及び5歳以上の小児には、投与開始後…(略)
(取消線部削除)
また、増量が簡便な点もメリットかと思います。
シダトレンの増量期(1週目~2週目)は、以下のように結構複雑な用量設定になっています。
シダトレンの増量期の用量 | 1週目増量期 200 JAU/mLボトル |
2週目増量期 2,000 JAU/mLボトル |
1日目 | 0.2 mL | 0.2 mL |
2日目 | 0.2 mL | 0.2 mL |
3日目 | 0.4 mL | 0.4 mL |
4日目 | 0.4 mL | 0.4 mL |
5日目 | 0.6 mL | 0.6 mL |
6日目 | 0.8 mL | 0.8 mL |
7日目 | 1 mL | 1 mL |
特に1週目と2週目で使うボトルが違うところが難点です。
使うボトルを間違えるとアレルギー発現の危険性があるので、服薬指導をかなり念入りにする必要があります。
シダキュアは、1週目は2,000JAU錠1錠、2週目以降は5,000JAU錠1錠と、いずれの期間でも1日1回1錠なので、シダトレンに比べてかなり簡便で、間違えづらいように思います。
ついでにシダキュアは室温保存である点も嬉しいですね。
薬局も嬉しいですし、患者さん宅でも保管に困ることが少ないかなーと。
冷蔵庫は常にモノがあふれとるんや・・・(切実)
なお、有効性はシダトレンとほぼ同等とみられています。
直接比較試験をしたわけではありませんが、たまたま(?)シダキュアの臨床試験とシダトレンの製造販売後臨床試験が同時期に実施されていました。
その成績を比較した結果、シダキュア2,000JAUとシダトレン2,000JAUは同程度、5,000JAUではやや高い有効性を示すことが示唆されました。2)
販売名 | シダキュアスギ花粉舌下錠 |
シダトレンスギ花粉舌下液 |
規格 | 2,000JAU錠 5,000JAU錠 |
200JAU/mLボトル 2,000JAU/mLボトル 2,000JAU/mLパック |
用法 | 1日1回 舌下投与 1分保持し、飲み込む。 投与後5分はうがい・飲食を控える。 |
1日1回 舌下に滴下 2分保持し、飲み込む。 投与後5分はうがい・飲食を控える。 |
増量について | 投与後1週間:1回2,000JAU 投与2週目以降:1回5,000JAU |
増量期(1~2週目):表に基づいて増量 維持期(3週目以降):1回2,000JAU |
乳幼児への投与 | (制限なし) | 12歳以上 |
貯法 | 室温保存、気密容器 | 2~8℃保存、気密容器 |
注意しておきたいことは?
・ショック、アナフィラキシー(重要な特定されたリスク)
注意すべき有害事象(RMP)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
重要な特定されたリスク | ショック、アナフィラキシー | 添付文書(禁忌、用法・用量に関連する使用上の注意、慎重投与、重要な基本的注意、重大な副作用、過量投与)および患者向医薬品ガイドで注意喚起 医療従事者向け資材、患者向け資材の作成・配布、適正使用管理体制の構築 |
重要な潜在的リスク | なし | – |
重要な不足情報 | なし | – |
ショック、アナフィラキシー
アレルゲン療法は、アレルギーの原因物質を投与する治療法です。
なので、ショックやアナフィラキシーを発症する危険性を、常にはらんでいます。
といっても、国内第2/3相試験で重篤な全身性アレルギー反応は発現していません。
しかし、非重篤なアレルギー症状(咽頭刺激感(14.3%)、くしゃみ(3.1%)、そう痒症(2.3%)、悪心(0.5%)、じんましん(0.5%))などが見られたこと、本剤の作用機序を考慮すると重篤なアレルギー反応を誘発するリスクが否定できないことから、特定されたリスクに設定されました。3)
添付文書には、以下のように記載。
たくさん記載がありますが、シダトレンと一緒です。
【添付文書記載事項】
禁忌:
1.本剤の投与によりショックを起こしたことのある患者
2.重症の気管支喘息患者〔本剤の投与により喘息発作を誘発するおそれがある。〕用法及び用量に関連する使用上の注意:
2.初回投与時は医師の監督のもと、投与後少なくとも30分間は患者を安静な状態に保たせ、十分な観察を行うこと。また、ショック、アナフィラキシー等の発現時に救急処置のとれる準備をしておくこと。〔本剤はスギ花粉由来のアレルゲンを含む製剤であるため、アナフィラキシー等の発現のおそれがある。〕慎重投与:
1.本剤の投与、又はアレルゲンエキスによる診断・治療、あるいはスギ花粉を含む食品の摂取等によりアレルギー症状を発現したことのある患者〔本剤の投与によりアレルギー反応に基づく副作用を起こすおそれがある。〕
2.気管支喘息患者〔本剤の投与により喘息発作を誘発するおそれがある。〕重要な基本的注意:
1.本剤の投与により、アレルギー反応に基づく副作用、特にアナフィラキシー等の発現のおそれがあること、また発現した際の対処法について患者等に対して十分に説明し、理解を得た上で使用を開始すること。
初回投与時は、患者の状態を十分に観察し、その後も問診等により患者の状態を十分に把握し、アナフィラキシーを早期に認識しうる症状が認められた場合には、本剤投与の継続を慎重に判断し、症状に応じて休薬又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。2.本剤の投与にあたっては、事前に患者等に対して次の点を十分に説明、指導すること。
(1)本剤服用後30分、投与開始初期、スギ花粉飛散時期はアナフィラキシー等の発現に特に注意する。
(2)本剤を服用する前後2時間程度は、激しい運動、アルコール摂取、入浴等を避ける。〔循環動態の亢進により、本剤の吸収が促進され、副作用が発現するおそれがある。〕
(3)アナフィラキシー等が発現した場合の対処等を考慮し、家族のいる場所や日中の服用が望ましい。
(4)喘息発作時、気管支喘息の症状が激しいときは、本剤服用の可否について医師に相談する。
(5)急性感染症罹患時や体調が悪い場合は、本剤服用の可否について医師に相談する。〔体調が悪いときには本剤の服用により副作用の発現のおそれがある。特に急性感染症罹患時には喘息症状を発現するおそれがある。〕
6.他の減感作療法薬との併用の経験はないが、併用によりアナフィラキシー等のアレルギー反応を含む副作用の発現が増加するおそれがあることから、併用する場合には十分注意すること。
7.非選択的β遮断薬服用の患者への注意
本剤が投与されたときに、本剤による反応(アレルギー反応)が強くあらわれることがある。
また、本剤によるアレルギー反応の処置のためにアドレナリンを投与したとき、アドレナリンの効果が通常の用量では十分発現しないことがある。重大な副作用:
ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
ショック、アナフィラキシーがあらわれるおそれがあるので、観察を十分に行い、血圧低下、呼吸困難、全身潮紅、顔面浮腫・咽頭浮腫等の血管浮腫、蕁麻疹、喘息等の異常が認められたときには、投与を中止し、直ちに適切な処置を行うこと。過量投与:
1.徴候・症状:本剤の過量投与によりショック、アナフィラキシーを起こすおそれがある。
2.処置:ショック、アナフィラキシーを早期に認識しうる症状に注意し、適切な処置を行うこと。
まとめ
本剤投与が有用な患者像
- 新規に投与を開始するひと
- 12歳未満で、1分間飲み込まずにいられるひと
- 出張・旅行が多いひと
シダキュアは全体的にシダトレンよりも簡便ですし、効果も高い(といわれて)います。
なので、今から新規で始める場合は、シダキュアをお勧めします。
特に12歳未満の小児はシダトレンが使えないので、シダキュア1択になります。
ただし舌下に1分間保持しないと効果が出ないので、飲み込むのを我慢できる子は、シダキュアを検討しても良いかと思います。
また、出張や旅行などで家をあける事が多いひとは、常温保存で持ち運べるシダキュアが便利です。
アレルゲン免疫療法は3~5年の長期に渡って投与し続けるので、「部活動でよく遠征するようになった」とか「異動で出張が多い部署に配属された」とかの場合は、シダトレンから切り替えても良さそうです。
ただし、投与開始後1ヵ月位は副作用が出ることが多いので4)、切り替え時期はよく相談した方が良いかと思います。
出先で副作用が出ると大変ですし。
類薬の投与を検討すべき患者像
- すでにシダトレンを使用中のひと
類薬というかシダトレンが有用な患者像です。
シダキュアは新薬なので、1年は14日分しか処方できません。
なので、もうすでにシダトレンを使用していて、特に不便も感じておらずコンプライアンスも良好な患者さんの場合は、無理に変更する必要はないかと考えます。
シダトレンは、増量期はめんどうですが、維持期に入ってしまえば1回1パックなのでね。
すでに生活習慣に組み込まれているなら、そのままでも良いかと。
舌下錠の登場で、アレルゲン免疫療法の敷居はさらに下がったかなーという印象です。
年単位で時間のかかる根気が必要な治療法ですが、毎年花粉にお悩みの方は、専門医の指導のもと、始めて見ても良いのでは?と思います。
私ですか?私はまだOTCの抗ヒスタミン薬でコントロールできるレベルなので、もうちょっと耐えます。。。
2)審査報告書, PMDA, http://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20171018001/480306000_22900AMX00967000_A100_1.pdf.
3)RMP, PMDA, http://www.pmda.go.jp/files/000223898.pdf.
4)シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAU・5,000JAU, 添付文書, インタビューフォーム.
5)スギ花粉症に対するアレルゲン免疫療法薬「シダキュアスギ花粉舌下錠」新発売のお知らせ, 鳥居薬品(株), https://www.torii.co.jp/release/2018/20180524_1.pdf.
6)トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ, 鳥居薬品(株), http://www.torii-alg.jp/.
7)シダトレンスギ花粉舌下液200JAU/mL・2,000JAU/mLボトル、2,000JAU/mLパック, 添付文書.