個人的にびっくりしたので、調べた結果を共有します。
なお、公的機関の情報をまとめたのみです。
本当は論文を調べた結果や医師への提案方法とかもまとめられたら良かったのですが、そこまでの技術が無かったんじゃ…(ガクリ)。
もしこの記事を読んでフェブリクを飲むのが怖くなってしまった方は、自己判断で飲むのを中止する前に、まずはかかりつけの医師・薬剤師に相談してください。
事の発端:NIHS医薬品安全性情報にて知る
わたしは2月8日公開の医薬品食品衛生研究所(NIHS)医薬品安全性情報が初見だったのですが、どうやらFDAは昨年11月に既に注意喚起をしていたようです。
参考 FDA to evaluate increased risk of heart-related death and death from all causes with the gout medicine febuxostat (Uloric)[PDF]FDA上は英語なのでGoogle翻訳に突っ込むか、そっとスルーするかとして、医薬品食品衛生研究所が要約してくれた情報を見てみましょう。
参考 NIHS医薬品安全性情報Vol.16 No.03(2018/02/08)[PDF]国立医薬品食品衛生研究所Febuxostat[‘Uloric’]:心関連死のリスク上昇をFDAが評価中
【要約】
Febuxostatの安全性に関する臨床試験結果の予備的解析において,febuxostat[‘Uloric’]の使用群では,allopurinol(別の痛風治療薬)の使用群に比べて心関連死のリスク上昇が示されたことを,FDAは国民一般に注意喚起する。
FDAは2009年の[‘Uloric’]の承認時に,製造業者であるTakeda Pharmaceuticalsに今回の安全性試験を実施するよう要請していた。
今後,最終解析結果が製造業者から提出された後にFDAは総合的なレビューを実施し,新たな情報が得られれば更新情報を通知する予定である。
(略)
この安全性試験は,6,000人以上の痛風患者をfebuxostat治療群とallopurinol治療群のいずれかに割り付けて実施された。
主要アウトカムは,心関連死,非致死性心臓発作,非致死性脳卒中,心臓への血液供給不全により緊急手術を要するに至った状態の複合であった。
予備的解析では, febuxostat治療群ではallopurinol治療群に比べ,この複合アウトカム全体のリスク上昇は示されなかった。
しかしながら,各アウトカムを個別に評価した結果,心関連死および全死亡(原因を問わない)のリスク上昇が示された。【勧告】
医療従事者は,患者にfebuxostatを処方するか否か,またfebuxostatを使用中の患者で使用を継続するか否かを判断する際に,この安全性情報を考慮すべきである。
疑問や懸念のある患者は,担当の医療従事者に相談すべきである。
患者は自己判断で使用を中止せず,まず担当の医療従事者に相談すること。
調査1:フェブリクの審査報告書をみてみた
審査報告書では、P.75「心血管系有害事象」とP.88「心血管系リスクについて」でFDAが指摘したリスクに触れていました。3)
参考 フェブリク錠10mg・20mg・40mg 審査報告書[PDF]PMDA当時の判断をザックリまとめました。
- 日本人におけるフェブリク投与時の心血管リスクを評価するには限界がある
- 今後、海外の市販後安全性データや、フェブリクの心血管系リスクを評価するための市販後臨床試験の成績を注視する
- 国内の製造販売後調査で引き続き心血管系有害事象に関して情報収集する必要がある
調査2:フェブリクのRMPをみてみた
RMPを見てみると、心血管系の事象が「重要な潜在的リスク」に記載されていました。4)
重要な潜在的リスクとした理由をザックリまとめました。
- 国内で心血管系に関連する因果関係が否定できない有害事象が集積されている
- 痛風・高尿酸血症患者には心血管系リスクを有する患者が多く、本剤との因果関係は十分に示されていない
- 海外で心血管系イベントが増加したとの報告事例はあるものの因果関係は明らかとなっていない
「まだ本当にフェブリクが原因か良くわかんないから、潜在的リスクに記載しといたよ!」って感じですね。
RMP 安全性検討事項4)
リスク | リスク最小化活動の内容 | |
【重要な特定されたリスク】 | 肝機能障害 | 添付文書(慎重投与、重大な副作用)に記載。定期的な血液検査を注意喚起。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
過敏症 | 添付文書(重大な副作用)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
|
痛風関節炎(痛風・高尿酸血症適応) | 添付文書(用法・用量に関連する使用上の注意、重要な基本的注意)に記載。 | |
【重要な潜在的リスク】 | 腎機能障害 | 添付文書(慎重投与、その他の副作用)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
血液障害(血小板減少、白血球数減少等) | 添付文書(その他の副作用)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
|
心血管系の事象 | 添付文書(その他の副作用)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
|
甲状腺機能に関する事象 | 添付文書(重要な基本的注意)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
|
横紋筋融解症 | 添付文書(その他の副作用)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
|
【重要な不足情報】 | 腎機能障害患者における安全性 | 添付文書(慎重投与)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
肝機能障害患者における安全性 | 添付文書(慎重投与)に記載。 「市販直後調査※」からの情報提供を実施。 |
※がん化学療法に伴う高尿酸血症適応(すでに終了)
結語:やっぱり審査報告書とRMPは読んでおくべき
私は2018年にもなって「わぁ!初めて知った!」とワタワタしているわけなのですが、調査の結果、すでに2010年の承認時には判明していたリスクだった、ということがわかりました。
そうだったのか-!
添付文書とRMPの記載内容を比較した論文によると、「重要な潜在的リスク」の16.7%、「重要な不足情報」の15.7%は添付文書に記載が無かったとのことです。5)
よって、新しい薬(特に新有効成分)を採用する際や、副作用かどうか判断に迷う有害事象が出てきた場合は、審査報告書やRMPを読んでみた方が良さそうです。
そんな時間無いYOー!という方は当ブログを参考にしていただくか(宣伝)、2014年10月以降に承認された医薬品6)ならRMPの概要だけでも見ておくことをオススメします!
RMPの概要は、その薬剤のRMPの全容をA4 1枚にまとめたもので、各RMPの冒頭にあります。7)
↓こんな感じ
この1枚を添付文書とセットにしておくだけでも、副作用の発見に役立つかと思いますので、ゼヒゼヒ活用してみてくださいませ!
参考 RMP提出品目一覧PMDAなお、2014年10月以前に承認された医薬品は残念ながらRMPがありません。(今回のフェブリクのように効能が追加された場合は、RMPが作成されることが多いのですが。)
こういった品目は、今のところ審査報告書を読み解く位しか術が無さそうです…。
もし「ココ見れば添付文書に載っていない情報もあるよ!」という資料をご存じの方は教えてくださいませっ。
雑談:もし私がフェブリクを飲んでいたら妄想
調査結果を鑑みて、もし自分がフェブリクを飲んでいたらどうするかなぁ~とつらつら考えました。
考えた結果、以下の対応をすると思います。
1. 気になっている旨を医師・薬剤師に伝える
2. 服薬は当面継続する
3. 生活習慣の改善をがんばって、尿酸値が下がったら減量・中止を検討してもらう
気になっている旨を医師・薬剤師に伝える
私は循環器内科に通っているので、「注意してくれよ~」という意味をこめて主治医と薬剤師には伝えます。
口頭だと「また雑誌の特集か…」と思われそうなので、NIHS 医薬品安全性情報の該当部分を印刷して持って行きます。
「ご存じかも知れませんが、先日こういう文書を見まして~。ちょっと不安になりまして~。」みたいな感じで。
服薬は当面継続する
再検討していただいた結果「やっぱり飲んだ方が良いよ」となったら、くすりは飲み続けます。
(特に女性は)高尿酸血症下げておいた方が予後が良さそうなので、治療を中止することはしません。8)
薬剤の変更を提案することも考えたのですが、以下の理由で、現時点ではまだフェブリクを飲んでおこうかなぁと思います。
- アロプリノール:
1日2回は飲み忘れそう。一度別の薬で全身に蕁麻疹が出たことがあるので、SJSの発現率が高めのアロプリノールにちょっと抵抗がある。 - トピロキソスタット:
1日2回は(略)。発売から4年しか経ってないし、海外未承認薬なので、まだまだ知られてない副作用がありそう。
心血管イベントの件だけを考えると、アロプリノールの方が良さそうですけどね。8)
今後フェブリクと心血管イベントの因果関係が確定してきたら、アロプリノールに変えてもらうかも。安いし。
(フェブリクの市販直後調査・使用成績調査の結果が見つからなかったので、現状どの程度のリスクなのかがわからず…。)
SJSは怖いけれど、多分発症したらわかると思うので、確定した心血管イベントリスクよりはSJSの発症リスクを私は取ります。
トピロキソスタットに関しては「発売から何年経ったら、新薬の安全性リスクを許容できるか」というリスクベネフィットの話なので、ひとりひとり基準は違うかと思います。
私個人としては、トピロキソスタットは作用機序が他剤とちょっと違うこと、処方量(=使用した日本人患者)が他剤に比べて多くないこと、海外未承認であることを鑑みると、もうちょっと様子見したいなぁと考えています。
生活習慣の改善をがんばる
とは言ってもオクスリあんまり飲みたくないので、生活習慣の改善に本腰を入れます。
尿酸値を下げるためにやった方が良いこと・避けた方が良いことをザックリまとめました。8)
- 摂取カロリーを適切にする
- 乳製品を積極的に取る
- 1日2L~2.5L程度の水を飲む
- 週3回程度の軽い運動(有酸素運動)をする
[避けた方が良いこと]
- アルコールの過剰摂取(1日日本酒1合まで(ビールなら500mL))
- プリン体の過剰摂取(1日400mgを超えないように)
- 果糖・ショ糖の過剰摂取
- 過激な運動(無酸素運動は血清尿酸値の上昇を招く)
多分私は運動していなさそうなので、ウォーキングでも始めますかね…。
生活習慣の改善で尿酸値が下がったら、減量・中止等を検討してもらおうかな~と思います。
以上、わたしがフェブリク飲んでいたら妄想でした。
みなさまは、もし自分がフェブリクを飲んでいたらどうされますか?
2)各製品添付文書.
3)フェブリク錠10mg・20mg・40mg 審査報告書, PMDA,
http://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100023/470310000_22300AMX00419000_A100_1.pdf.
4)フェブリク錠10mg・20mg・40mg RMP, PMDA,
http://www.pmda.go.jp/files/000217020.pdf.
5)佐藤弘康他, 医薬品リスク管理計画における列挙リスクの添付文書記載との比較, Jpn. J. Drug Inform., 17(4):205-208(2016), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/17/4/17_205/_pdf.
6)医薬品・医療機器等安全性情報No.300「医薬品リスク管理計画」の実施について, PMDA, https://www.pmda.go.jp/files/000143744.pdf#page=3.
7)医薬品リスク管理計画書の概要の作成及び公表について, 薬生審査発0331第13号, 平成28年3月31日, http://www.pmda.go.jp/files/000211360.pdf.
8)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版 2012年追補ダイジェスト版, 日本痛風・核酸代謝学会, http://www.tukaku.jp/wp-content/uploads/2013/06/tufu-GL2.pdf.