2019年4月1日から添付文書の「原則禁忌」が廃止になります。
(既存薬は経過措置期間あり)
それに伴い、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で、原則禁忌の取扱いについて議論されています。
この記事では、2019年6月25日に上記調査会で検討された「原則禁忌から禁忌への移行が検討されている薬剤」についてまとめました。
原則禁忌が無くなる件については、下記記事をご参照ください。

目次
「原則禁忌」から「禁忌」へ移行した品目(2019.7.17更新)
2019年7月17日付で使用上の注意の改訂通知が発出され、旧添付文書の内容が変わりました。
参考 使用上の注意改訂情報(平成31年7月17日指示分)PMDA一般名〔主な販売名〕 | 原則禁忌から禁忌に移行する患者群 |
フェニレフリン塩酸塩 〔ネオシネジンコーワ注〕 エチレフリン塩酸塩 〔エホチール注〕 |
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 |
オザグレルナトリウム 〔注射用カタクロット、カタクロット注射液〕 〔キサンボン注射用、キサンボンS注射液〕他 |
重篤な意識障害を伴う大梗塞の患者 〔大梗塞の患者は出血性脳梗塞が発現しやすい。〕 |
スキサメトニウム塩化物水和物 〔レラキシン注用〕 〔スキサメトニウム注「マルイシ」〕 |
急性期後の重症の熱傷、急性期後の広範性挫滅性外傷、四肢麻痺のある患者 |
精製ツベルクリン 〔一般診断用精製ツベルクリン(PPD)〕 〔一般診断用精製ツベルクリン(PPD)1人用〕 |
・ツベルクリン反応検査においてツベルクリン反応が水ほう、壊死等の非常に強い反応を示したことのある者 ・上記に掲げる者のほか、ツベルクリン反応検査を行うことが不適当な状態にある者 *同じタイミングで、副腎皮質ホルモンが併用禁忌から併用注意へ移行しました |
詳細(2019.7.17更新)
フェニレフリン塩酸塩、エチレフリン塩酸塩
フェニレフリンとエチレフリンの「過敏症」に関する記載が、禁忌へ移行することになりました。1)
理由 | ・海外添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | 日本循環器学会:改訂案に対して異議なし。 |
太文字は変更箇所
禁忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者原則禁忌
(削除)
オザグレルナトリウム
オザグレルの禁忌と原則禁忌は、現状以下のとおりです。
このうち、原則禁忌の2(重篤な意識障害を伴う大梗塞の患者)が禁忌の2(脳塞栓症の患者)と同義であることから、禁忌に統合されることになりました。1)
現行の禁忌:
1.出血している患者:出血性脳梗塞,硬膜外出血,脳内出血又は原発性脳室内出血を合併している患者
[出血を助長する可能性がある。]
2.脳塞栓症の患者
[脳塞栓症の患者は出血性脳梗塞が発現しやすい。]
3.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者現行の原則禁忌:
1.脳塞栓症のおそれのある患者:心房細動,心筋梗塞,心臓弁膜疾患,感染性心内膜炎及び瞬時完成型の神経症状を呈する患者
[脳塞栓症の患者は出血性脳梗塞が発現しやすい。]
2.重篤な意識障害を伴う大梗塞の患者
[大梗塞の患者は出血性脳梗塞が発現しやすい。]
理由 | ・現行の添付文書における禁忌の記載に包含されると考えられるため。 |
関連学会の意見 | 日本脳卒中学会:改訂案に賛同する。 |
太文字は変更箇所
禁忌
重篤な意識障害を伴う大梗塞の患者、脳塞栓症の患者原則禁忌
(削除)
スキサメトニウム塩化物水和物
スキサメトニウムは、原則禁忌のうち「重症の熱傷」「広範性挫滅性外傷」「四肢麻痺」が禁忌へ移行することになりました。。1)
「緑内障の患者」がどこに行くかの記載が無かったのですが、多分「特定の背景を有する患者に関する注意」に行くのかなーと思います。
ジギタリスとの併用禁忌については、日本循環器学会が禁忌としないことを提案しています。
資料を見る限り併用禁忌のままかなーと思いますが、実際のところは使用上の注意の改訂を待ちたいと思います。
現行の原則禁忌:
1. 重症の熱傷、広範性挫滅性外傷、尿毒症、四肢麻痺、ジギタリス中毒の既往歴のある患者あるいは最近ジギタリスを投与されたことのある患者
[血中カリウムの増加作用により、心停止をおこすおそれがある。]
2. 緑内障の患者
[本剤には眼内圧亢進作用がある。]
理由 | ・海外添付文書で禁忌 ・ガイドラインで禁忌 |
関連学会の意見 | 日本麻酔科学会:改定案について適正であると判断した。
日本循環器学会:ジゴキシン製剤とスキサメトニウムの項目は禁忌としないことを提案する。 |
太文字は変更箇所
禁忌
急性期後の重症の熱傷、急性期後の広範性挫滅性外傷、四肢麻痺のある患者原則禁忌
重症の熱傷(急性期後の重症の熱傷を除く)、広範性挫滅性外傷(急性期後の広範性挫滅性外傷を除く)、尿毒症、ジギタリス中毒の既往歴のある患者あるいは最近ジギタリスを投与されたことのある患者
精製ツベルクリン
ツベルクリンはちょっとディスカッションがあったようです。
当初は以下のすべてが禁忌に移行する予定でしたが、関連学会の意見を踏まえて4と6だけが禁忌に移行することになりました。1)
当初「禁忌」への移行を検討していた「原則禁忌」の記載:
1.明らかな発熱を呈している者
2.重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
4.ツベルクリン反応検査においてツベルクリン反応が水ほう、壊死等の非常に強い反応を示したことのある者
5.副じん皮質ホルモン剤を使用している者
[「相互作用」の項参照]
6.上記に掲げる者のほか、ツベルクリン反応検査を行うことが不適当な状態にある者
関連学会の意見 | |
日本感染症学会 | 上記改訂案について、問題なし。 |
日本結核病学会 | ・ツベルクリン検査は結核感染の有無を調べるものであるので、予防接種であるBCGと同様に考えることは適当でない。
・海外添付文書における「禁忌」は著しい副反応が生じる場合と検査自体が全く無意味である場合が含まれているが、現行の「原則禁忌」にはこれに該当しない事項が含まれている。 ・よって、現行の「原則禁忌」の 4.及び 6.のみを禁忌とすることを提案する。 |
日本呼吸器学会 | 1.…発熱がある患者が禁忌であれば、診断に支障が生じる可能性がある。
2.…「重篤な急性疾患」の定義が示されておらず、禁忌とした場合、結核発症後の「急性期」の診断に支障が生じる可能性がある。 4.…ツベルクリン反応が水ほう、壊死等は「強陽性」と判定され、再検査のメリットよりもリスクが大きいと考えられ、行うべきではない。 5.…吸入ステロイド薬も禁忌に該当することとなり、現状にそぐわない。 6.…本項目の内容は不明確である。なお、本剤は製造工程でニワトリの卵を使用しており、卵アレルギーのある患者等では、注射直後から過敏症状としての掻痒、紅斑、発疹、蕁麻疹等があらわれることがあるので、このような既往のある者への再使用は慎むべきと考える。 |
日本小児科学会 | 現行の「原則禁忌」の 4.及び 6.のみを禁忌とする改訂案を提案する。 |
日本内科学会 | 上記改訂案について、特段の意見等なし。 |
また、副腎皮質ホルモンが併用禁忌から併用注意へ移行する予定です。1)
関連学会の意見 | |
日本感染症学会 | ・CDC(米国疾病予防管理センター)の資料に「プレドニン15mg/dayを一ヶ月以上投与している症例」についての記載がある例からも分かるように、プレドニン投与はツベルクリン反応の妨げにならないと一般的に考えられている。 |
日本結核病学会 | ・潜在性結核感染症治療を行う場合、副腎皮質ホルモンを少量投与されているが病態悪化のために副腎皮質ホルモンの増量や大量使用が追加されることもありうる。 この際、結核感染の検査(小児であればツベルクリン反応)を行って新たな結核治療を加えることになっている。 従って、併用禁忌にすることは不適当である。・結核の接触者健診の手引き(改訂第5版)に、小児(小学生以下)の場合にはツベルクリンの検査が用いられるとの記載がある。 健診対象者が治療目的で副腎皮質ホルモンを使用していることもありうる。 従って併用禁忌にすることは不適当である。 |
日本呼吸器学会 | ・副じん皮質ホルモン剤は免疫抑制作用があり、ツベルクリン反応検査に対して抑制的ではあるが、全身投与の場合であっても影響があることを理解した上での使用は考慮可能であり、併用注意の項への移項が望ましい。
・参考文献 1)ではステロイド剤投与中の肺結核診療について記載されており、ツベルクリン反応の陽転化が示されている。 ・参考文献 2)ではプレドニン換算15mg/日のステロイド剤を1カ月以上使用している者などではカットオフ値を下げることにより、診断への有用性が示されている。 |
日本内科学会 | 上記改訂案について、特段の意見等なし。 |
理由 | ・海外添付文書で禁忌 ・類薬添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | 日本感染症学会、日本結核病学会、日本呼吸器学会、日本小児科学会、日本内科学会:改訂案について、妥当と考える。 |
太文字は変更箇所
禁忌
ツベルクリン反応検査においてツベルクリン反応が水ほう、壊死等の非常に強い反応を示したことのある者上記に掲げる者のほか、ツベルクリン反応検査を行うことが不適当な状態にある者
原則禁忌
(削除)相互作用
併用禁忌
(削除)併用注意
副じん皮質ホルモン剤
プレドニゾロン等
(軟膏の注射部位以外の局所的塗布を除く。)
2019.6.30 公開
2019.7.17 使用上の注意の改訂通知の内容を追記