2019年4月1日から添付文書の「原則禁忌」が廃止になります。
(既存薬は経過措置期間あり)
それに伴い、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で、原則禁忌の取扱いについて議論されています。
この記事では、2019年3月11日に上記調査会で検討された「原則禁忌から禁忌への移行が検討されている薬剤」についてまとめました。
目次
原則禁忌が無くなる件のおさらい
なんでなくなるの?
全国の医師・薬剤師に理解度調査を実施したところ、人によって原則禁忌の位置づけの理解が違ったためです。
(半数が「原則禁忌は禁忌と同等」、もう半数が「原則禁忌は慎重投与・併用注意と同等」と回答)1)
そこで今回の改訂にて原則禁忌を廃止し、「禁忌」または「特定の背景を有する患者に対する注意(新設)」等に移行することになりました。1)
具体的にはどうなるの?
1. 「原則禁忌」から「禁忌」に移行するもの
今後「使用上の注意」の改訂通知が発出され、「原則禁忌」から「禁忌」に記載が移行します。2)
新添付文書だけでなく、現状の添付文書でも改訂される予定です。2)
(2019.3.28追記)
2019年3月11日に検討された品目について、使用上の注意の改訂通知が発出されました。
2. 「原則禁忌」から「特定の背景を有する患者に対する注意」に移行するもの
現状の添付文書では「原則禁忌」のままで、新添付文書になる際に「特定の背景を有する患者に対する注意」に記載が移行します。2)
こっちは旧添付文書と新添付文書で記載場所が変わるので注意。
「原則禁忌」から「禁忌」へ移行した品目(2019.3.28更新)
2019年3月28日付で使用上の注意の改訂通知が発出され、旧添付文書の内容が変わりました。
参考 使用上の注意改訂情報(平成31年3月28日指示分)PMDA一般名〔主な販売名〕 | 原則禁忌から禁忌に移行した患者群 |
アモバルビタール 〔イソミタール原末〕 セコバルビタールナトリウム 〔注射用アイオナール・ナトリウム〕 ベントバルビタールナトリウム 〔ラボナ錠〕 |
急性間歇性ポルフィリン症の患者 |
バルプロ酸ナトリウム 〔デパケン錠・R錠・シロップ・細粒〕 〔セレニカR錠・R顆粒〕 |
妊娠又は妊娠している可能性のある婦人 (片頭痛に使用する場合) |
ヒドロキシエチルデンプン70000 〔ヘスパンダー輸液〕 〔サリンヘス輸液〕 |
発疹等過敏症の既往歴のある患者 |
ペニシラミン 〔メタルカプターゼカプセル〕 |
骨髄機能の低下している患者 (関節リウマチに使用する場合) |
セフェム系抗生物質 ペニシリン系抗生物質 グリコペプチド系抗生物質 ペネム系抗生物質 カルバペネム系抗生物質 |
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 |
詳細(2019.3.28更新)
アモバルビタール、セコバルビタールナトリウム、ベントバルビタールナトリウム
バルビツール酸系催眠鎮静薬3剤は、原則禁忌のうち「急性間歇性ポルフィリン症の患者」が禁忌に移行しました。2), 3)
理由 | ・海外添付文書で禁忌 ・類薬添付文書で禁忌 ・ガイドラインで禁忌 |
関連学会の意見 | ・日本精神神経学会:改訂案に対して異議なし ・日本麻酔科学会:適正な判断だと考える |
【医薬品名】アモバルビタール、セコバルビタールナトリウム、ペントバルビタールカルシウム
[禁忌]の項に
「急性間歇性ポルフィリン症の患者〔疝痛や精神神経症状など本症の急性症状を誘発することがある。〕」
を追記し、[原則禁忌]の項の
「急性間歇性ポルフィリン症の患者〔疝痛や精神神経症状など本症の急性症状を誘発することがある。〕」
を削除する。
バルプロ酸ナトリウム
バルプロ酸の妊婦に対する投与は、一律に禁忌へ移行することに対して日本精神神経学会から意見が出ました。2)
一律に禁忌とすべきでない理由は、以下のとおり。
・諸外国でも一律禁忌とされているわけではないこと。*
・てんかん・双極性障害は若年で発症される方が非常に多く、妊娠が判明したからといって急に薬剤を切り替えることが不可能な場合が多いこと。
*例:
FDA(2016):
てんかん・双極性障害についてはカテゴリーD
(強力なリスクがありながらも妊婦に強力な利点があれば受容される)
片頭痛についてはカテゴリーX
(妊婦に対してリスクがいかなる利点を上回る)
EMA(2018):
片頭痛・双極性障害については「妊娠中に使用してはならない」
てんかんについては「妊娠中に使用してはならない。しかしながら、一部のてんかん女性患者においては中止が困難なことがあると認識されており、妊娠中に専門家の適切なケアの下に治療を継続しなければならないことがある」
というわけで、片頭痛に対して使う場合は「禁忌」、てんかん等に対して使う場合は「特定の背景を有する患者に対する注意」へ記載が移行しました。2), 3)
理由 | ・海外添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | ・日本てんかん学会:てんかんについて意見に賛同 ・日本精神神経学会:「躁病および躁うつ病の躁状態」に対し使用する場合は「禁忌」とすべきでない ・日本神経学会:片頭痛について意見に賛同 ・日本頭痛学会:片頭痛について意見に賛同 |
【医薬品名】 バルプロ酸ナトリウム
[禁忌]の項を
〈効能共通〉
「重篤な肝障害のある患者〔肝障害が強くあらわれ致死的になるおそれがある。〕」
「本剤投与中はカルバペネム系抗生物質(パニペネム・ベタミプロン、メロペネム水和物、イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム、ビアペネム、ドリペネム水和物、テビペネム ピボキシル)を併用しないこと。」
「尿素サイクル異常症の患者〔重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。〕」
と改め、〈片頭痛発作の発症抑制〉
「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」
を追記し、[原則禁忌]の項を
〈各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療〉
「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」
と改め、[妊婦、産婦、授乳婦等への投与]の項の妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に関する記載を
〈各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療〉
「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」
「妊娠中にやむを得ず本剤を投与する場合には、可能な限り単剤投与することが望ましい。〔他の抗てんかん剤(特にカルバマゼピン)と併用して投与された患者の中に、奇形を有する児を出産した例が本剤単独投与群と比較して多いとの疫学的調査報告がある。〕」
と改め、新生児及び出生児におけるリスク、動物実験の報告、授乳婦に関する記載を
〈効能共通〉
「二分脊椎児を出産した母親の中に、本剤の成分を妊娠初期に投与された例が対照群より多いとの疫学的調査報告があり、また、本剤の成分を投与された母親に、心室中隔欠損等の心奇形や多指症、口蓋裂、尿道下裂等の外表奇形、その他の奇形を有する児を出産したとの報告がある。また、特有の顔貌(前頭部突出、両眼離開、鼻根偏平、浅く長い人中溝、薄い口唇等)を有する児を出産したとする報告がみられる。」
「妊娠中の投与により、新生児に呼吸障害、肝障害、低フィブリノーゲン血症等があらわれることがある。」
「妊娠中の投与により、新生児に低血糖、退薬症候(神経過敏、過緊張、痙攣、嘔吐)があらわれるとの報告がある。」
「海外で実施された観察研究において、妊娠中に抗てんかん薬を投与されたてんかん患者からの出生児224例を対象に6歳時の知能指数(IQ)[平均値(95%信頼区間)]を比較した結果、本剤を投与されたてんかん患者からの出生児のIQ[98(95-102)]は、ラモトリギン[108(105-111)]、フェニトイン[109(105-113)]、カルバマゼピン[106(103-109)]を投与されたてんかん患者からの出生児のIQと比較して低かったとの報告がある。なお、本剤の投与量が1,000mg/日(本研究における中央値)未満の場合は[104(99-109)]、1,000mg/日を超える場合は[94(90-99)]であった。」
「海外で実施された観察研究において、妊娠中に本剤を投与された母親からの出生児508例は、本剤を投与されていない母親からの出生児655,107例と比較して、自閉症発症リスクが高かったとの報告がある[調整ハザード比:2.9(95%信頼区間:1.7-4.9)]」
「動物実験(マウス)で、本剤が葉酸代謝を阻害し、新生児の先天性奇形に関与する可能性があるとの報告がある。」
「授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。〔ヒト母乳中へ移行することがある。〕」
と改め、〈片頭痛発作の発症抑制〉
「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないこと。」
を追記する。
ヒドロキシエチルデンプン70000
ヒドロキシエチルデンプン(HES)70000の「過敏症」の記載は、類薬のHES13000〔ボルベン輸液〕で禁忌に設定されていることから、同様に禁忌へ移行しました。2), 3)
理由 | ・類薬添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | ・日本麻酔科学会:適正な判断だと考える |
【医薬品名】ヒドロキシエチルデンプン70000、ヒドロキシエチルデンプン70000・塩化ナトリウム・塩化カリウム・塩化カルシウム水和物・乳酸ナトリウム
[禁忌]の項に
「本剤及び本剤の成分に対し発疹等過敏症の既往歴のある患者」を追記し、[原則禁忌]の項の
「発疹等過敏症の既往歴のある患者」
を削除する。
ペニシラミン
ペニシラミンの「骨髄機能低下患者」の記載は、類薬のブシラミン〔リマチル錠〕で禁忌に設定されていることから、同様に禁忌へ移行しました。2), 3)
理由 | ・海外添付文書で禁忌 ・類薬添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | ・日本リウマチ学会:意見に賛同する |
【医薬品名】 ペニシラミン(50mg・100mg)
[禁忌]の項の〈関節リウマチ〉を
「血液障害のある患者及び骨髄機能の低下している患者〔再生不良性貧血等の重篤な血液障害を起こすおそれがある。〕」
と改め、[原則禁忌]の項の〈関節リウマチ〉の
「骨髄機能の低下している患者〔重篤な血液障害等を起こすおそれがある。〕」
を削除する。
セフェム系・ペニシリン系・グリコペプチド系・ペネム系・カルバペネム系抗生物質
抗生物質の「過敏症」に関する記載は、本剤の成分に関する事項が禁忌へ移行しました。2), 3)
類薬については旧添付文書は「原則禁忌」のままなので2), 3)、「特定の背景を有する患者に対する注意」に移行すると思われます。
理由 | (一部の薬剤について) ・海外添付文書で禁忌 ・類薬添付文書で禁忌 |
関連学会の意見 | ・日本化学療法学会:特に異論なし ・日本感染症学会:問題なし |
【医薬品名】セフメノキシム塩酸塩、セフチブテン水和物、セファクロル、セファゾリンナトリウム、セファゾリンナトリウム水和物、セファレキシン、セファロチンナトリウム、セフィキシム水和物、セフェピム塩酸塩水和物、セフォゾプラン塩酸塩、セフォチアム塩酸塩、セフォペラゾンナトリウム・スルバクタムナトリウム、セフカペンピボキシル塩酸塩水和物、セフジトレンピボキシル、セフジニル、セフタジジム水和物、セフチゾキシムナトリウム、セフテラムピボキシル、セフトリアキソンナトリウム水和物、セフピロム硫酸塩、セフポドキシムプロキセチル、セフミノクスナトリウム水和物、セフメタゾールナトリウム、セフロキサジン水和物、フロモキセフナトリウム、ラタモキセフナトリウム、セフォタキシムナトリウム
[禁忌]の項を
「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改め、[原則禁忌]の項を
「セフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改める。
【医薬品名】 セフロキシムアキセチル
[禁忌]の項を
「本剤の成分又はセフロキシムナトリウムに対し過敏症の既往歴のある患者」
と改め、[原則禁忌]の項を
「セフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改める。
【医薬品名】 バンコマイシン塩酸塩(注射剤)
[禁忌]の項を
「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改め、[原則禁忌]の項を
「テイコプラニン、ペプチド系抗生物質又はアミノグリコシド系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改める。
【医薬品名】 ベンジルペニシリンベンザチン水和物、ベンジルペニシリンカリウム、アモキシシリン水和物、アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム、アンピシリン水和物、アンピシリンナトリウム、アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム、スルタミシリントシル酸塩水和物、バカンピシリン塩酸塩、ピペラシリンナトリウム、アンピシリン水和物・クロキサシリンナトリウム水和物、アンピシリンナトリウム・クロキサシリンナトリウム水和物
[禁忌]の項を
「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改め、[原則禁忌]の項を
「ペニシリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改める。(注)現行、「本剤の成分に対する過敏症の既往歴のある患者」が禁忌とされている製剤を除く。
【医薬品名】 イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム、テビペネムピボキシル、ドリペネム水和物、パニペネム・ベタミプロン、ビアペネム、ファロペネムナトリウム水和物、メロペネム水和物
[禁忌]の項を
「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」
と改め、[原則禁忌]の項の
「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」
を削除する。
他にも検討中の薬剤があるようなので、議題に上がったら都度更新していく予定です~。
2)添付文書記載要領の改正に伴う原則禁忌の取扱いについて(平成30年度第12回安全対策調査会資料), 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000486504.pdf.
3)使用上の注意改訂情報(平成31年3月28日指示分), PMDA, http://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/revision-of-precautions/0348.html#select1.
2019.3.12 公開
2019.3.28 使用上の注意の改訂通知の内容を追記