都病薬の慢性便秘症の研修会に行ってきました。

本日、東京都病院薬剤師会のセミナーに行ってきたので、講義のメモを起こしてみました。

参考 慢性便秘治療薬に関して ~ガイドラインを踏まえて~ 東京都病院薬剤師会

ご講演は、横浜市立大学の中島先生です。
楽しかった~!

講義メモ

注意
講義を聴いたメモを元に作成しておりますので、間違っている部分があるかもしれません。
文責はわたし、小石まり子にあります。
間違っている部分を発見されましたら、ツイッターや当ブログの問合せページ等にて、ご指摘いただけると幸いです。

便秘は寿命を短くする

・「いきみ」が、くも膜下出血を誘発する。
・高齢者は「いきみ」によって血圧が上昇しやすい。(通常120mmHgでも、「いきみ」で150mmHgに上昇)
・エルビス・プレスリーの死因も便秘だった。(トイレで倒れ、心臓発作で逝去)
・非外傷性心停止の11%はトイレで発症。
・呼吸器疾患の治療も損ねる。(慢性呼吸疾患患者は、排泄時にSpO2が低下)

しかし、日本人にとって便秘は「秘め事」。
人知れずガマンしている人が多い。(特に高齢者の男性)

便秘ってなんだ?

・便秘は「排便回数の減少」かつ/または「排便困難」
・排便回数の減少:週3回以下
・排便困難:過度の怒責、残便感、不快感、頻回便
・治療方針は、患者の困っていることを取り除く
(患者は毎日出したいのか?すっきり出したいのか? 出れば良い。というわけではない。)
・Rome IV基準は、実臨床では使いにくい。(「4分の1超の頻度で強くいきんでますか?」って聞かれても・・・)

ガラパゴス化した日本の便秘症治療

・日本では、処方の9割は「酸化マグネシウム」か「刺激性下剤」。
・医療機関で適切な処方がされていない。(医師が大学で便秘について学ぶ機会はほとんど無い。)
・アメリカはPEG(ポリエチレングリコール)、繊維が主流。
マグネシウムはあまり使わないし、使ってもクエン酸Mg等を短期間。
FDAの対応:アロエ、カスカラを含むOTCは、刺激性下剤として認められなくなった。
センナ、ダイオウは、1週間の使用にとどめる。
・PEGは良く効き、安全性も高い(日本でも秋に発売される?)(追記:EAファーマが申請中の模様)
・現在使える浸透圧性下剤や刺激性下剤を使っても、患者の半数は固い便のまま。満足度も50%以下。

治療薬各論

酸化マグネシウム

・欧米ではあまり使われていないため、酸化マグネシウム自体のエビデンスレベルは低い。(PEGやラクツロースを含む「浸透圧性下剤」のエビデンスは高い。)
・eGFR<60の人は、控えた方が良い。
・胃酸で活性するので、食後に投与すると良い。
・PPIやタケキャブと併用すると、(胃酸が減るので)効かなくなることがある。

刺激性下剤

・刺激性下剤:センナ、センノシド、アロエ、ダイオウ、カスカラ、ピコスルファート、ピサコジルなど
・常用すると、耐性(効かない)、習慣性、依存性(止められない)が生じるため、頓用にすべき。(ピサコジルを1日60錠飲んでいた例も・・・)
・刺激性下剤では、快便は得られない。

ルビプロストン〔アミティーザ〕

・カマと違い、電解質異常は起こさない
・効き目が早い(投与一週間で、週の排便回数が2回から6回に!)
・欠点は悪心。悪心は若年女性で多いので、アミティーザは高齢男性に良い。
・便意が無いことがあるので、服用翌日は便意が無くてもトイレに行くことを説明。
・2日過ぎても出ないときのために、刺激性下剤を頓用で用意。

究極の便秘治療のコツ

・究極の便秘治療は、「完全排便」を達成すること。
・そのためには、ブリストルスケール4の便を目指す。
4にすれば、ほとんどの人が満足してくれる。(満足してくれない人もいるけど・・・)
・初回治療は緩下剤+お守りの刺激性下剤
→患者に、カレンダーへ排便日と便の形状を記録して貰う
→記録を見て、4の便になるよう処方を調整
→ゴールは完全排便

便秘の種類

・通過時間遅延型:女性に多い(プロゲステロンが大腸の動きを抑える)
・通過時間正常型:ダイエットの影響や、子どもに多い
・・・ダイエット時、便のかさが少ないために便秘になり、リバウンド後も便秘のまま等。
子どもの便秘は、便秘気味の親が子どもをトイレに行かせないことで起こることが多い。(子どもは日に何回もトイレに行くのが普通だが、親がそれを理解できず、「トイレに行きすぎている」と思ってしまう等)
・排出障害型

・便秘患者の約30%は便意を感じにくい。
・ゆえに、便秘患者の下痢は深刻な副作用。(便意が無いので、下痢だと漏らす可能性が・・・)
・なので、「下痢になったら一回下剤の服用を止めて、おさまったら半量で再開してください。」等と伝えている。

グーフィス

注:今回の研修は、持田さんが協賛でした。

・胆汁酸は、身体の中の便秘薬。食事によって分泌され、便の形を整える作用がある。
・胆汁酸には水分分泌作用と、結腸運動の促進作用がある。
・また、胆汁酸は直腸の知覚閾値を下げる(便意に敏感になる)
・副作用は腹痛が多い。
「おなかが痛くなるので、痛くなったら一旦服用を止めて良いですよ。」「量を減らして良いですよ。」と言っておく。
・服用後1年で、患者全体の1/3が5mg/日、1/3が10mg/日、1/3が15mg/日になる。(国内長期投与試験)

適切な排便の姿勢は?

・前かがみ35度。背の低い人は足置きを使う。
・和式トイレの姿勢も良い。

質疑応答

Q.整腸剤を併用するのはどんなときですか?
A.便の固さの微調整に使うことが多い。

Q.食物繊維を取ると、逆に便秘になる人がいます。
A.中等症以上の結腸通過遅延型の人は、繊維を取ると大腸が動かなくなって便秘が悪化する。
そのような場合は、今までは刺激性下剤を使っていた。今後はグーフィスも良いかも知れない。
カマはダメ(お腹が張る)。

Q.刺激性下剤を長期に渡って使ってきた患者は、どうすれば良いですか?
A.軽症だったら、医師の熱心な説得と患者の協力があれば、長い期間をかけてゆっくり他の下剤に切替えられるかもしれない。
習慣になっている人は、切替えは難しい。

Q.バリウムが上手く排出されない人は、どうすれば良いですか?
A.ラキソベロンやプルゼニド1回投与で出ない人は、緩下剤を追加していくしかない。(バリウムは難しい・・・)
ただ、最近はあまりやっていない。一部の健康診断などではまだ実施しているようだが、今後は減っていくのではないか。

りんご
グーフィスどうかな~と思っていたけれど、意外と好評価でした。
ただ新しい薬(海外未発売)なので、今後評価が決まってゆくのではないか・・・とのことです。
みかん
刺激性下剤の取扱いは難しいんだなぁと再認識しました。
常用しかけている患者さん・お客さんには、便秘外来を紹介しても良いのかも、と思いました。